母乳のあれこれ 38 <母乳量を計算する>

新生児を見ていると、「計算通りにはいかない」がたくさんあります。


排泄量(out)のほうが摂取量(in)より絶対に多かったはずなのに、思ったほど体重が減っていない場合があることを前回の記事で書きました。


生後2〜3日を過ぎると、これだけ飲んだはずなのに思ったほど体重が増えていないとか、それほど母乳が出ていなさそうなのに体重が増えているなど、本当に不思議です。



「これだけ飲んだはず」とお母さんやスタッフが認識する状況として、「1時間も吸っていた」とか「一日に十数回の頻回直母(ちょくぼ)だったし、うんちやおしっこの回数も量も増えていたので、絶対に飲んでいるはず」というあたりが多そうです。


どれだけ飲んだのか知りたい。
そう思いたくなるのは仕方がないかもしれません。


哺乳瓶でミルクや搾乳を飲ませる場合には、飲んだ量が数値としてわかるのですが、直母(直接吸わせること)はどれだけ飲んだのかわからないことで、お母さんもスタッフも不安になりやすいのもわかります。


そこで、きいろい月さんのコメントにあるような方法が編み出されたのでしょう。

ひたすら黙々と赤ちゃんの体重を測っては授乳し、また体重を測り母乳を記入する日々。


まだこの方法をお母さん達にさせている施設があるのかと、ちょっとびっくりしたのでした。


<哺乳量測定法の是非>


1980年代終わり頃に助産師学校で使用した教科書に、この直母授乳の測定方法について書かれています。


哺乳量測定法


1. オムツ交換をした後、衣服を着せたまま体重を測るーAg
2. 授乳する
3. そのままおむつをとりかえず、1と同条件で体重を測るーBg
4. B-A=1回哺乳量


たしかに、「10g増えていた」「40gも飲んでいた」とわかることがあります。
反面、「30分も吸わせたのにゼロだった」とか「2gしか増えていない(2gしか母乳がでていない)」と落胆させることもあります。


ですから教科書では以下のように書かれています。

 母乳分泌量は1日のうちで変動も激しいことが知られており、新生児もいつも同量飲むわけでもない。哺乳量は一昼夜測定して初めて正しい把握ができるが、それで母親をくたびれさせたり神経質にさせてはいけない。
 特に、まだ乳汁分泌量の少ない母親に、少なかった哺乳量の数値をつきつけることは、自信喪失につながり、人工栄養に拍車をかけることになるとGrundy(英)は警告している。

低出生体重児や体重減少が著しい場合などは参考のために哺乳量測定をしても、それ以外はしないほうがよいというニュアンスで書かれています。



30年ほど前の教科書ですが、この部分は今でも本質的なことが書かれていると思います。
ただ、「母乳分泌量」というとらえ方からは、現在もまだなかなか抜け出せていないようです。



ところで、この教科書に興味深いことが書かれていました。

感量1〜5gの体重計を用いる。重錘秤またはデジタル式のほうが正確である。

そうそう、新生児用の体重計も当時は、デジタル式だったけれど5g単位のものだった記憶があります。
それだと、3g増えていてもゼロにされてしまったことでしょうね。


哺乳量測定というのは、新生児や乳児の体重計が開発されたからできた方法であって、1970年代以降なのでしょうか。



「重錘秤」って何か検索したら、おもりを調節しながらの秤のようです。測定するだけで大変そうですが、そこまでしても数字で確認したくなるのが「母乳量」だったのかもしれません。



卒業後は私も、積極的に母乳量を測定する施設としない施設それぞれで働いてみましたが、今はわたし自身は全く測定はしません。


その理由は、新生児や乳児にとっては「どれだけ飲んだか」だけではないなにかもっと違う生活のペースや、初産と経産の赤ちゃんの生後2〜3週間までの変化の違いがあるのだと思えてきたからでした。
1回の母乳量にこだわっていると、新生児の変化の全体像を見失うのではないかと思います。




「母乳のあれこれ」のまとめはこちら