助産師と自然療法そして「お手当て」 45  <「妊娠9週までに丸ナス型の子宮作りを!」>

「妊娠9週までに丸ナス型の子宮作り」って何のことやらと思う方がほとんどだと思います。
助産師なら「助産雑誌」などに掲載されている広告で、見たことがある人は多いでしょう。


「こわいことが書いてあるから」と捨てられたパンフレット」にも説明が載っています。


妊娠初期のエコー(超音波)写真を見たことがない方は、「胎児の超音波写真」を参考にしてみてください。
ネットって本当に便利ですね。こんなに見やすい資料がすぐに手に入るので。リンク先の施設に感謝です。


<「9週までに骨盤ケアを実行するのが理想的」?>


さて例のパンフレットには「姿勢の良い元気な赤ちゃんを産み育てるための方法」が書かれています。


2枚のエコー写真が載っていて、一枚には「現在、多くの人が細ナス型」、もう一枚には「1995年ごろまでは多くの人が丸ナス型でした」と書かれています。


お子さんの妊娠初期のエコー写真をみて、「本当だ。私も細ナス型だ」と思ってドキッとされる方が多いことでしょう。


上で紹介した「胎児の超音波写真」をもう一度じっくり見てくださいね。
12週ごろまでの写真は、「細ナス型」になったり「丸ナス型」になったりしています。
で、まぁそれがどうしたという程度の話なのですけれど、パンフレットには以下のような解釈が載っています。

(パンフレット内の)二つの胎のうの写真は同じ人のものです。でも出産を繰り返すごとに、骨盤の状態が悪化し、胎のうが丸みを失っていきました
あなたの胎のうの形は?

やわらかい子宮だと丸ナス型の胎のうになり、赤ちゃんは自由に動けてあぐらを組めます。かたい子宮だと細ナス型の胎のうになり、赤ちゃんは自由に動けず、ひざを伸ばしがちになります

パンフレットにはもう一枚エコー写真が載っています。
そちらには、以下のような解説が書かれています。

これは他の方の妊娠14週の細ナス型の子宮です。両膝を伸ばして、両足の甲が顔の前にありますが、この後、骨盤ケアを行ったところ、ひざがまがりました。ひざを伸ばした状態が妊娠後期まで続くと、股関節脱臼の原因になります。

丸ナス型の子宮の中で、赤ちゃんがあぐらを組んで両手をなめられる姿勢にしましょう。

そのために「骨盤ケア」を勧めているらしいのですが、パンフレットには骨盤ケアがどういうものなのかは説明されていませんが、「9週を過ぎた人はすみやかに、トコちゃんベルト1・2(*原文はローマ数字)で骨盤輪支持をしたり、操体法やゴムチューブ体操などを行いましょう」と書かれています。


9週ぐらいって、何をしてもしなくても「細ナス型」になったり「丸ナス型」になったりするのですけれどね。


<なぜ妊娠初期のエコー写真は「細ナス型」になるのか>


私自身は超音波(エコー)について専門的に勉強したわけではないので、ごく一般的な(助産師として常識的な)範囲の知識しかありませんので、もし間違った記述や不正確な記述がありましたらどうぞご指摘いただければ幸いです。


まず、超音波画像は、X−P(レントゲン)とは違って、「そのものを映し出している」わけではないということがあると思います。


超音波のしくみを説明できる知識はないのですが、冒頭で紹介した「胎児の超音波写真」をみるとわかるように、超音波写真というのはバームクーヘンを切り分けたような独特の形をしています。
超音波(エコー)で探査している範囲と、体内の組織に反射して戻ってきた超音波を描きだしている「だけ」なので、そこに映った形がそのままの形を現しているものではないということがいえると思います。


それから、実際に子宮腔内が丸く映ったり、細長く映ることもありますが、それは妊娠の羊水腔の変化によるものだと理解していました。


「胎児の超音波写真」の妊娠9週と妊娠11週の写真がわかりやすいと思いますが、胎児のまわりにうっすらと白い輪がみえます。
これが胎のうの部分です。
妊娠4〜5週あたりで、子宮内の妊娠が確認されたときに、この胎のうが小さな輪として映ります。


その後、徐々に子宮腔は細長く映ることもありますが、よく見れば胎芽が育ち始めている胎のうは子宮腔よりも小さく丸く写っています。


子宮腔内の胎のう以外の部分は何かというと、羊水ができ始めている部分(羊膜腔)です。
それについての説明を、「周産期医学必修知識 第7版」(『周産期医学』編集委員会編、東京医学社、2011年)から引用します。

妊娠初期の羊水の産生は母体血漿からの漏出が主と考えられている。また、妊娠初期に羊水腔を羊水が満たし、羊膜腔が拡大し羊膜と胚外体腔は接近し融合する形状を呈する。胚外体腔は徐々に圧縮されて狭小化するが残留した液体が偽羊水と呼ばれる。
胎児側からの羊水の産生については妊娠20週未満の胎児の皮膚は角化しておらず、胎児血管から胎児血漿部分や水分が羊膜腔に漏出する程度で、妊娠初期での胎児側からの羊水の産生はわずかである。
(「13. 羊水」p.39)

つまり、胎芽あるいは胎児をつつむ白い輪の部分は、母体から作られた羊水が溜まり始めた部分です。
そして最終的に羊水を包む膜がその白い輪の部分と一体になるということだと思います。


ですから、妊娠初期の超音波画像では、妊娠週数によって子宮腔内が丸く見えたり細長く見えたりすることもある、ということだと理解していました。


また妊娠初期の超音波写真は、分娩予定日の計算が重要なポイントですので、そのために赤ちゃんの頭殿長(とうでんちょう)といって頭からお尻の部分までの長さの計測をします。
その頭殿長が一番見えやすい位置に超音波があたるような角度にします。


