「車いす対応バスなのに『次に乗ってくれ』 運転士『拒否』で40分待ち、『障害者は客として認識されていないのか』」(JーCASTニュース、2019年7月14日)というニュースを見かけて、まず思い浮かべたのがあの日のことでしたが、「乗車拒否」までする状況はどんなものなのかと気になり、読んで見ました。
読後感は子連れで議会に出席の時のニュースと同じで、「あらかじめそこには観る人の感情を揺さ振ることで、強い主張を社会に広げる意図」を感じました。
*車いすでのれるバスが決まっている*
「拒否された」状況が以下のように書かれていました。
大津市の瀬田駅から大学に向かうバスで12時1分発。だが、運転士から「車いすで乗れるバスは決まっている」「次のバスに乗ってくれ」といわれ、車いすユーザーが乗車できる設備のある「ノンステップバス・ワンステップバス」のみのダイヤが書かれた時刻表を示された。同時刻表は同社サイトに掲載されていなかった。見ると、次のバスが来るのは12時46分。40分以上待つことになる。
それに対して、「拒否された」と感じた方のとらえ方が取材されていました。
「バス会社としては、車いす対応のバスの時刻を決めている。そのバスに乗ってくれたら、きちんと乗せるのだから差別ではない、という見解だと思います。
車いすユーザーが全くバスに乗れなかった時代、物理的にも安全に乗れるバスがなかった時代から、当事者の働きかけや技術者の努力もあって、少しずつ改善してきた歴史があります。だから、このバス会社が『 全部は無理だけど、確実に乗れるバスを用意して、この時刻なら乗れますよという時刻表を作った』経緯自体は、仕方ないというか、当初は良かったのだと思います。
しかし、おそらくその後、車いすで乗れる『ノンステップバス、ワンステップバス』が増えていたにもかかわらず、この時刻表を変えることなく、運転士全員に必要な研修を行っていなかったことは、明らかに問題だと思います。ワンステップバスに乗車してもらう際の操作方法は難しいものでもありません。
「確実に(車いすが)乗れるバスの時刻表」がわかりにくく、また大半がノンステップバスになってもその時刻表通りのままにしていることあたりを問題と感じられたのでしょうか。
*なんだかつじつまがあわない*
であれば、「拒否された」「差別された」という言葉でSNSで広げてしまう前に、直接、バス会社に改善を求めるという選択もあったのではないかと思いました。
もし、この地域のバス事情を知らない方だったら、「拒否された」と感じて怒りを感じることもあるかもしれません。
ところが上で引用した発言は、この地域の大学で障害を専門に教えている方ということを知った時点で、なんだかつじつまの合わなさを感じたのでした。
当然、あらかじめその時刻表の存在を知っていたのではないかと。
バスの運転士さんは個人の判断や選択で、会社のルールを無視するわけにはいかないことでしょう。
どのような職場もそうですが、個人をスケープゴートにして何かを変えるやり方、あるいはその対応のまずかった点から何かを変えさせる方法というのは、結果的にその職域を萎縮させていくことになりかねないと、医療現場を見ても思います。
車いすの方も安全に乗せるためのリスクマネージメントという点で、「確実に乗せられるバスを確保する」ことを決めたバス会社の判断は、優れていると私には見えました。
地域差もあると思いますが、路線バスに乗ると大半が高齢者の時間帯があります。
優先席どころか普通の座席も高齢者ばかりで、座れずに立っている高齢者の方もいます。車いすのスペースになる座席を空けられない状況に、バス会社も苦慮しているのかもしれません。
老いるというのは障害を負うことなのだという実感を感じるこの頃ですが、一見わかりにくい心身の障害を持つ人は、バスの中にもたくさんいらっしゃることでしょう。
誰もがいつでも安全に安心して利用できるという究極の理想と現実で、どのように折り合いをつけるか。
社会の感情を揺さぶり、自分が良いと思うことを闘争的に伝えようとする方法は、かえって溝を深めてしまうのではないかと、このニュースを読んで心配になりました。
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