水のあれこれ 58 <「赤道を越えても腐らない水」>

少し前ですが、ブラタモリの神戸編で、神戸の水は「赤道を超えても腐らない水」として世界中の船乗りに愛されていたという話がありました。


井戸や川から汲んできた水を溜めて生活用水にしたり、川で水浴びをしたり、一日にバケツ1杯の水しか使えない状況で生活をして、水の貴重さやその衛生面にはそれなりに考えさせられる機会がありましたし、飲み水もない状況で航海を続けたボートピープルの方たちから話を聞く機会もあったのに、船で使う水のことはそれ以上考えないまま来てしまったと、冒頭の話を聞いて思ったのでした。



船の水をどうしているのだろうと検索していたら、クルージングの際の「飲料水・生活用水の補給と保管」という興味深いエッセイがありました。
船自体は最新の船なのだと思いますが、飲料水や生活用水を寄港地で確保する方法は、ちょっとプリミティブとも言える方法なのですね。

水の補給は場所によっては頭痛の種です。マリーナや漁港が常にあるわけでは無いし、離島には当然水道もありません。また水道があってもその水が飲料に使えない国や地域も沢山存在します。

離島での清水補給とはほとんどの場合、それは雨水を集めることです。住人が集めた雨水を快く分けてもらえる時もあります。とてもありがたいことです。そんな時には出来ればお返しがしたいですね。しかしこのような有り難いお水も普段の我々の生活で見慣れている水道水と比べるとまるで泥水のように濁っている事が殆どです。よほど胃腸が丈夫な人で無いとそのまま飲む事はお勧めできませんので、沸かして飲みましょう。

雨水といえば、ミクロネシアの主島ボンベイは降水量のとても多い島で、水には全く不自由しません。デッキにちょっとシートを張ってやれば簡単に溜めることができます。大気汚染は皆無なのでとても綺麗で、そして本当に美味しい水を集めることができます。私は空のペットボトルに大量に詰めてその後の航海中もずっと飲んでいましたが、このように降ってきた雨を直接自分で集める場合には当然ですが濁っている事は無くそのまま飲むことができます。


ただ、雨水もその保管方法によっては「腐る」のではないかと、ちょっとこのエッセイを読んで心配になりました。


このエッセイで使われている「清水」というのは聞き慣れないことばですが、「一般社団法人日本船主協会」のサイトの「海と船のQ&A」に以下のように書かれていました。

Q17. 船の水:船で使う水には種類がある?

船は、水(海水)の上に浮いていますが、船にとって塩分の入っていない清水(せいすい)は大変貴重です。清水の中でも「飲料水」は、船内でつくるわけには行きませんから皆とで積み込んで専用のタンクに貯蔵してあります。
清水は、船内の造水器で作ることができます。海水を沸騰(ふっとう)させて水を作りますが、空気の圧力をへらすと40−50度で沸騰しますから、蒸発した水を集めて貯蔵します。こうして出来た清水は飲料には適さないために、風呂、洗濯、船内の掃除用などに利用します。何日も休まずに働き続ける主機関(エンジン)を冷却するためにも使われますが、冷却して暖かくなった清水は海水を使って冷ましますから何度も繰り返して利用することができます。
また、デッキ(甲板)上の掃除や、万が一火災になった場合の消火用には、そのまま海水を使います。

もう少し検索していたら、「出光」のHPの「出光タンカー」内に「飲料水を船内で造る!造水器」という記事がありました。

出光タンカーの管理船では、清水は全て機関室に据え付けられた造水器から造っています。
船内に清水(雑用清水)、飲料水、ボイラ水(ボイラ専用)、の3種類を別々のタンクで備えています。
清水は風呂、掃除などの生活用水、飲料水は飲み水、ボイラ水は加熱蒸気、タービン駆動用です。
一般に海水から真水を造るには、海水を沸騰させ、その蒸気(湯気)を集めて冷やすことによって蒸留水を造ります。(40t/日) 蒸留水に薬品(防腐剤、ミネラル)を投入し、清水、飲料水、ボイラ水を造ります。乗組員の中には、インド洋、アラビア海で造られた飲料水は、ペットボルで購入する水よりも、安価で美味しく、新鮮と好む者もいます。

蒸留して清水を造るだけではだめで、さらに腐らないように水を溜めるためには処理が必要なのですね。



長期間の航海でのさまざまな失敗学が、現代への対応策に生かされているということでしょうか。
「神戸の水は赤道を越えても腐らない」と重宝されていた時代からは、夢のようですね。




<おまけ>


ブラタモリの中で、船舶に水を供給するために明治時代に造られたという布引貯水池を紹介していましたが、そのBGMがあの競泳大会の表彰式で使われている「水夢」という曲でした。




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