長細いナスを縦に切れば切り口は細長くなりますが、輪切りにすれば切り口は丸くなります。


ただ、それだけのことだと思っていました。


子宮腔内が細長く映っても、異常と診断したりあるいは何か異常が起きるので予防的なことをする必要があるという医師の判断も今まで聞いたことがありません。


超音波画像で妊娠初期に細長く映っても丸く映っても、それも自然な変化だと言えるのではないでしょうか。
皆、そのように映るので。


つまりは「それ(骨盤ケア)」をしてもしなくても、結果は同じでしょう。


骨盤ケアを掲げている助産所のHPで「エコー写真で子宮の形が気になる方」と書いてありました。
まずは気にしなくてよいと思いますし、それでも気になる方は「まずはお医者さんへ相談」ですね。
行くところを間違わないように。


それにしても最近では助産師向けの「超音波診断」の研修会が開かれたり、助産外来や助産所でエコーの器械を扱っている助産師が増えてきたようですが、勉強した人たちの中から「助産雑誌」などに載っている広告をおかしいと是非反論して欲しいものです。




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助産師と自然療法そして「お手当て」 44 <赤ちゃんの頭のゆがみの原因>

さて例の怖いことが書いてあるパンフレットを少しずつ見ていこうと思います。


「なぜ赤ちゃんの頭がゆがんでいたらダメなの?」という漫画があって、次のようなことが書かれています。

最近の子供たちの中にはまっすぐに走れない子や・・・でんぐりがえりが上手にできない子がいます。
ころんでも手が出ずに頭を打ってしまったり、肩こりがひどい子もたくさんいるようです。

昔の子供たちにはあまりなかったそんな症状が急増している原因に「頭のゆがみ」が急増しているのです。
「あたまのゆがみなんてそのうちなおるわよ」なんて言っているお母さん!それはとっても危険なことです。
大人になっても頭のゆがみが原因で体のバランスがくずれて苦しんでいる人がたくさんいるんですよ!

人間は二本の足で直立歩行をしますが、頭がゆがんでいると首の骨や背骨がねじれ、骨盤もゆがんでいることが多く・・・これらのゆがみががんこな頭痛や肩こり腰痛などの原因になるんです。

だから今まだお子さんが赤ちゃんのうちに、頭をゆがませない寝かせ方や頭のゆがみを改善させることがとっても大切なんです。

わぁ大変。
今まで聞いたこともない新説を聞くと、たとえ小児科医が向き癖は自然と矯正されるし脳実質や精神運動発達障害には影響しないと説明しても、不安になることでしょうね。
「将来、肩こりや頭痛の原因になるといけないから」と。


「ゆがんでしまった赤ちゃんの頭のなおし方」として紹介されているのが、「向き癖防止クッション」「天使の寝床」とかいうベビーベッドにつけるハンモッグのようなもの、そしてぐるぐる巻きにする「おひな巻」という布です。


しめて、1万6590円。
成長によってサイズを変える必要もあるようですし、これ以外にもDVDや授乳クッション、「背骨全体を正しく保つ」枕まで購入したら、さらに2〜3万円は飛んで行きそうです。


<赤ちゃんの頭のゆがみと骨盤のゆがみ>


いわゆる「向き癖」は生まれたあとの姿勢だけではないそうです。
「原因の二つ目!骨盤のゆがみ」として、次のような説明が書かれています。

お母さんの骨盤がゆがんでいると分娩のときに赤ちゃんの方がお母さんの尾骨にひっかかって赤ちゃんはななめになって生まれてきます。
そのため首の骨(頚椎)にズレがおき、首が左右どちらかにしか向かなくなるのです


新生児は分娩時(まれに胎内で先天的に)に頚部周辺に損傷を受けることがあります。
時々遭遇するのが、分娩麻痺や鎖骨骨折、あるいは斜頚が代表的なものです。


特に4kg以上の大きな赤ちゃんや骨盤位の赤ちゃんは胎内でも部分的に圧迫を受けやすい姿勢をとらざるを得なかったり、お産の時にも肩や頭が出にくいために通常よりも介助者が強い力をかけざるを得ないために分娩損傷が起こります。


たとえば分娩時などに頚部を過伸展することによってしばらく片方の手が動かなくなる麻痺がおきることがあります。
その理由は「第5、第6、特に第7頚神経に損傷を受けた場合生じる」(「周産期医学必修知識 第7版」p.522)と書かれています。
その場合、神経の損傷です。


ですから分娩時の神経損傷はありますが、私自身は今まで新生児に関して「頚椎のズレ」という表現も診断名も、ましてや治療方法も聞いたことがありません。


パンフレットでは以下のように書かれています。

遷延分娩といって陣痛が始まってもお産が進行しにくいケースがあるんだけれど、骨盤ケアをするとこれも少なくなるし切迫早産にもなりにくく逆子もなおることが多いの。
吸引分娩や帝王切開になると赤ちゃんの首をひねることが多く、それも頭のゆがみの原因になるの。

そこで妊娠中から、「締まった骨盤をつくる骨盤輪支持」のためにトコちゃんベルトをして、「骨盤の形を整える骨盤調整」としてゴムチューブを使った骨盤調整の体操をすることを勧めています。


体操用ゴムチューブが2,100円、体操のDVDが2,625円だそうです。
あ、トコちゃんベルトもかわなくっちゃ。
トコちゃんベルト1が5,775円、その「妊婦帯」が2,625円、トコちゃんベルト2が7,350円、その「妊婦帯」が3,150円。「締めつけがなく内臓を下垂させない」というトコちゃん専用パンツもあると便利そうだから12,600円。


自分勝手に装着してはいけないそうだから、指導を受けなくっちゃ。
指導料3,000円?
あ、こっちの助産師は2,000円だからこっちの方が安いわ。でも初診料5,000円?
ふぅっ。


なんだか、風がふけば桶屋が儲かるのような話ですね。


勧めている助産師の皆さん、大丈夫ですか?





