「観察する」まとめ

水族館の人気のある展示は、平日に行ってもかなりの人がいます。
私は、あまり人が振り向いていかない水槽でひっそりと生きている魚などを見るのが好きです。
そして、こういう地味な種をずっと観察し続けて来た人たちはどんな人たちなのだろうと気になっていました。


そんな時、偶然見つけたのが「湿地帯中毒 身近な魚の自然史研究」(中島淳著、東海大学出版部、2015年)でした。
帯には「魚採りと虫採りに明け暮れたら研究者になった」「普通種カマツカの秘密能力とは?スジシマドジョウ分類の秘策とは?」とあるのですが、正直、カマツカスジシマドジョウも初めて耳にするぐらいで、ただ、こうした生物の生態を研究している人の生態に関心が沸いたのでした。


何を観察しているのだろう、と。


本の出会いというのは、「出会うべくして、出会う時期に出会った」と心が震えるような感動があるのですが、この本の「はじめに」がまさにそんな感じでした。


 それでは自然史を知り、明らかにする研究とはどういうものだろうか。自然史とはNatural Hisotryの訳語であり、自然誌、博物学、自然科学などと言い換えられることもある。自然史研究とは、自然界に存在する自然物を観察し、それらを体系的に記載・分類し、その自然物がこれまで存在してきた歴史・背景について考察を行う研究として定義できる。それはある野生生物を対象とした場合には、「どのようにして現在の分布域を獲得したのか」「いつどこでどのように生活しているのか」「それらはどのような姿形をしているのか」・・・そういった情報を科学的な手法を用いて網羅的・枚挙的に記載していく作業となる。

 今日では生物学を対象とした学問分野はきわめて高度化かつ細分化され、専門は自然史の記載である、などと自称している牧歌的な生物学者はほとんどいないだろう。事実、このような研究姿勢はおおよそ18世紀とか19世紀に主流のものであり、21世紀の現在ではしばしば時代遅れと捉えられている。しかしながら、生物の生き様にはまだまだわかっていないこと、知られていないことが数多く残っている。ましてや、日常的に観察しにくい湿地帯に暮らす生き物については、わかっていることなどほとんどないと言っても過言ではない。したがって、科学の目的が客観的事実を積み重ね、万物の仕組みを法則的に認識することであるとすれば、知られていないことを記載的に明らかにしていく研究は、地味ではあるが間違いなくそれ自体に科学的な価値のある研究分野といえる。


ああ、まさに看護論は科学でなければいけないと1970年代から、薄井担子(ひろこ)氏が指摘してきたことと重なります。


状況を観察しそれを客観的に記録に残していくことから、初めて事象の中にひそむ法則性をすくいあげることができる。
専門的な研究者の方々とはまた違う立場ではあるのですが、看護をするということは、人間という生物の観察を担う最前線の実践者になるということ、そんなことを考えています。



地味だけれどその大事な観察と記録の方法論が発達しないまま、「こうすれば良いケア」のような方法論や思想に飛びつきやすいのかもしれません。



ということで、「記録のあれこれ」とともに観察とは何かについて考えた記事です。




最初は、「観察する」として、ネジバナのことを書きました。

<2015年>
1. 水族園・・・観察する機会
2. ペンギンの泳ぎを観察する
3. 子どもを観察する
4. 「赤ちゃんを一瞬で泣き止ませる方法」
5. 「5つの泣き声」でわかる?
<2016年>
6. 足の老化か、進化か
7. 足のいろいろな部分
8. 荒乳というとらえ方と胎便の変化
9. 荒乳というとらえ方と生理的体重減少
10. マンボウ
11. 観察から仮説へ
12. 筋肉
13. ボタニカルアート
14. 「植物の持つ特性を変えない」
15. ノブドウ
16. 生活史
17. 待合室の30年の変化
<2017年>
18. 水族園に図書館が併設されるといいな
19. 子どもも社会を観察している
20. 子どもにとって、経験が少なく非日常的な状況
21. 胎盤の活用に思い至った観察
22. 立春
23. 梅
24. 川風
25. 観察されている
26. グルクマの食事
27. カタクチイワシのストリームライン
28. タチツボスミレはどうやって広がるのか
29. タチツボスミレの閉鎖果を見つけた
30. 紫陽花の葉
31. 蚊に刺されなくなった
32. 動かない動物
33. カワウ
34. 蓮
35. 分類する
36. 季節を観察する
37. パイナップルの生活史
38. 「ただひたすらに観察するという原始的な方法」
39. 神は良しとされた
40. まだわかっていないことを知る
41. 季節のゆらぎ
<2018年>
42. 梅はまだか
43. 梅の開花宣言
44. 鳥インフルエンザのリスクマネージメント
45. 不忍池の生活史の定点観測
46. ハシビロコウの体調管理
47. 動かない魚類
48. 背泳ぎをする魚
49. 観察の結果の裏にあるものを観察する
50. 見ているはずなのに見ていない
51. 梅の葉
52. プロセスレコードでは何を観察しているのか
53. 複数の相手を同時に観察する
54. 日本でも赤ちゃんや子どもが泣かない状況もある
55. 観察の方法が積み上げられた時代
56. 花托から果托へ
57. 「坂道を登れば平らな台地」
58. 自然の定点観測
<2019年>
59. 自然教育園
60. 風景を観察する
61. 皇帝ダリアの定点観測
62. 「 シャンシャンのおとしもの」
63. 座れる場所がない街
64. アジメドジョウ
65. 「コアラの一生」
<2020年>
66. スミレの定点観測
67. 感染症対策のための観察を生かす
68. ロワの泳ぎ
69. 香りを感じない季節
70. アサリと塩分濃度
71. リンドウの花びら
72. クマとドングリ
<2021年>
73. 「金木犀は2度香る」
<2022年>
74. 非常時にどのような言葉を選択するか
75. 「潟」という文字
76. 世界的な感染症というのは温度差がでてくる
<2023年>
77. 社叢