行間を読む 191 「交通権」と交通基本法

交通権という概念がいつのまにかできていたことに目から鱗の気分でしたが、「国民の交通権(現代社会の交通の権利)を保障することを考えてこなかった」と書かれているその資料は、なんだか心に沁み入る内容でした。

 

 わが国の産業政策、道路政策や交通政策等の方向を大きく転換し、まち・地域づくりと交通権保障との両輪で、だれもが安全で安心して移動できる豊かな社会を実現することが切に望まれる。これが指向される背景には、全世界な地球温暖化防止等の観点もあるが、急速な高齢化の進展のもとで豊かな生活の質(Quality of Life, QOL)を規定する基礎・土台として、すべてのひとと環境に優しい公共交通の重要性が高まっているからである。

 「地域独自の個性や魅力を活かしたまちづくり・地域づくり」が展開されるべきで、そのためのだれもが安心して安全に、いつまでも住みつづけられる「プラットホーム」・土台、すなわち社会インフラとして公共交通を位置づけるべきといえる。土台の公共交通が不十分であれば、医療・福祉、教育、あるいは観光等諸施策も十分にその成果が出せないのである。地域地域で住民の交通権を保障し、地域づくり・まちづくりを進める上で欠かせない地域公共交通・生活交通の構築を急ぐことが重要で、それがないと地域の崩壊に一層拍車がかかるであろう。

 わが国において、高齢化および運輸事業規制緩和が著しく進展し、地方市町村合併の強制等々で、地域住民の移動制約者が急増している。交通権概念を豊富化し、その保障を確保する交通基本法制定の機運は熟している。

 ひとと環境に優しい公共交通機関の実現が切に望まれているが、そうした持続可能な交通システムの公共交通を維持発展させることも交通基本法の役割となる。環境負荷の少ない公共交通体系の確立、人々が安全で健康に生活できるまちづくりと交通の実現も挙げられる。

 

 このように「交通権」保障の問題は、今後わが国の交通政策の大きな柱になるべきと考える。近年、高齢者・身体障害者の社会参加の推進および高齢化社会の進行に伴うバリアフリー化の一層の推進、規制緩和に伴う地方鉄道・バス等の生活路線廃止に歯止めをかける等、いわゆる「移動制約者」が移動を確保することについての要望が極めて高まりつつある。

 

(「交通政策基本法について」、国土交通省

 

近未来の交通手段に不安を感じていたのですが、そういう社会の雰囲気をここまできちんと把握して言語化されていたのですね。

 

 

*公共性とは何か、また社会が前進した*

 

 

この「機運が高まった」のはいつ頃で、交通政策基本法はいつ制定されたのでしょうか。全く記憶にありません。

国土交通省のホームページによると、平成25(2013)年11月27日に「交通政策基本法」として成立したとありました。なんとすでに10年もたっていたようです。

 

そしてその経緯に、平成14(2002)年ごろから検討が始められたものの、あの未曾有の事態の真っ最中に一旦廃案になったことが書かれていました。

 こうした検討結果を踏まえて法案作成作業が進められ、同年3月8日には「交通基本法案」として閣議決定し、国会に提出しましたが、その3日後に東日本大震災が発災するなど、閣議決定後の様々な情勢変化を受け、平成24(2012)年8月には衆議院参考人質疑までは行われたものの、同年11月の衆議院解散により、「交通基本法案」はいったん廃案となりました。

 

 その後、同年12月に政権交代がなされたものの、交通に関する基本法制の重要性については変わることがないことから、大規模災害への対応や、施設の老朽化への配慮などといった規定の追加、国際競争力の強化や地域の活性化といった内容の充実その他の修正を加えた上で、「交通政策基本法案」として平成25(2013)年11月1日に閣議決定し、改めて国会に提出することとなりました。

 

東日本大震災もまた竹の節として、公共性や公共事業の概念をまたひとつ深めさせたと言えるでしょうか。

 

あの未曾有の災害の大混乱の中でも、そして政権が交代しても、「交通権」という普遍性と平等性のために働いてくださっていた方々がいたことに、やはりまだまだこの国は大丈夫という気がしてきました。

 

 

 

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