シュールな光景 13 「胎児期から始まる食育」

母の面会には、お昼ご飯を持って行きます。

ちらし寿司が好きなのは母も私も同じだったのですが、半世紀近く離れて暮らしているとここまで好みに違いが出るのかと驚くこともあります。私が「これなら絶対に母も好きそう」と思って買っていっても、母の口に合わないこともしばしばあります。

 

両親はそれぞれ生まれ育った場所が異なり、相当な味覚の東西南北差があるのですが、そのはざまで育った私はどちらの味も大丈夫だけれど、どちらかというと父寄りになりました。

 

「家庭の味」なんていっても、そんなものですね。

 

*「特集 知って起きたい小児の栄養」*

さて、ときどきふらりと立ち寄る書店の周産期医療のコーナーで、「小児科臨床 4月号 特集 知っておきたい小児の栄養」(日本小児医事出版社、2019年)が目に入りました。パラパラとみて見ると、「乳児期の栄養」「母乳栄養と食育」「人工乳の種類と栄養」「栄養不足と脳の発達」「乳幼児期の体重増加不良」といった目次にひかれて購入しました。

 

産科施設ではどうしても「母乳が出ているか」「授乳方法は母乳かミルクか」という大人側の視点からの栄養への関わり方が多く、目の前の赤ちゃんの今必要な栄養は何か、今後どのように成長発達していくのかという少し長い目でのとらえ方ができにくいものです。

 

とりわけ、生後4週間までの新生児期の授乳の難しさは、多くの周産期関係者が経験しているはずなのに、なかなかその観察が言語化されていないのではないかと思います。

 

退院時には母乳もそこそこ出ていたので「母乳中心で大丈夫そう」とアドバイスしたら、その後体重が横ばいのままとか、生理的黄疸のピークがゆっくり出て体重が減ってしまった赤ちゃんとか。

あるいは初産と経産の赤ちゃんの違いとか、経験的に感じている何かがそろそろ表現されてきたかと期待して購入しましたが、まだそれほど目新しいことは書かれていませんでした。

 

まあ、ヒトの新生児をただひたすら観察することも試みられていないので、拙速に理論化を求めてはいけませんね。

 

*「母乳栄養と食育」*

 

その中で「母乳栄養と食育」という文があり、「胎児から始まる食育」にこんなことが書かれていました。

食嗜好(food preference)を獲得していく過程には臭いの学習過程と似ている。遺伝的に獲得される嗜好に加えて、胎児期は羊水の風味・味を通して、生まれた後は母乳を通じて、母親が食べたものの風味を学習し好みを獲得していく。羊水や母乳には、直接母親が摂取した食物やスパイス、飲み物を反映する風味がでる。妊娠後期ににんじんジュースを与えた母親と与えなかった母親とで生まれてきた児のにんじんフレーバーの受け入れ方が違うという報告もある。

 

にんじんジュースの話は20年ぐらい前にも聞いたような気がするのですが、参考文献では2016年のものでした。

母乳関連では「母乳を与えることは社会階層のはしごを登るチャンス」といった、野心的研究課題に時々驚かされますね。

 

胎児や乳児の気持ちはわからないし、家庭の味は父親とか他の家族の存在もあるのですけれど。

 

母乳は万能かのような「願いをかなえる科学を装った話」を入れないほうが、よりすんなりと社会に受け入れられていくし医学的にも信頼されると思うのに、母乳の話はなかなか難しいですね。

 

 

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