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助産師と自然療法そして「お手当て」 43 <赤ちゃんの「頭のゆがみ」とは?>

先日、退院間際のお母さんが「こわいことが書いてあるから」とゴミ箱に捨てていたので、そのパンフレットをもらって帰りました。


トコちゃんベルトを購入されたときについてきたパンフレットだそうです。
「トコちゃんのベビーケアー  おかあさん!赤ちゃんの頭をゆがませないで!」と表紙には書いてあります。


母子整体研究会やトコちゃんベルトを販売している会社の広告を「助産雑誌」などで時々見かけていたましたが、赤ちゃんの「頭のゆがみ」あるいは胎内での「ゆがみ」について書かれていたので気になっていたものでした。


その内容について考える前に、「あたまのゆがみ」についての考え方を紹介します。


<「頭が変形していますが直りますか?」>


新生児期から乳児期にかけてのいわゆる「向き癖」や「あたまのゆがみ」は不安に思われることのひとつで、私たち助産師もよく質問を受けます。


助産師も自身の子育て経験や他のお母さん達の話などの「個人的体験談」から「これがいいよ」といいたくなることもあるかもしれませんが、医学的に標準的な考え方を押さえておくことは大事だと思います。


「周産期相談318 お母さんへの回答マニュアル」(「周産期医学編集委員会編」、東京医学社、2009年)の「152.頭が変形していますが直りますか?」についての回答内容を抜粋します。

回答のポイント


1.多くの変形は坐位や立位など頭部を起こす時間が長くなると自然と矯正されていく
2.変形があっても脳実質や精神運動発達に影響はない
3.変形が強い場合には頻回の頭部の位置変更や矯正器具を考慮する。
4.異常顔貌やほかの外表奇形を伴う場合は骨縫合早期癒合症の有無に注意する。

実際に多くのお母さんへの回答は上記の1と2を踏まえた内容で十分だと思います。
3、4の場合に、私たち助産師がお母さんたちに関わるとすれば、当然、医師の診察と治療計画の上です。


上記の本では、通常のいわゆる「向き癖」について、お母さん達にわかりやすいように回答モデルが書かれていますので紹介します。

1.体位による変形性斜頭の場合


 胎内での赤ちゃんの頭の向きや位置によって、また分娩のときに狭い産道を通過する時に頭が圧迫されることによって、そのほかでは、出生後の頭の向き癖などによって赤ちゃんの柔らかい頭の形はしばしば変形することがあります。しかしほとんどの赤ちゃんでは、おすわりや立つ時間が増えて頭へ加わる圧が減ってくると、また脳の成長に伴い、変形した頭は自然に矯正されていきます
 頭の形が歪んでいるからといって脳の成長、機能への影響はありません。したがって発育発達への影響についても心配なさることはありません。よく円座枕やタオルなどを使って寝かせることもありますが、大抵は、ずれてしまって効果がないことが多いですね。気になるようであれば、ときどき気がついた時に頭の向きを変えてあげたり、少し抱っこをしてあげる時間を増やす程度で様子をみてもらえばいいと思います。ただ後頭部が扁平だからといってうつぶせ寝にすることはお勧めできません。これはうつぶせ寝が乳幼児突然死症候群のリスクを高めるといわれているからです。でも変形が強くどうしても気になるようでしたら、ヘルメットやバンドを使った矯正危惧を利用する方法もありますので、またご相談ください。

最後の部分の「ヘルメットやベルトを使った矯正器具を利用」というのは、あくまでも「治療」ですから相談機関は小児科へといういう意味です。整体その他の代替療法ではありません。



つまり、「あたまのゆがみ」への不安に対しては上記の内容をアドバイスすれば十分な対応になります。


お母さん達が不安にかられてさまざまな物品を購入したり、「施術」が必要と思いこまなくて済むようなアドバイス助産師もする立場にあります。



でも一旦、不安なことを聞いてしまったお母さん達に、このシンプルなアドバイスがどこまで伝わるものでしょうか。


パンフレットをゴミ箱に捨てたお母さんにもこういうお話をしたのですが、どこまで通じたでしょう。


「赤ちゃんの頭をゆがませないで」という助産師は、日々、たくさんの乳幼児を診察している小児科の先生方も気づいていない何か大発見があるのでしょうか。
そのあたりを次回からみていこうと思います。


それにしても「自然に頭の形は矯正される」という自然な経過を認めない不自然さですね。




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助産師と自然療法そして「お手当て」 42 <母子整体とは?−新生児・乳児編>

母子フィジカルサポート研究会のHPの最初には「キーワードは『姿勢と発達』」とあり、中の「母子フィジカル研究会とは」には、以下のように書かれています。

当会の提唱する「母子フィジカルサポート」とは、「母と子がその人らしく妊娠・分娩・育児に適応できるよう身体的特徴(姿勢と発達)を踏まえたサポートを行うこと」


心理学的には生まれてから死に至るまでの人の変化に対して「発達」という表現を使うようですが、通常の医療の中で「発達」というのはおもに小児に対しての用語だと私は受け止めていました。


ですから、「姿勢と発達」を小児だけでなく母に対しても「その人らしく妊娠・分娩・育児に適応できる」という対象を広げた使い方に何か違和感がありますが、具体的に新生児や乳児に対してどのような支援方法なのかみていきたいと思います。


<べびぃケアとは何か>


同研究会の代表理事、吉田敦子氏は「おなかにいるときからはじめるべびぃケア:妊娠・出産・育児を気持ちよく」(吉田敦子・杉上貴子氏、合同出版、2012年)という本を出しているようです。


Amazonでみると、以下のような内容です。

【内容説明】
べびぃケアは赤ちゃんの姿勢に注目した育児法
毎日の育児や遊びにこの視点を取り入れると、にこにこご機嫌、すやすやと眠り、妊娠・出産・育児がらくらく楽しくなります。

【内容 (「BOOK」データーベースより】

赤ちゃんとママのからだを整えるべびぃケアをはじめましょう。
おなかの中を整えて、赤ちゃんとママに心地よい妊娠・出産、だっこ、おっぱい、おねんねをケアして、赤ちゃんもママもお気持ちいい毎日。
妊娠・出産・育児が楽しくなります。

べびぃケアは「赤ちゃんの姿勢に注目した育児法」とのことですが、「おなかの中を整える」とは何でしょうか?
育児法というのは、通常、生まれた後の赤ちゃんに対する言葉だと思うのですが、胎児も対象にしているのでしょうか?


