「助産師の開業権とは何か」まとめ

助産師は開業権がある」
そう教わった助産師が実際にどれくらいいるのかわかりませんが、もしかしたらほとんどの助産師かもしれません。


私が助産師学生だった約30年ほど前、看護師といえばまだ病院・診療所の中で働くことが一般的でした。
そんな時代に、看護職の中で唯一、助産所という自分の施設を持つことができ(自営業になると言い換えられるでしょうか)、そしてさらに助産所や自宅分娩として「正常なお産を助産師だけで介助することができる」のですから、看護職の中では特別な存在のように感じさせるひと言でした。


ちょうど「自然なお産」運動の中で開業助産所が再び注目され始めていたので、私と同年代の助産師なら、「いつかは開業してみたい」と思ったことがあるのではないかと思います。


それから数年もたたないうちに、時代は大きく変わり始めました。
高齢化社会と自宅で最期まで過ごしたいという要望に答えるために、訪問看護ステーションが設立され始めました。
高齢者医療やこの訪問看護ステーションに関しては不勉強なのですが、私が勤務していた総合病院でこうした訪問看護を耳にしたのが1990年代前半だったような記憶があります。


その時に、「看護師も独立した事業所を開設できるのであれば、助産師の『開業権』って何だろう」と疑問に持ち始めました。


もちろん、訪問看護ステーションでは医師の治療方針に基づいた看護なのですが、助産所も分娩を取り扱うためには嘱託医が必要(自宅分娩は嘱託医がいらないという不思議な棲み分けはあるのですが)ですし、現代の産科の診療方針に従って分娩介助をするわけですから、訪問看護と同じではないかと思います。


むしろ、常に医師や病院と相談し合いながら訪問看護を実践できるシステムに、助産所のほうが見習うことが多いのではないかと感じました。


あの当時、助産所訪問看護ステーションのように、分娩施設と連携をはかれるように変化していたら、つまり標準的な産科医医療に基づいて協力しあえる関係に変化していたら、助産所の業務内容も社会のニーズに応じたものになり、現在の「産後ケア」のシステムはもっと合理的になっていたのではないかと思います。



ブログを始めてから、「助産師の開業権って何だ?」と気になったことを書き始めましたが、結局は「権」というほど明確な法律もなにもない助産師の世界のプロパガンダのひとつなのではいかと思うようになりました。



「正常なお産は助産師の手で」からアドバンス助産師まで、たかだか1世紀ほどの助産師の中に根強くあるイデオロギーのために。


医療の変化に合わせて、その時代に必要なケアを考えて行かなければ、イデオロギーの強い集団は社会からも必要とされなくなるだろうと思います。


「開業権」と言う言葉へのこだわりはそろそろ捨てて、ぞれぞれの時代に必要な妊娠・出産・産後ケアに対応する専門家へとシフトしたほうがよいのではないかと思うのですけれど。



1. 助産師の「開業権」とは何か
2. 開業権と開業届け
3. 全国の助産所数と分娩件数
4. 助産所数の推移と分娩以外の業務
5. 助産所業務と料金
6. 母乳相談、乳房マッサージ
7. 乳房マッサージの歴史
8. 家庭分娩
9. 更年期相談
10. 母乳相談の功罪
11. 「開業」にこだわりすぎたために見失っているのでは