新生児のあれこれ 61 頭蓋癆

休園中の上野動物園動画を公開してくださっているので、さまざまな動物の生活史を家にいながら学んでいます。

 

パンダが無心に食べている動画が多い中で、見入ったもののひとつに、食べているときにパンダの頭頂部がベコベコと動いているものがありました。

「あ、ヒトの新生児と同じだ」と思ったのですが、すぐにそんなわけがないと思い直しました。

後日、もう一度同じような動画とともに、あれは噛む時の筋肉の動きであるという上野動物園側の説明があって納得しました。

 

*新生児の縫合が動く*

 

出生当日の新生児をお預かりする機会があると、時間があればじーっと眺めてしまいます。

いえ、ヒトの新生児の生活史を観察する看護の大事な仕事のひとつです。

 

1時間もすると表情が変化し、啼き方が変化していきます。飲み方も変化していきます。

何か、どこかのタイミングで変化しているはずなので、それを見逃したくないと思って観察しているのですが、どうしても思い込みや妄想で拙速に答えを作りたくなってしまうので、なかなかヒトの新生児の定点観測というのは難しいものです。

 

さて、最初にパンダの頭がベコベコと動くのを見たときに、パンダの頭蓋骨の縫合が動いているのかと思ってしまったのでした。

 

出生直後のヒトの新生児はまだ頭蓋骨の縫合が癒合していないので、触ると縫合と縫合の間にすき間があったり、骨の辺縁あたりを触るとフニャッと柔らかく触れることがあります。

授乳中の新生児の頭頂部を見ていると、中には大泉門から矢状(しじょう)縫合の当たりが顎の動きに合わせてベコベコと動いている時がたまにあります。

それとパンダの頭の動きが重なったのですが、ヒトの場合も刻々と骨が硬くなり、縫合が癒合して1歳ごろまでにはヘルメットのような硬い一つの骨になっていきますから、あんなに成長したパンダの縫合が動くわけないですね。

 

解剖はわからないのですが、竹のような硬いものを食べるパンダの顎の筋肉というのは頭頂部あたりまで強靭な筋肉が発達しているのでしょうか。

 

*頭蓋癆(ずがいろう)についての議論*

 

その動画を見ていたら、新生児から乳児期の疾患として習った「頭蓋癆(ろう)」が気になりました。

 

手元にある周産期や小児科の本を探してみたのですが、説明が見つからないのです。

そんなはずはない、確か数年前には「ビタミンDや母乳」と頭蓋癆の話題がニュースにもなったはずですし。

読み方が間違ったのかなと「とうがいろう」でも調べてみましたが、ありませんでした。

 

ネットで検索したら小児科学会などの記事が出てくるかと思いましたが、先に見つけたのは日本外来小児科学会の第70回調査研究方法検討会(2018年3月)の中に、「頭蓋癆とVD不足の関連を探るPediatric Endocriniological Craniotables Observational(PECO) study」という発表で、その冒頭にこう書かれていました。

乳児期に見られる頭蓋癆についてはVD不足との関連を示唆するもの、生理的なものとする相反した報告があり結論が出ていない。 

 もうひとつ、NS@小児科医さんというハンドルネームのtweetを見つけました。

【頭蓋癆①】

これを頭蓋癆は呼ばれるもので(*)、特に問題のない新生児の20-30%程度にみられます。

押した時の感覚が卓球の球に似ているとよく表現されます。

新生児期にみられるもののほとんどは問題なく、無治療で数ヶ月でみられなくなります

(*)原文のまま

 

【頭蓋癆②】

生後数ヶ月以降で見られる場合には何らかの原因があることを考慮します。代表的な原因は、ビタミンD不足などによって引き起こされるくる病があります。

その他の原因としては水頭症、骨形成不全、先天性梅毒が鑑別診断としてよく知られています。

 

頭蓋癆という言葉や概念がなくなったわけではなく、さまざまな議論の結論は出ていないが「新生児期にみられるもののほとんどは問題なく、無治療で数ヶ月でみられなくなる」というあたりということでしょうか。

 

 

 

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