同研究会が提唱する「べびぃケア(べびぃ整体)」とは何か、HPには書かれていませんでした。


そこで、「べびぃケア」を掲げている助産院から紹介してみようと思います。


<新生児〜幼児期のフィジカルケア>


その助産院では、「べびぃケアを含む」として「新生児〜幼児期のフィジカルケア」を掲げていました。


内容をそのまま引用します。

ー母子共に"気持ち良い"と感じる育児法は、赤ちゃんの発達を促し、親に自信を持たせてくれるー


回旋異常・微弱陣痛・遷延分娩・吸引分娩・帝王切開などで生まれた赤ちゃんは、身体がこわばっていることが多く、「つらい」「苦しい」「痛い」と訴えて、よく泣いたり、泣き叫ぶことが多いのです。赤ちゃんの「泣く」は大人に伝えたいメッセージであり、訴えなのです。決して理由もなく泣くことはありません。ぜひ赤ちゃんの身体を"気持ち良い"状態にしてあげてください。
また、そのような赤ちゃんは上手に母乳が飲めないことが多いのです。
母乳分泌不足・上手に飲ませられない・飲めない等は、まず赤ちゃんの問題を解決してあげることが大切です。

赤ちゃんの頭のゆがみは、いろいろな問題を含んでいて、赤ちゃんが辛い思いをしていることが多いのです。
まずは向き癖(これは癖ではない)を作らないことも大切です。

*全身が未熟な赤ちゃんの養育方法(赤ちゃんの扱い方)にも慎重さが必要です。


最近は、赤ちゃんの扱い方が丁寧でない傾向があると感じています。気持ち良い状態にしてあげる養育方法を学び、赤ちゃんが元気に正常な姿勢運動発達ができるようにしてあげてください。

退院後、早めに来院し、その後も発達段階に応じて定期的に来院されることをお勧めしておきます。正常な姿勢運動発達には、その順番が重要であり、将来の二足歩行の準備期としても重要な意味があります。

身体が歪んでいる気がする・よく転ぶ・歩き方は変?常に身体を動かし落ち着きがないなど気になるお子さんへの整体やご家族への対応指導


何だかいろいろなところで目にしますね、「育てにくい赤ちゃん」とか「こうすれば将来大丈夫」のようなものを。


たとえば「母乳育児がつらくなるー育てにくさの要因」として舌小帯切除を勧めたり、非行少年にさせないための「妊娠・出産・授乳期のプライマリー・アダプテーション」とか。
あるいは、「良い子が育つ食べ方」とか。



赤ちゃんの異常ではない本来の姿を「育てにくい」として、それを舌小帯や頭のゆがみ、あるいは食べ物に原因があるといえるほど、その助産師は本当に赤ちゃんを観察しているのでしょうか?
あるいは、それを問題の本質だと言い切れるほどたくさんの赤ちゃんやお母さんたちの全体を把握したうえで、検証しているのでしょうか?


思い込みで、必要もない不安をお母さんたちに広げることになっていなければいいのですが。


次回は「赤ちゃんの姿勢に注目した育児法」でよく聞かれる「赤ちゃんの頭のゆがみ」について考えてみようと思います。




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助産師と自然療法そして「お手当て」 41 <母子整体とは?ー妊産褥婦編>

助産師の中の整体の火付け役ともいえる母子フィジカルサポート研究会(母子整体研究会)はどのような考えに基づき、どのような対応を行っているのでしょうか。


しばらくこの母子フィジカルサポート研究会(母子整体研究会)についてみていこうと思います。


<母子フィジカルサポート研究会の設立趣意書より>


代表挨拶の中に「骨盤ケアとべびぃケア(仮称)を周産期のスタンダードケアに」とあります。
その「骨盤ケアとべびぃケア」とは何か、設立趣意書には以下のように書かれています。

妊産婦の腰痛の特徴は骨盤に由来するものと考えられる。なぜならば、胎盤から分泌されるじん帯を緩めるホルモン=リラキシンにより、骨盤の関節が緩み、それにより関節が成立することが主な原因であると報告されているからである。
ところが、このことはまだごく少数の整形外科医や産婦人科医にしか認知されておらず、ましてやそれに対する対策や治療を行う者がほとんどいないのが現状である。
妊産婦は出産が終わるまで痛みを我慢せざるを得ない。このように、妊産婦の腰痛という分野は、産婦人科医・助産師・看護師・整形外科医・療術業者の誰もが自分の診るべき分野と考えておらず、「医療の隙間」に置かれている。


この設立趣意書は2011(平成23)年に書かれたもののようです。


その5年前に出版された「周産期の症候・診断・治療ナビ」(『周産期医学編集委員会』編、東京医学社、2007年)には、妊産婦の腰痛に関して「姿勢性腰痛」「腰椎椎間板ヘルニア」とともに「骨盤輪不安定症」について以下のように書かれています。

2)骨盤輪不安定症
 骨盤輪不安定症とは女性において仙腸関節や恥骨痛結合に異常可動性が生じ、骨盤輪が不安定となることが原因となって主に腰痛をきたす疾患である。
症状は腰仙部や恥骨部の疼痛や圧痛であり、ときに歩行障害を伴うことがある。妊娠すると、初期からエストロゲンプロゲステロン、レラキシンなどのホルモンが急増して、その生理作用により、骨盤輪のじん帯が弛緩する。したがって体重増加がほとんどみられない妊娠早期から腰痛を生じることが特徴である。
 骨盤輪不安定症による腰痛は、歩行や起立、寝返り、立位の保持といった日常生活の動作時に起こり、両側の仙腸関節部を中心とした痛みであり、通常の腰痛よりやや尾側よりである。また少数ではあるが、下肢の痛みを伴う妊婦もいる。通常は、痛みの訴えは両側性であるが、左右で疼痛の程度に差が見られたり、片側のみのことも少なくない。
(中略)
 初回出産後に本疾患による腰痛を発症した女性は、次回以降の妊娠、出産時に、より高度の症状を呈する傾向がある。分娩直後に発症ならびに増悪した腰痛の多くは、骨盤輪不安定症が多い。

