正しさより正確性を  19 ポロリと言ったことが広がりやすい

「特集 小児の栄養」の「乳児期の栄養」は概ね基本的なことが書いてありましたが、引っかかる箇所がありました。

母乳栄養の「主な利点」に以下のように書かれていたことです。

1.  消化吸収がよく代謝への負担が少ない

2. 免疫機能を向上させる

3. 顔全体の筋肉やあごを発達させる 

 

何に比して「顔全体の筋肉やあごを発達させるのか」と考えれば、「人工栄養を哺乳瓶で飲ませたこと」と普通は考えると思います。

ところが、その本文中の「人工栄養」には特に利点も欠点も書かれていませんでしたし、筆者自身が「その後の咀嚼運動は獲得形質である。このため咀嚼運動の発達を促すような離乳食の提供が求められる」と書いていますから、本格的な時期は離乳食からという認識なのだと思います。

 

このさらりと書いてある「母乳の利点」ですが、今年改訂された「授乳・離乳の支援ガイド」にはどのように書いてあるか読み直してみました。

16ページに「《母乳(育児)の利点》」として以下のように書かれています。

母乳には1.乳児に最適な成分組成で少ない代謝負担、2. 感染症の発症および重症度の低下、3.小児期の肥満やのちの2型糖尿病の発症リスクの低下などの報告がされている。 

 

3について 欄外では「完全母乳栄養児と混合栄養児との間に肥満発症の差があるとするエビデンスはなく、乳児用ミルクを少しでも与えると肥満になるといった表現で誤解を与えないように配慮する」とあり、1と2に関しても状況により適切にミルクを使用することで赤ちゃんに最適な栄養方法になるということであり、少々まどろっこしい書方ですね。

 

いずれにしても、母乳栄養で「顔全体の筋肉やあごを発達させる」と断言できるような話でもないことでしょう。

母乳の授乳でも哺乳瓶で飲んでいるかのようにあっという間に終わる経産婦さんの赤ちゃんを見ているだけでも、哺乳瓶と直接授乳での差を比較するのは難しそうです。

 

むしろ、あの「美味しい母乳を飲んでいる赤ちゃんの特徴」あたりが社会の中に亡霊のように漂っている印象です。

 

「専門家として何か体裁を繕わなければ」と、思いついたことをポロリと言ったことが案外広がって残りやすいものなのかもしれませんね。

 

 

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