今年度に入ってから、「無痛分娩」 の事故についてのニュースをよく目にするので、何かと心がざわついていたのですが、「日本の妊産婦を救うために2015」につながる「妊産婦死亡の全体を把握するシステム作り」がここ十数年でようやくできあがりつつある流れがあるからこそのニュースなのかもしれないと、私自身の見方が変わりました。
昨日の報道にも、「麻酔ミスで母子寝たきりに 京都、産婦人科医院を提訴」(共同通信社)「帝王切開時の麻酔で母子に重度障害・・・報告せず」(読売新聞)という記事がありました。
前者の記事は、裁判に主眼を置いた内容でその医師個人のミスかどうかという視点でしたが、後者のニュースにはその全体像の把握という背後の事実も書かれていました。
出産の痛みを麻酔で和らげる無痛分娩をした妊産婦に相次ぎ死亡例が判明する中、京都府の産婦人科診療所が昨年、帝王切開で同じ方法の麻酔をして母子が重度障害を負う例があったにもかかわらず、日本産婦人科医会に報告していなかったことがわかった。
同医会はこの診療所に報告を求めて調査するとともに、無痛分娩に限らず、産科麻酔の安全体制についても実態を調べることにしている。
<日本産婦人科医会の報告事業>
「日本の妊産婦を救うために2015」に、この産婦人科医会の「妊産婦死亡報告事業の現状」について書かれています。
医会は、1970年に重点事業として妊産婦死亡調査委員会を、1980年には本格的な全国妊産婦死亡登録制度を開始したが、その報告数は妊産婦全死亡の20%以下であった。2004年に開始した偶発事例報告事業でも、毎年報告される妊産婦死亡症例数は25〜30例であり、厚生労働省の毎年50例の約半数であり、十分な分析ができない状態であった。そこで、2010年から妊産婦死亡報告事業を独立した事業とした。その結果、ほとんどの妊産婦死亡例が報告されるようになった。
2004年といえば、ちょうど私が総合病院から産科診療所へ移った頃でした。
私自身、当時は、産科医療補償精度や周産期医療の全体像がわかるようなシステムができて、毎年のようにアップデートされた資料を読むことができるようになるとは想像してませんでした。
もしかすると、医療の外側から見ると、「妊産婦死亡の全体像も把握できていないのか」「そのシステムが作られてまだ7年なのか」と驚かれるのかもしれません。
でも医療安全対策と「リスクマネージメント」と言う言葉が広がったのが1990年代ですから、物ごとの本質が浸透するのには時間が必要ということなのだと思います。