すでに、医学的に妊娠中の腰痛に対しては症状・原因、そして治療法や管理方法が明らかになっていて、私たちもそれに従って妊産婦さんにかかわっていました。



「姿勢性腰痛」に対しては、正しい姿勢や日常生活の中での動き方のアドバイス、あるいは軽いストレッチ・水泳などの運動療法と、アセトアミノフェンや湿布などの薬物療法もあります。
椎間板ヘルニア」に対しては、安静、鎮痛剤・神経ブロック、装具などの治療法を行います。



それに対して「骨盤輪不安定症」については以下のように書かれています。

 骨盤輪不安定症は姿勢性腰痛と異なり、産褥期にも症状が持続ないし悪化することが少なくない。治療法として安静と薬物療法と装具療法が一般的であるが、骨盤支持ベルト(トコちゃんベルト(R)など)が有用である。
 骨盤支持ベルトは、上前腸骨棘(きょく)付近ではなく、恥骨と仙骨部を中心とした、骨盤輪を強く締めるタイプのものを使用する。骨盤輪不安定症の妊婦に骨盤支持ベルトを装着させると、腰痛が劇的に改善することが多い。逆に骨盤支持ベルトを装着して症状が改善する場合には、骨盤輪不安定症と診断することも可能である。装具療法により症状が軽減しない場合や、出産後も症状が持続する場合には整形外科医による診断と治療にゆだねる。

そう、骨盤輪不安定症の腰痛に対しては、トコちゃんベルトを含む骨盤支持ベルトの効果が認められています。
それが、昔はさらしで恥骨から大転子部あたりを固定する方法だったわけです。


そして、改善されなければ整形外科へ紹介することも書かれています。


これだけ医師側では治療方針が明確なのに、なぜ「医療の隙間」と感じるのでしょうか?


私は、どちらかというと助産師側がこの骨盤輪不安定症に対する看護基準を標準化(スタンダードケア化)することが遅れているからだと考えています。


以下の2点を明確にすればさほど難しいことではないと思います。

1.骨盤支持ベルトは、上前腸骨棘付近ではなく恥骨と仙骨部を中心とした骨盤輪を強く締めるタイプであれば、特殊な製品である必要はない。


2.骨盤支持ベルトは、妊婦全員が装着する必要はない。腰痛があり、医師の診察により骨盤輪不安定症の可能性と診断された場合に、生活へのアドバイスとともに骨盤支持ベルトを勧める。


妊娠に伴う腰痛も「症状」であるわけなので、必ず医師の診断と治療方針に基づいてケアをすることが大事です。


助産師側が腰痛緩和以外の独自の効能を謳う骨盤ベルトを信じてしまうことによって、医師の治療方針に対応した看護基準の標準化が遅れたといえるのではないかと思います。




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助産師と自然療法そして「お手当て」 40 <新生児や赤ちゃんへの整体>

出生直後の新生児を逆さづりにする助産師の話を直接聞いてショックを受けたのは数年前のことでした。


知人の孫が自宅分娩で生まれた時のこと、分娩介助した助産師が生まれた直後の新生児の足を持って逆さづりにしたというのです。


「胎内で歪んだ体を、左右まっすぐにするために最低でも15秒ぐらい
逆さにするとよい」というような説明をしたそうです。


「自然なお産」を謳う出産の不自然さは、ここまで危険なことも見えなくさせるものかと愕然とする話でした。



<新生児を逆さづりにしていた蘇生法>


出生直後の新生児を逆さづりにすることは、古い古い新生児蘇生法として実施している医師や助産師が最近までいたことはこちらの記事に書きました。


現在は、以下のようになっています。

温められた別のタオルを用いて児の背部、体幹あるいは四肢を優しくこする
これで自発呼吸が開始されなければ、児の足底を平手で2,3回叩いたり指先で弾いたりする。背部を優しくこすってもよい。
そして再度気道確保の体位をとる。
(「新生児蘇生法テキスト 改訂第2版」より)

私が助産師になった1980年代終わり頃のテキストでは、以下のようになっています。

足の裏を叩く、脊柱をこすりあげる。
(「最新産科学ー異常編ー」の「新生児の蘇生法」より)

いずれにしても、出生直後の新生児を逆さづりにするようなことは学んでいませんでした。


根拠を明確にした文献はみつからないのですが、出生直後の新生児を逆さづりにすることで頭蓋内出血の可能性、内臓が肺を圧迫して肺胞が広がりにくくなる可能性あるいは股関節脱臼の可能性などが推測できます。


蘇生法としても行われなくなった「新生児を逆さづりにする」ことは、一体どこからきたのでしょうか?


