新生児あるいは乳児の「眠る」という状態は、何をさしているのでしょうか?
授乳中に新生児が乳首をくわえたまま動かなくなったり抱っこをして目を閉じると、「眠っている」と受け止められることが多いです。
お母さんたちだけでなく産科のスタッフもけっこうすぐに、「すぐ眠る」「眠りがちで吸わない」あるいは「疲れちゃったのかしら」と表現します。
そして「起こして飲ませましょう」あるいは「こうして抱き方を変えればたくさん飲める」などと、より多く飲ませる授乳方法を解決策だと思っているところが多いのではないでしょうか?
あるいは「眠ったと思って置いたらすぐに泣く」ので、「手がかかる赤ちゃん」には何かしなければいけないと解決策を求めようとしていないでしょうか?
乳房マッサージや整体、赤ちゃんへのマッサージ、赤ちゃんを眠らせ泣かせないためのくるみ方からさまざまなグッズまで、中には舌小帯切除のように赤ちゃんに不要な傷をつけることまで勧められています。
本当はそれは「眠っている」わけではなく「ただ目を閉じているだけの状態」だったり、あるいは「浅い眠りと深い眠りがある」と考えてみたら新生児へのかかわり方も変るのではないかと、日頃から思っています。
<授乳中に眠っているのか>
新生児の中でも特に生後2〜3日頃までの新生児は、授乳を始めても途中で口が動かなくなって一見眠っているような行動があります。
お母さんたちを見ていると、「すぐに眠る」と受け止めるかたがほとんどです。
そして新生児の頬をつっついたりして起こそうとします。
それまで赤ちゃんに接したことのない初めてのお母さんたちが誰からも教わっていないのに同じように受け止め、同じような行動をとるのは興味深いことです。
きっとお母さんというのは、目の前の小さな赤ちゃんの生命を維持するために必要な授乳への使命が大きくて何とか飲ませなければという根源的な不安があるのかもしれません。
口を動かさなくなった赤ちゃんですが、もし眠ってしまったのなら体の力が抜けて、当然舌で巻き込んでいた乳首もはずれてしまうはずです。
ところが、新生児は舌で乳首を巻き込んだままじっとしています。
長さにしたら2〜3分ぐらいでしょうか。
舌で乳首を巻き込んだままじっとしているというのは、大人には決してできないような根気づよい行動だと思います。
眠っているのなら舌もはずれてしまうはずだからこの状態は眠っているわけはなく何かをしているのではないかと、お母さんたちにそのまま待ってもらうようにします。
そうするとしばらくすると再び新生児は吸い始め、「あ、本当ですね。眠っていたわけではないのかも」と理解してくれます。
生後2〜3日を境に、途中で動かなくなることも少なくなる印象がありますが、それでも授乳の途中でじっとしていることがあります。
この行動を表現するとしたら、「待っている」ということではないかと考えています。
新生児、あるいは2〜3ヵ月頃までの乳児は「何を待っているのか」。
それはこちらの記事までで書いたように、胃結腸反射や消化のための腸蠕動を待っているのではないかと思います。
少し母乳やミルクを飲むと、大きな胃結腸反射が起こります。それは寝かせた状態なら胃の中のものを押し出して「吐乳」や「いつ乳」となるぐらい大きな動きです。そして便が直腸へと押し出されます。
そのあとに、大きな口の動かし方とともに母乳を湧き上がらせるのみ方始まります。
哺乳瓶での授乳は「楽そう」というイメージがありますが、基本的に母乳と同じような飲み方をしています。
飲み始めは人工乳首を口の中に深く入れないようにして少し飲んだあと、乳首を舌で押し出して浅く吸った状態でくちゅくちゅしています。しばらくすると乳首をくわえたままで、音にはならないけれど「ゲフッ」というような動きがあり、その後から急にぐびぐびと飲み始めます。
そして母乳の場合も同じです。しばらく口の動きが止まった状態でじっとしていると、胃結腸反射が起きたのだろうと思われるような体の動きがあり、そのあとからまた吸いはじめます。
大人も朝目が覚めてから腸が動き出してそのまま自然と排便をすることもあるし、少し飲食をし始めるとぐーっと腸が動き出します。大人なら「30分後ぐらいには便がでるかな」と感じながらも、身支度など別の行動も同時進行でできますが。
新生児はこれからの長い人生の第一歩を始めたばかりなので、こういう腸の動きをじっと待ちながら授乳・消化吸収・排泄の一連の哺乳行動を学んでいる時期ではないかと思います。
授乳中の新生児の口の動きが止まる2〜3分、いえ1分程度の時もあります。
でも大人にするととてつも長く感じられる時間で、つい何か手を出したくなる長さに感じるものです。
そこをぐっと我慢して、新生児は何をしているのだろうと大人も待ってみると、ただ母乳を飲んでいるだけではない違う行動が見えるのではないかと思います。
そして新生児には新生児の自律した複雑な行動があること、まだまだ十分に観察もされていないし表現もされていない段階だということを産科スタッフが認識できていないと、お母さんたちを翻弄させるあれやこれやの方法論やテクニックが浮かんでは消えて・・・を繰り返してしまうのではないかと思います。
観察方法が不十分であれば、仮説も間違う可能性が大きいということだと思います。
次回は、「なぜ置くと泣く」のか「なぜ眠らないのか」について書いてみたいと思います。
新生児の「吸う」ことや「哺乳瓶」に関する記事のまとめはこちら。