運動のあれこれ 8 <「母乳育児」という運動から距離をおく>

人工飼育で無事に成長する動物たちのニュースを聞くと、ほっとします。
哺乳類の動物が人工飼育をされても、今のところ「動物にも『母乳育児』を」という声はなさそうなので、生き延びさせる、無事に成長させることが、安堵感の本質なのかもしれません。


なぜ、いつごろから、人間の世界には母乳育児という言葉がどんな気持ちとともに広がりだしたのだろうと、気になったことを以前書きました。
おそらく、乳児用ミルクを考えつく前、今から一世紀半ぐらい前の人たちには「母乳育児」という発想さえなかったのだろうなと思います。


さて、先日BuzzFeeDというサイトの「その母乳情報、大丈夫ですか?ママサイトにはご用心」という記事がありました。
母乳関連の「怪しい情報」について、わかりやすくここまで医師側から明快に書いてくださった記事は記憶にないので、授乳相談に対応している看護職や子育て中の方の目にとまるとよいと思いました。


ただ、「怪しい情報」というのは、言い方を変えれば「まだわかっていないのに効果があるかのような内容」であったり、実際には複雑でさまざまな要因があるのに、「これが原因」「これが解決策」と簡単に言い切っているような内容、あるいは「これをしなければこういう悪い結果になる」と不安を煽るような内容だったり、これもまた多様です。


「怪しい情報」をできるだけ排除したとしても、お母さんも赤ちゃんも一人一人違うので、経過も違う中で、「以前似たようなケースがあったから、このアドバイスがよいかもしれない」と対応しても、結果が違うこともあります。
このあたりは、「個人的体験談」を排除するのでなく、その一つ一つのケースを積み重ねていくしかない部分です。


また刻々と成長変化していく乳児なので、前に対応したスタッフが判断した状況と、現在のスタッフでは見ている状況も異なるので、どうしても「後医は名医」のようなバイアスが生じてしまい、「スタッフによって言うことが違う」と受け止められてしまうことがあります。
お母さん達にすれば、むしろ、そのような状況のほうが「怪しい」と受け止めやすく、わかりやすく明確に言い切ってくれる情報のほうが信じるに値するものだと感じてしまうのかもしれません。


やはり、授乳に関しても、「経験を積み重ねて、自分たちなりに『何かある、何か変だ』という疑問から症例報告をしていき、Reviewとなり大規模スタディになる」という科学的に全体を把握する方法がなかなか立ち上がらないことに原因があるのではないかと思います。


だから、拙速に理論化を求め、わかりやすい話が権威として持ち上げられてしまうのではないでしょうか。


そういう意味では、冒頭の記事の最後の「デマ情報に立ち向かうために」で、「母乳育児成功のための10か条」「完全母乳」を押し進めて来た団体が推奨されていることは、ちょっと残念だと思いました。


その団体の民間資格には、「母乳は無比のものである」「母親の"力”を信じる」といった信条を持つことが求められているようです。


乳児の授乳については、運動とは一線を引くことが大事ではないか。
そんなことを思っています。



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