<新生児の頚椎のずれ>


新生児を逆さづりにする「施術」自体は見つからないのですが、カイロプラクティックを標榜しているHPに時々みられるのが、新生児の頚椎のずれという内容です。


日々、新生児に接している私たちが学んだこともない知識であり、みたこともない異常ですが。


いくつかのHPから拾ってみます。

背骨の中で最も重要な対骨はアトラス(頚椎1番)です。脊椎全体を通してこのアトラスがサブラクセーション(骨のズレ)を起こすと、神経学上の圧迫、干渉の第一の原因となります。


人間が一生をつうじて最初に上部頚椎のズレの危機にさらされる可能性は出産をあげることが出来ます。

アメリカのステファン・ダフドクターは最初のサブラクセーション(骨のずれ)は、ほとんど出産時母親から赤ちゃんを取り出すとき吸引、カンシを使うことによっておこる。アメリカ国民の90%が不自然な環境の中で生まれる時に起こっていると指摘しています。

上記は分娩時に胎児に頚椎のズレか起きるという主張ですが、それ以外に、新生児が一定の方向を向くことによってずれるというものもあります。

乳幼児の正常な心身の発育に最も重要なことは、愛情、栄養とともに、頭頚部と骨盤・股関節を正常に保つことです。


極端に決まった方向のみに向いている新生児は、頭と頚椎の継ぎ目にズレと固着が生じている可能性があります。
頭頚部に異常が生じると目の動きに異常が生じます。そして頭が傾き、平衡感覚が悪くなります。

そのままほ放っておくと「情緒の不安定や知力の発達障害をもった子どもに成長するおそれ」があるそうです。

出産時に首や股関節や頭蓋骨に受けるストレスによって引き起こされる症状を「バーストラウマ」といいます。

首のすわりが悪い、寝返りがうまくできない、はいはいがうまくできない、おっぱいをしっかり飲めないなどは、この「バーストラウマ」が原因だそうです。

バーストラウマは医学的(お医者さん的)には正常であっても、首や頭(新生児はまだ頭蓋骨が完成していません)、股関節などに無理な力がかかりそこにズレと固着(うごきにくくなっている状態)が生じている状態です。


脅かしますね。
医師が気づかない異常が忍び寄っているような怖さを感じてしまうことでしょう。


良心的にカイロプラクティックをされているかたの名誉のために、全国カイロプラクター協議会のサイトを紹介しておきます。


その中に次のように書かれています。

日本では代替医療にも認められていないこととあらためて再認識する必要がある。

日本ではカイロプラクターは、治療はしてはならないのです。できるのは施術だけです。病気のアドバイス、指導、相談などはとんでもないことです。
たとえ知識があっても絶対にしてはならいことです。

またカイロプラクティックが適さないケースには以下のように書かれています。

17.妊産婦
18.幼児に対するアジャスト
 5歳以下の幼児には絶対にしてはならない


いったい、あの助産師が行った新生児の逆さづりはどの考えから来たのでしょうか?





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助産師と自然療法そして「お手当て」 39 <出産・育児周辺の整体>

「整体」と称している療法はまさに百花繚乱という感じで、考え方も「施術」もさまざまだということが調べているうちにわかりました。


そして、妊産婦さん、あるいは産後のお母さんや赤ちゃんに対する整体もけっこうあるようです。


野口整体


野口整体といえば出産後、左右の骨盤が閉じるまで安静にするという考え方に驚いたのですが、それ以外にも妊娠中や産後についての効果を謳っているようです。


ある野口整体の整体院では、以下のように書いてあります。

妊婦の整体は、妊娠・出産を、母体をより健康へと導く機会として活用するものであり、同時に産まれ来る赤ちゃんが元気で丈夫な子に育つための基礎をつくることが目的である。もちろん妊娠中のいろいろなトラブルにも対処する。

そんなにすばらしい方法があれば、是非その方法を一般化して、それこそ助産師の保健指導として採用できたらよいのではないかと思います。

妊娠中に起こる症状として多いのは、つわり・むくみ・腰痛などだが、これらは愉気を主体としたシンプルな操法でほとんどの場合、簡単に消失していまう。

愉気(ゆき)とは手を当てることのようです。

つわりの8〜9割は、妊娠して緩むべき骨盤が硬直している場合に起こる。ほとんどは骨盤の左右どちらかがより硬直し、そちら側の腸骨が開きにくくなっている。これを愉気して緩めれば、だいたいの場合1回〜2回の操法でつわりはなくなってしまう。

野口晴哉(はるちか)氏は、「腰椎5が引っ込んでいる」ことがつわりの原因としていたようですが、同じ野口整体でも考え方が変化しているようです。


いずれにしても「治療を捨てた」野口整体ですが、かなり治療に踏み込んだことが書かれています。


<マタニティ整体>


昨日の記事で「マタニティ整体」を掲げている助産院について紹介しましたが、この「マタニティ整体」というのはすでに商標登録がされている言葉のようです。


驚きですね。


マタニティ整体(R)のためのマタニティセラピストという資格もすでにあるようです。
そのスクールのHPには以下のようなことが書かれています。

○○スクールは、妊娠中のマタニティ期から産後の育児期の間、すなわち出産前後(アラウンドバース)の時期の女性の身体の変化に対する正しい知識と、それに対応できる整体技術の基本と考え方を学ぶスクールです。

マタニティ整体や産後の骨盤矯正テクニックといった「アラウンドバース」な時期に対しての知識や技術を教えている既存の整体スクール、専門学校というものは今まで存在せず、施術者としてもなかなか体系的に学ぶ機会というのがありませんでした。

そのため「妊婦さんに整体は危ない」という誤った先入観が業界内にも蔓延し、「産後のもっとしっかりした時期になってからまた来てください」などというネガティブな発言で施術を断る整体院も多く、この時期の女性は従来、辛い症状を抱えていながら施術を受ける事すらままならない、というのが現状でした。

医学的な教育体系のない「施術」であれば、妊婦さんを断るのはとても誠実な対応だと思います。

マタニティ整体や産後の骨盤矯正テクニックといった「アラウンドバースの女性」を中心にした、従来にはなかった新たなスタイルの整体院を開業するための必要にして十分な知識を学べる。

資格取得コースは、2週間(98時間)で約52万円のようです。


すでに系列店ができているようで、助産師も「開業」しているようです。
大丈夫ですか?


