生後2〜3日ぐらいから新生児でもぐびぐびとおっぱいを沸きあがらせて飲むことが多くなります。
でもまだ「片方飲んで眠ってしまう」「眠ったと思ったのに置くと泣く」、というお母さんの新たな悩みも出てくるころです。
経産婦さんの場合には、たとえ一人目の時に「ほとんどミルクでした」「母乳は1週間でやめたのでほとんど吸わせませんでした」という方でも、この2〜3日目頃からは初産の時の2〜3ヶ月目ぐらいの感じで出始めるかたが多いし、お母さんたちも赤ちゃんに慣れているので赤ちゃんたちもそれほどはぐずりません。
「今回の子は手がかからなくていい子だわ」と感じるのですが、それは一人目で試行錯誤した体験と初産と経産婦さんの体の変化というお母さんのキャリアがそうさせているということなのでしょう。
そんな経産婦さんでも、退院前の2日ぐらいは「置くと泣く」「眠ってくれない」「家に帰ったら上の子の世話もあるから、こんなに手がかかったらどうしよう」などなど、不安になる時期です。
「置くと泣く」「なかなか眠ってくれない」という状況も、初産婦さんと経産婦さんでは理由が異なる場合が多いです。
その点を産科スタッフがきちんと認識できていないと、たとえば「一人目の授乳は失敗だらけだった。今回は助産院で(あるいは他院で)出産したから授乳もうまくいった」と感じたお母さん方に、公正な情報を提供できないのではないかと思います。
初産婦さんと経産婦さんの新生児の成長の違いについては、また後日まとめてみたいと思います。
<置くと泣く、あるいは眠らない>
新生児がお母さんのおっぱいにしてもミルクにしても授乳後に乳首をプッとはずして目を閉じると、「眠った」(ほっ)と思いますね。
抱っこしての授乳は重いし手が疲れるので、いい加減赤ちゃんを下におろしたいと思うのでベッドに置こう・・・と思っただけで、新生児はパッと目をあけぐずぐずし始めます。
あーがっかりとまた抱っこして、しばらくすると赤ちゃんもじっと目を閉じて「眠っているよう」だし、「赤ちゃんが眠ったらメールしよう」「あれをやろう」「早く眠ってくれないかな」と思った瞬間に、本当に思っただけで、また新生児は目を開けたりぐずぐずしたりします。
恐るべき新生児の予知能力ですね。
あるいは少し慣れてくると抱っこして眠るのを待ちながらお母さんたちは片手でメールをしたりするのですが、ふと気づくとじっと赤ちゃんが見ていたり、時々チラッと薄目を開けてお母さんの様子を見ていたりします。
たくさんおっぱいも飲んでいるはずだし、あるいはミルクも足してお腹は一杯のはずなのに・・・なぜと困惑した経験をほとんどのお母さんや産科スタッフは持っているのではないでしょうか。
<新生児が眠るまで>
お腹の動きが活発で30分から1時間毎に起きるような時間帯や急激に体重が増えているような活発な日でも、よく見ているとずっと抱っこしていなくても大丈夫です。
浅い眠りのようでも、ベッドに置いても大丈夫な時間が必ずあります。
「早く寝てくれないか」とか「赤ちゃんが寝たらあれをしよう」とか考えただけで新生児は目を開けるので、そこは「雑念」「邪念」を取り払いぼーっとのんびり抱っこしてみます。
できるだけ新生児の顔をながめていると、より効果的です。
なぜかというと、「目を閉じている状態」だけなのでお母さんあるいはあやしている人の視線(黒目)が見ていてくれているかを敏感に感じている可能性があります。
先に書いたようにメールをしようと赤ちゃんの顔から視線をはずしただけで、目を開けます。また、寝付かせるために抱っこしているお母さんのところへ行って私たちが話しかけると、お母さんは視線を私たちに向けますが、そういう時には決まって新生児はチラッと薄目をあけて確認をしているかのようなしぐさをします。
つまり、まだ「眠っている」のではなく「ただ目を閉じた状態」で「何かを待っている」と表現したほうがよい状態なのでしょう。
その状態の時には、お母さんあるいは世話をする私たちのアンテナ(意識)が集中して向けられ見守られことで安心していられるような何かをしているのではないかと推測しています。
そのうちにだんだんと新生児の目の辺りがぽってりと重くなり、いかにも「まぶたが重い」表情になってきます。
でも、まだまだここで「早く寝てくれ」という邪念を抱いてはいけません。
ましてや布団に置こうなど行動に移せば、また一からあやしなおすことになります。
そうしていると新生児の体がずっしりと重く感じ始めます。
それまでは「寝たかな」と思っただけでもぐずぐずと声を出したり、口の周りや手足を少し動かして「まだ寝ていません」とアピールしていた新生児もぐったりと動かなくなります。
本当に「寝たかな」と思っただけで、「寝てないよ」とアピールするのですから新生児のセンサー恐るべしです。
