正しさより正確性を 1 <大山鳴動して鼠一匹>

このところ、政治が面白いと思えるようになってきました。


「○○党が何を言っているか」という意味の政治ではなく、たとえば「予見可能とは」のように、社会の構造には膨大な専門知識や経験あるいは歴史の集積があって、そうした専門知識の統合された政治という意味です。


以前はそういう知識を知る機会が少なかったり専門的すぎる内容にどう近づいたらよいかわからずにいました。
最近は、ネットのおかげで専門的な話を判りやすく伝えてくださる方々がいて、本当に勉強になります。


たとえば治水交通網などのインフラや人工繊維の開発など、今の生活を考えるとそれぞれの専門分野でたくさんの人が適材適所で縁の下の力持ちとなって社会を支えていて、それを束ねているのが政治なのだということが、この年になってようやく見えてきました。


それは私自身も医療従事者として働いて来て、こちらの記事に書いたように医療現場も社会から批判され無理難題と思われる理想を求められる立場になってから、他の分野にも共感ができるようになったというあたりかもしれません。


でも、面白いと感じる理想と現実に折り合いをつける「政治」と、「政治運動」は全くもって別なのではないかと最近考えています。


オリンピック会場や市場移転問題といった都政に関するニュースを見ていて思いついたのが、「大山鳴動して鼠一匹」です。


大騒ぎする割には、結局専門的な調査や考証はすでに済んでいて何が問題なのかという感じですね。
まあ、現市場からは鼠はたくさん出たのですけれど。
でも、騒ぎの声にその信頼できる専門的な知識が埋もれて、大騒ぎの印象だけが社会に根強く残って行く。
残念ですね。


<鼠一匹だけならいいのですけれど>


さて、前回の「汚れたミルク」も、私には「大山鳴動して鼠一匹」の印象でした。
でも、この映画を観た人はどんな感想を持つのだろうと、検索してみました。
「coco映画レビュー」というサイトでは2017年4月4日の時点で、「総ツイート数600件」で「良い 32、普通 1、残念0」で「満足度96%」となっていました。


対象はツイートだけなのですが、こんな感想が書き込まれていました。

「非衛生な水で溶いた粉ミルクを乳児の大量死を招き粉ミルクメーカーの営業マンが内部告発
「健康を害した赤ちゃんの実際の映像は衝撃。こういう映画は多くの人に観てもらいたい」
「苦しんでいる子どもたちを見過ごせない。利益を追求する大企業に正義は通じるのか」
パキスタンでの実話!真実描き過ぎて2014年完成するも世界中から圧力で上映できず」
ネスレを見る目が変わりますよね」
「倫理より利益優先で、失われる命なんてあってはいけないのに」
「知識も情報もない発展途上国の人々に売りつける多国籍企業。許せない。私は絶対この社の商品は買いません」
内部告発。その後の行動で主人公が失ったものは大きくても、見て見ぬフリをするより正しい選択だった」
「告発の是非がメインなので、ミルク問題に興味を引かれて観ると物足りなさが。痩せ細った実際の子どもの映像には言葉が出ない」
「巨大企業の圧力の怖さを知る。意外なトコで母乳育児のメリットを知る」
「通常の母乳であれば問題なく赤ちゃんは育つのに、外国へのあこがれや手軽さから粉ミルクに頼ってしまう」
「貧しい人は粉ミルクをそのまま汚染された水でそれを薄めて入れるために子どもが病気になる。母乳で解消できるのだが粉ミルクを病院で勧める」


ああ、やっぱり「鼠一匹」どころか善意と正義感を広げてしまうのですよね。


30年ほど前に、多国籍企業のロゴマークを見て憎しみのような感情に突き動かされた自分を見ているようです。
歴史は繰り返すというのは、このあたりにも一因があるのでしょうか。
本当にやっかいですね。
感情に突き動かされた信念を疑うことは、とてもつもないエネルギーが必要ですからね。
「完全母乳という言葉を問い直す」とか「母乳育児という言葉を問い直す」とか、あるいは「乳児用ミルクのあれこれ」を考え続けるとか。



自分で書いた「正しさ」よりも、事実はどうなのか「正確さ」を求め続ける人はどれくらいいるのでしょうか。




ということで、新しいテーマを思いつきました。
「正しさより正確性を」
不定期に続きます。




「正しさより正確性を」の記事のまとめ。

<2017年>
2. ビタミンKを否定する感情の背景にあるもの
3. どこからか沸いてくる誤った知識
4. 正しさだけではつじつまがあわなくなる
5. 底が浅い知識と思考では真の反省はできない
6. 全体をとらえて正確性がわかるようになる
7. おにぎりの安全性
8. 年表という地図を作り上げる
<2018年>
9. 買物とは何か
10. 正しさを書くのは簡単だけれど
11. 日本の森林の風景
12. 「正しさ」の闘いに距離を置く
13. 妊婦加算と妊娠中の受診について
14. 周産期の福祉の歴史のようなもの
15. 「電話等加算」や「時間外対応加算」
<2019年>
16. 災害史が教育の基本になれば
17. 「乳頭混乱」と因果関係
18. 「日常では なかなかやらない動きが特徴」
19. ポロリと言ったことが広がりやすい
<2020年>
20. 脅かしたり叱るだけでは人は頑なになるだけ
21. マスクの作用と副作用
22. イメージやパフォーマンスでなく
23. 非常時の正確な情報の伝え方
<2021年>
24. 「看護職のタバコ対策」
25. 啓蒙やプロパガンダではなく
26. インシデント報告のシステムと違うのではないか
27. それはいつの時代のどういう背景だったか
<2022年>
28. 「野心的なマイルストーン」と便乗値上げ
<2025年>
29. 「玄米」がポイント
39. 「理系だから」だろうか