<その他いろいろな整体>


それ以外にもいろいろと名前のついた妊産婦さん向けの整体があるようです。
まずは、「妊婦整体」から。

女性は妊娠するとホルモンのシャワーを浴びているような状態になります。特にhCGが分泌されると特定の「張り」がつわりの原因になります。
また、胎児が大きくなるにつれて「重心」の位置がかわり、さまざまな不調の原因となります。
それらを非常にソフトな刺激で改善していくのが妊婦整体です。

妊婦整体は全身施術により、より効果的な方法となります。効果としては、
からだの余計な緊張が緩和する
安産になる傾向が高まる
胎児の成長が促される
産後の肥立ちが良好になる傾向が高まる

上記で「マタニティ整体」は商標登録らしいということを書きましたが、系列店ではなさそうなところでも使っています。
そちらの内容です。

お腹が大きくなるにつれ、重心が変り、進退の負担が大きくなるマタニティママ。「背骨・骨盤・肋骨」を調整することで赤ちゃんが育つスペースを広げ、「首」を調整することで自律神経やホルモンのバランスを整えます。赤ちゃんに栄養が運ばれやすくなります。


これらが実証されたら、世紀の大発見という感じで周産期医療はそうとう変ることでしょう。
それらの施術を助産師教育に組み込めば、妊娠・出産の異常を予防するためのプライマリーケアがどの医療機関でも受けられることになり、異常の発生が抑えられることになるでしょう・・・。


まぁ、助産師が施術をするようになったら、整体院は失業してしまうことになりますが。


次回は、新生児・赤ちゃんへの整体についてです。




助産師と自然療法そして「お手当て」」まとめはこちら

助産師と自然療法そして「お手当て」 38 <助産師が行っている整体的なもの>

おそらく助産師の中で「整体」という表現を使って妊産婦さんあるいは新生児・乳幼児になんらかの行為を行っているひとたちのほとんどが、前回の記事に書いたように母子整体研究会に関係しているのではないかと思っています。


その内容については、後に少しずつみていこうと思います。


それ以外にもいろいろな「整体」があるようです。今回は、母子整体でもなく、あるいは野口整体でもなさそうな整体についてみてみます。


<クラニオセイクラルセラピー>


日本語では頭蓋仙骨療法というらしいです。


頭蓋仙骨療法を実施している助産所のHPには以下のように紹介されています。

ラニオは頭蓋骨、セイクラルは仙骨
体のいくつかのポイントに'5gタッチ'と呼ばれるほどの軽い圧で、赤ちゃんを抱っこするように柔らかく優しく相手に触れ、身体のこわばりを解きほぐし、また脳脊髄液の流れを促進することにより、自然治癒力をかためていくものです。

「脳脊髄液の流れを促進し」という一言で、「科学(医学)を装って科学(医学)でないもの」という赤信号が私には見えてしまうのですが。


頭のあちこちを押すとなんとなく気持ちがよくなるのは理解できますし、「ここを押すと何かツボがあるのでは」と思いたくなるのもわかります。


ところがもっとすごい効果があるようです。

この療法は痛みやこりを軽減させるだけではなく、深いリラクゼーション効果や自律神経を整える効果もあり、自閉症精神障害学習障害などにも用いられています
全身骨格と分娩体位・母乳育児との関係性・重要性についても解説があります。

この効果をどのように検証したのか、医学の世界で議論をしようとしないところが民間療法の限界なのだと思います。

夫婦・親子でできる、家庭や職場で手軽にできる、お産の介助に役立つ、妊婦さんや赤ちゃんにもしてあげられる手当法です。

手軽にできる「お手当て」だそうですが、施術料はおとなが6,000円、赤ちゃんには3,000円と書いてあります。


皆が手軽にできるようになったら、施術料まで払って受ける人がいなくなるかもしれません。


<マタニティ整体>


次は、「マタニティ整体」と表現している助産所です。

当院での整体は、ボキボキと音をならすものではありません。頑張ってくれている筋肉を揉み解していくものです。

なぜ「頑張っている筋肉を揉み解す」必要があるのか、以下のような説明が書かれています。

そもそも、妊娠中には赤ちゃんの通り道を広げてくれるホルモンが分泌されます。
関節や靭帯を緩めてくれるホルモンなのですが、大きくなってくるお腹の分も支えなくてはなりません。
それを助けてくれるのが筋肉なのですが、筋肉も疲れてしまうのです
そして、もう無理だからこれ以上頑張らなくていいように「痛み」として信号を発信しているものです。

「筋肉の疲れ」に対する整体というのもあるのですね。


「筋肉の疲れ」って具体的にどういうことなのでしょうか。
「痛み」がその指標として使われる根拠は何なのでしょうか?
そのあたりからして「科学(医学)を装って・・・」と私にはまた、赤信号が見えてしまうところです。


さて、その効果はどのようなものなのでしょうか?

ママがリラックスしていると、お腹の赤ちゃんも心地よくなってよ〜く動いてくれます。
身体と心を整えて、お産・育児を迎えられるように一緒にケアしていきましょう。

実際にはほとんどの妊産婦さんが「その方法をしていない」わけですが、何か問題や違いはあるのでしょうか。


そして、「整体」の具体的な方法はかかれていませんが「ストレッチ」「施術やエクササイズ」とあります。


「揉み解す」とありますが、国家資格を有する医療類似行為でもなさそうです、「整体」と表現しているので。


<手を当てる>


次は、手を当てるケアというものをしている助産院のようです。

整体は施術者が手技を使って矯正するというイメージがあるかと思いますが、○○助産院がケアに取り入れている「整体」は全く意味が違います
ケアを受けてトラブルが改善しても、ご自分の心と体の使い方に気付かなければ元に戻っていきます。逆に、ご自分の心と体に気付き使い方が変れば、ご自分の力で「体は整い」、不調は改善していきます。最終的に、心と体を健康にしていくのは自分自身なのです。

そのため「手を当てさせていただくケア」+「ご自分でできる手当て・体操、体の使い方の指導」を助産院で行っているので、当院の整体は「助産師のケア+保健指導」になります。