そしてこの状態になれば、もう置いても大丈夫です。
時間にしたら数分から10分程度でしょうか、大人には果てしなく長く感じ、早くと気持ちがあせる時間です。
<新生児は何を待っているのか>
新生児の「目を閉じている状態」から「眠り」に入るまでのこの時間は、何をしているのだろう、何を待っているのだろうと考えた時、授乳・消化吸収・排泄の一連の哺乳行動と関連があるのだろうと推測しています。
新生児の食道から胃の入り口付近は大人と違い、胃内容が容易に逆流しやすい状態です。
教科書的には「新生児は生理的な噴門機能の未熟性による胃食道逆流症などが生理的嘔吐の原因となる」と表現されます。
たしかに大人を解剖生理学的に完成した状態と考えれば、新生児は未熟そのものかもしれません。
でも、新生児にとって胃内容が容易に口まで上がってきて「吐乳」「いつ乳」となるのは、何か必要がありあえて胃の噴門や幽門が緩やかになっているとも考えれられるのではないでしょうか。
ある程度母乳やミルクを飲みその刺激による胃結腸反射(げっぷになるような大きな腸蠕動)が終わっても、それで消化吸収が終わりではなく飲んだ乳汁を少しずつ腸蠕動で送り出していく必要があります。
新生児の下腹部は大きく、腹部全体に比べて腸の体積は相当なものになります。
腸蠕動が活発な間には、その動きの刺激で容易に飲んだ乳汁がのどのあたりまでいったりきたりしやすい状態ではないでしょうか。
もし大人や幼児と同じぐらい胃の噴門や幽門がしっかりしまっていたら、腸蠕動によって下からかかってくる圧を逃す機序がなくなってしまい、新生児にしてみれば苦しい状態になるのではないでしょうか。
そんなことを考えると、新生児がなかなか眠らない時あるいは眠りにつくまで抱っこされて見守ってもらうことを必要としている時というのは、飲んだ乳汁をある程度消化管の下の方へ送り出している時間なのではないかと推測しています。
通訳すると「新生児は飲むことよりもその後の腸蠕動の活発な時間が大変なんだからね」「目を閉じていても寝ているわけではなくて、いろいろ新生児は仕事があるんだからね」「飲んだものがのどのあたりまでいったりきたりくるから、平らなところにおいちゃダメだよ。頭を高くした状態で抱っこしてくれると助かるよ」「ちゃんと見守っていないと危険だからね」というところかなと思っています。
そうしてぐったりして布団に置いても大丈夫になると、「ご苦労さまでした。とりえず下に置いても大丈夫だよ。また腸が動きだして危なくなりそうなら、また呼ぶからね。それまではお母さんのやりたいことをやっていていいよ」という感じでしょうか。
<おまけ>
このように新生児の眠りと哺乳行動が関連していると考えれば、「抱き癖」という表現も新生児期には当てはまらないとお母さんたちに明確に説明できると思います。
また、新生児が眠らないのは「足りない」「授乳方法がいけない」のでもなく「お腹の動きを待っている間は寝ない」と一緒に待っていればよいということだということではないかと考えられるようになります。
まして「眠らない」「手がかかる」と、本来の新生児には特に問題のない状態を「異常」あるいは「何か解決策をつくらなければいけない」と考える必要がないと考えられるようになります。
ただ必要なのは、新生児が眠りにつくまではのんびりしましょうということでしょうか。
新生児も世の中のことを日々学習しているのでそのうちに「これはひとりで大丈夫」ということも増えてきますし、お母さんたちも「このくらいのぐずり方なら抱っこでなくて大丈夫」と手から少しずつ離れていくことでしょう。
新生児が深い眠りにつくまで、ときどきチラチラッと目を開けて周囲を確認する様子があります。
「大丈夫、ちゃんと見ているよ」と目を見ていると、ニコッと笑って体の力がガクンと抜けてリラックスする様子がわかります。
大人にはレム睡眠とノンレム睡眠の2種類があることが知られていますが、それらの睡眠ともまた違う新生児や乳児の眠りの入り口とも言えるような意識状態です。
あやすこと、寝つかせることの醍醐味のような時間は、大人のせわしない日常にはない貴重な時間ともいえるでしょう。
そして新生児が眠りにつくまでの行動や表現を理解できれば、その世話をする人はお母さんに限定する必要はないと思います。
お母さんだけでなく、誰かが代わって新生児が眠りにつくまでを見守ってあげれば良いということです。
ことさら「母と子の絆」を強調する必要もないし、誰かが見守ってくれているという世の中への信頼感を持つことでよいのではないかと思います。
赤ちゃんの眠りと行動については、一旦ここまでです。
新生児の哺乳行動を考える記事はまた不定期に続きます。
新生児の「吸う」ことや「哺乳瓶」に関する記事のまとめはこちら。