母乳育児という言葉を問い直す 29 「富士登山は完全母乳育児」

今日のタイトルは、「ペリネイタルケア」2016年3月号の、「特集Dr.水野に学ぶエビデンスに基づいた母乳育児〜母乳育児は山登りと同じ〜」という記事に書かれていた言葉です。

その冒頭はこんな内容から始まっています。

2015年7月に世間を騒がせた、ウエブサイトで売買された"偽母乳"事件を発端に、母乳育児そのものが、ゆがんだ誤解を 与えているように思います。哺乳動物であるヒトが、出産したお母さんの母乳で育つのは普通のことなのに、母乳育児を支援することが、あたかも悪いことであるかのように報道されることもあります。

(強調は引用者による)

 

見方は人それぞれですが、日々接するお母さんたちは2015年以前から、「赤ちゃんを無事に育てるための授乳方法を知りたい」という雰囲気でした。

たぶん、社会の現実のニーズと母乳授乳に熱心な周産期関係者とは温度差が広がっていったのではないかと思います。

 

 

さて、「母乳育児は山登り」という記事を、記録のために残しておこうと思います。

「母乳育児は山登りと同じ」といえるでしょう。

最近、山ガールが増えています。土曜や日曜の早朝に電車に乗ると、リュックを担いだ女性のグループに出くわします。「富士山に登ってみたい」ーー日本人として生まれたなら一度は思うこと。もちろん、高尾山で充分満足という人もいるでしょうし、高尾山を足掛かりに富士山までステップを踏んでいく人もいるでしょう。

どんな山でもそうですが、一人で黙々と登るのはきっとつらいことでしょう。道に迷ってしまうかもしれません。途中でつらくなって、「ムリ、ムリ」と早々に諦めてしまうかもしれません。そこで、山をよく知っている専門家、すなわち"登山ガイド(登山のエキスパート)" と一緒に登ったらどうでしょう。同じ志を持つ仲間も一緒であれば、なおさら頼もしい限りです。一歩一歩の山道の登り方、登山に欠かせない行動食のこと、休みを入れるタイミングを教えてくれて、もちろん道に迷うこともなくあなたのペースに合わせて登ってくれます。登山道の脇に咲く、高山植物の話もしてくれて、山登りのつらさを感じた登山者の心を癒してくれるかもしれません。途中で滑ったり、こけたりするかもしれませんが、登り切って頂上から見る眺めは素晴らしく、そこで頬張るおにぎりは格段においしいことでしょう。

 

富士登山は、「少しずつ山登りに慣れ体調管理をしていれば、誰でも登れる」ーーしばしばそのように言われます。しかし、予期せず天候が悪くなったり体調を崩したりしたために、断念せざるを得なかったということはあり得ます。その時に、無理せずに引き戻す決断を下す。しかも、山登りに挑んでいた人たちが納得して戻れるようにするのも登山ガイドの重要な仕事です。

はじめに、「母乳育児は山登りと同じ」だと言いました、「妊娠したらおっぱいだけで育てたい」ーー多くの妊婦さんがそう考えています。日本人の多くが「一度は富士山に登りたい」と考えているようなものです。ですので、この特集では富士登山は完全母乳育児に、高尾山登山は人工乳も使いながら母乳育児をすることの比喩表現として使っています。 そして登山ガイドは助産婦さん:看護師さん、小児科医・産科医を、一般に登る仲間は母乳育児をしているママ友を、登山の伴奏者は赤ちゃんを、天候不順のときに引き返すことは、母乳だけで育てることが赤ちゃんにリスクがあり人工乳を補足することを意味します。

 

登山ガイドに知識がないと、天候を読み違えて、これから天候は回復するころなのに「無理せずに引き返そう」と決断するかもしれません。これではガイド失格ですね。ガイドに求められるのは、十分な知識に加えて、山を登り切るために必要な心の栄養を提供できることでしょう。登山に疲れてきた様子の人がいたら、そばによって声を掛けたり、ジョークの一つも行ったりする。それによって、もう一頑張りできて山頂を極められるかもしれません。ですからエキスパートはエキスパートとなるための知識、判断力、そして寄り添う心が必要となります。登山の経験だけでなく、天候を把握する能力を持ち、高山植物の魅力を伝え、グループの統制を取りグループ内に「体調不良?」という人がいたら登山を中止することを納得してもらえるだけの説得力があること、そして最後にエキスパートに求められるのは、登山者との信頼関係を構築することでしょうね。

おっと、ついつい登山について語りすぎてしまいました。母乳育児に話を戻しましょう。以下に、各特集のエッセンスを記します。お母さんと赤ちゃんが満足のいく楽しい母乳育児を行えるように、皆さんの知識をup-to-dateしましょう。

 

「赤ちゃんは伴走者」

たぶん、ここが「授乳の支援方法」を求めている人と「母乳育児」支援との視点の差かもしれません。

 

 

「母乳育児」というのは富士山級から高尾山級とゴールにも差があるようです。

だから「母乳を一滴でも飲ませれば、それは母乳育児です」という言葉が広がったのかと、改めてこの記事を読み直しています。

 

 

それを求めている人もいるのかもしれないけれど、少なくとも新生児や乳児ではないし、日々接するお母さんたちの悩みともなんだか違うのですけれど。

 

 

それにしてもこうした気持ちを鼓舞される記事を読んで、また人一倍授乳に熱心なスタッフが繰り返し出現して、失敗が生かされずに、同じ過ちを繰り返していくのではないかと不安になってしまいます。

 

 

 

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