事実とは何か 25 <地下鉄と陰謀論>

前回紹介した竹内正浩氏の「地図と愉しむ東京歴史散歩 地下の秘密編」(中公新書、2016年)を書店で手にして目次の以下の箇所を見た時に、なぜか私は「陰謀論」と書かれていたように見間違えました。


第2章 都心の地下壕の話


皇室の防空対策  地下深く眠る陸軍の地下壕  地下鉄工事で消えた海軍の壕  総理官邸にも地下壕があった  未完成に終わった議事堂の地下壕  毒ガス対策がなされた地下建設  上野公園にあった地下壕  都内各地にも築造  後を絶たない地下壕の事故


家に帰ってじっくり読み始めたのですが、「陰謀論」とはどこにも書かれていなくて、何をどう見間違えたのだろうと、これまた「思い込む」ことの不思議さにヒヤリとしました。


ただ、どうして思い込んだのかは理由があります。
今から20年ほど前に、図書館で借りた本の中に「地下鉄建設の陰謀論」的な本があったことがずっと心に残っていたからです。
わかる人にはわかる本ではないかと思います。


そのとある本の中では、「なぜ地下鉄が突然直角に曲がるように計画されているか」などの答えの中に、「そこには日本軍が築いた無数の地下壕があって、戦後50年経つ中で秘密裏にそれを埋めたり強固にして地下鉄にしているため」「地下鉄の各所には、上層部しか知らず出入り禁止の場所がたくさんある」といった内容が書かれていたと記憶しています。
そして「こういう『真実』を書く私は公安に常に狙われている」というようなことが書かれていました。


政府や大企業の言う事は信用がならないという単純な正義感に燃えていた時期だったので、私もこの本は真実が書かれているのだろうと疑うこともなく信じたのでした。


ただ、同じ頃、私自身の働く周産期医療の中で似た様な感情をぶつけられる側になったのでした。
「病院のお産は」とか「乳業会社のためのミルク販売」とか。


2009年にkiklogに出会って、こういうことを「陰謀論」と呼ぶことを初めて知りました。
そして「あの地下鉄の話も陰謀論だったのだろうな」と、目が覚めたのでした。



さて、竹内正浩氏の冒頭の箇所では、例の陰謀論についてはひと言も書かれていませんが、どこにどのような地下壕がありどのように処理されたとか、まだわからない地下壕があることなどが淡々と書かれていました。
そして第4章の「団地の土地を読み解く」では、昭和30年代に次々と建てられた団地の多くが日本軍の施設があった土地であったことなどが書かれています。



読み終わってから、どこにもこの本の中には「陰謀論」という言葉は使われていなかったけれど、たぶん事実を掘り起こす事であの本に対抗したのだろうなと勝手に想像したのでした。




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