水のあれこれ 275 和歌川はどちらへ流れるのか

和歌川のそばを歩いてみたいと思った理由の一つに、和歌山城の東側で紀の川と繋がっている川がどちらへ流れるのかこの目で確かめたいというニッチなものがありました。残念ながら時間切れと疲労でかないませんでしたが、検索したら答えがありました。

 

なんと和歌川は「時間によって北・南と変わる」が正解でした。

私は北側へ紀の川とつながる真田堀川がどちらへ流れているか、紀の川への放水路なのかそれとも紀の川から取水しているのかが気になったのですが、そこだけでなく和歌川の河口付近まで流れが時間によって変わるというまさかの事実でした。

 

 和歌川はかつての紀の川の流れが今と違い、東に蛇行して和歌浦湾に河口があった頃の名残。そこから推察するに「きっと北から南に向いて流れている」と思い、河口付近を訪ねてみると水門で閉ざされています。深まる謎を解くべく、和歌川を管理する和歌山県海草振興局管理保全課河川管理グループに聞きました。

 

時間によって北・南と変わる

 「和歌川の水はどう流れている?」との質問。県海草振興局管理保全課河川管理グループによると、「時間によって北向きに流れたり、南向きに流れたりします」。

 和歌川は高低差がほとんどない平野部を流れ、河口から海の干潮、満潮の影響を受ける「感潮河川」と言われます。潮が満ちると水は上流へとさかのぼり、潮が引けば川の水が河口へと引っ張られます。

 和歌川の場合、潮の影響をどこから受けるのか。川と直接つながっているのは、紀の川河口近くにある市堀川河口のみ。満潮時はここから海水が入り、大門川との合流部を経て南へ、干潮時は市堀川の河口に水が引っ張られ和歌川は北へ流れます。

 また、水門近くにあるポンプで和歌浦湾側から水を汲み上げて上流へ流しています。「汚泥を薄めるためで、汲み上げた水は北向きに流れます」。

 和歌川の水は水門から上流部をほぼ行き来しており、川は上流から下流へという私たちの常識を覆す、珍しい川だったんですね。

ニュース和歌山/2019年8月10日更新) 

 

こんな川もあるのですね。

 

「海草振興局」というのも興味深いのですが、「和歌川『仮堰』の撤去と捨石護岸の施工」(和歌山県県土整備部河川・下水局河川課)という資料を見ると、和歌浦はかつては海苔の養殖が盛んだったことと、和歌川の途中に「海草橋」があることなどと関連しているのでしょうか。

 

「仮堰(かりぜき)」というのは、和歌川の中間あたりに1950年(昭和25)に設置された堰だそうです。

和歌川「仮堰(かりぜき)」について

 

・工場化による排水及び都市化による雑排水の増加により、和歌川の水質が著しく悪化

・昭和24年和歌浦の養殖ノリが枯死

・昭和25年和歌浦に汚濁水が流れないよう河川内に横断工作物「仮堰」を設置

 

ところがその20年後にはさらに川の汚染が進んようです。

「仮堰」による影響

・汚濁した水が下流に流れなくなり、仮堰上流では水質の悪化、ヘドロの堆積が進む

・昭和45年にはBOD(生物科学的酸素要求量)が391mg/lに達し、悪臭の漂う河川の様相に

当時の写真が掲載されていますが、現在からは想像もつかない川の風景です。

 

水質改善への取り組み

・国、県、市が連携して取り組みを実施

 国:紀の川からの浄化用水

 県:和歌浦からの浄化用水、和歌川の底泥浚渫(第1~4期)

 市:下水道の整備、排出水の色等規制条例の施行

・住民活動

 住民団体の結成、美化、啓発活動の実施

 

紀の川に宇治ポンプ場と有本ポンプ場が建設され、仮堰を撤去し、あの和歌川の河口から少し内陸部に見えた大きな水門のそばには和歌川終末処理場と和歌川ポンプ場が設置され、「時間によって北・南へ」と流れを変えることで水質を維持しているようです。

市川堀を歩いた時にも水辺は臭いがしなかったのも、こうした改善の積み重ねがあったからだったのでしょうか。

 

地図から気になった川を訪ねたことで、またひとつ川がきれいになり始めた頃の歴史を知ることができました。

 

 

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