え?大丈夫ですか?
整体が「助産師のケア+保健指導」って・・・。


具体的に「手を当てるケア」とは何なのでしょうか。

<手を当てさせていただくケア>は、とても軽く手を当てながら体の状態を観察していきます。手の温かさで気持ちよく眠ってしまうくらいです。
心や体に不調がある方は、気付かないうちに体に力が入っていたり、呼吸が浅かったりしますが手を当てる心地良さ・温かさで、心と体が和らぎリラックスしていきます。

人に体を触れられることが気持ちよいと感じる方は、リラックスできればそれでよいかと思います。
でも「保健指導」は違うようです。

体の緊張による腰痛などは手を当てるケアで緩和或いは消失しますが、ご自分の体の使い方を変えたり、ご自分で手当てをしていかないと、また元に戻ってしまいます。
一生、誰かの手による整体などがないと不調が改善しない体では困ります、整体などのいらない健康な体作りのために保健指導を行います

最初から整体とか民間療法を教えるのではなく、標準化した保健指導が助産師の仕事だと思うのですけれど。


助産師のいう「整体」っていったい何?>


ここの助産院のHPにはどこかで聞いたような内容が書かれています。

子宮は赤ちゃんのお部屋。フワフワでまん丸だと、子宮の血行も良くなり赤ちゃんに栄養がたくさんあげられます。それに緊張がないおなかは、なんと言っても温かいです。
(中略)
イカみたいにまん丸で、ふんわりしていて、温かいおなかになりましょう。


そう前回の記事でも紹介した母子整体研究会の母性衛生学会の資料にも、6ページに同じようなことが書かれています。


「緊張」「硬い」「冷たい」などに対して「リラックス」「やわらかい」「温かい」はわかりやすいけれど、人の体はそんなに単純なものではないと思います。
こういうわかりやすさにも慎重さが必要ですね。


ある助産師は「脳脊髄液の流れ」、ある助産師は「筋肉の疲れ」、また別の助産師は「手を当てる」ことで問題が解決するというのですが、それらがみな「整体」になっています。
他の助産院のHPを読んで、矛盾を感じないのでしょうか?


こちらの記事の最後に書いたように、「ニセ科学は白黒つける」「ニセ科学は脅かす」「ニセ科学は願いをかなえる」「個人的体験と客観的事実」といったとらえ方が助産師の中にきちんと浸透しないと、近い将来、助産師への信頼はもうとりかえせないものになるのではないかと憂慮しています。


次回は、助産師以外の出産・育児の整体について考えてみようと思います。




助産師と自然療法そして「お手当て」」まとめはこちら

助産師と自然療法そして「お手当て」 37 <恥骨痛と母子整体>

いつ頃からでしょうか。
助産師の中に「整体」という言葉が聞かれ始めたのは。


よくわかりませんが、開業助産師さんたちの間では古いのかもしれません。
でも私たちのように病院・診療所で勤務する助産師にとって、整体というのは聞きなれないものでした。


「体を整える」と書かれていれば、なんとなく良さそうというイメージを持ってしまいます。


<恥骨痛と母子整体>


助産師向けの雑誌などで「母子整体」という言葉を目にするようになったのも、それほど前のことではないという記憶です。


NPO法人母子整体研究会が2009(平成21)年の第50回日本母性衛生学会に参加した際の資料を見ると、当時の代表理事渡部信子氏の経歴では「1998(平成10)年に『健美サロン渡部』開業」、「2001(平成13)年 トコ・カイロプラクティック学院有限会社設立」そして「2002(平成14)年 母子整体研究会設立」とあるので、やはり「母子整体」という言葉はここ10年ほどの間に広がったようです。


ただそれ以前から、産後の恥骨痛に対応するためのベルトの存在として、話題はあったと記憶しています。


出産時には大きな胎児が骨盤内を下降してくるため、恥骨離開の程度によっては激痛が起こり、産後に体を動かすことができないほどひどい場合があります。
あるいは、妊娠中からあった腰痛が悪化することもあります。


それに対して、臨床では経験的に「恥骨痛に対しては、さらしなどで大転子部あたりを固定する」という方法が効果があると考えられていました。
大転子部というのは足の付け根のへこんだ部分あたりのことです。


「経験的に・・・考えられていました」というのは、私が助産師になった二十数年前の教科書や産科の医学書にも「恥骨痛への対応」を明確に書いたものもなかったのです。


産後の産褥期(さんじょくき)のお母さん方の心身の変化や症状、そしてそれに対する治療方法やケア方法というのは、妊娠・分娩までの力の入れように比べてまだまだなおざりにされている分野だと思います。


「周産期医学」(東京医学社)のここ10年ほどのバックナンバーを読んでも、「恥骨痛」に言及しているものはほとんど見つけられません。
唯一見つけたのは、「周産期診療指針 2010」(周産期医学編集委員会、東京医学社)の以下の部分でした。

 腰仙骨神経叢の障害や恥骨結合の離開、仙腸関節の軟骨の損傷も分娩時に起こるが、通常は産褥8週間までに軽快する。(p.456)


確かに医学的には自然治癒していくもので積極的な治療方法はないとは思いますが、産後の赤ちゃんの世話をしなければいけないお母さんにとって8週間というのはあまりにも辛い時期になってしまいます。


さらしで大転子部をぐっと締めて固定すると痛みはかなりやわらぐようです。ただし伸縮性のないさらしですから、動くとすぐにずれるのが難点でした。


それに対して骨盤周囲の特に大転子部あたりの低い位置をしっかり固定できて、しかも動く際にずれにくい細いタイプのベルトというのはとても使いやすいものです。


恥骨離開でベルトでの固定が必要になるほど痛みがひどいお母さんというのは、年間でもそう何人もに出会う頻度ではないのですが、だからこそ、その痛みを緩和して赤ちゃんの世話を行えるようになる製品は必要でした。


今はお母さん達自身でネットでそういうベルトをすぐに見つけられますし、私たち助産師も医療機関向けの医療用品メーカーの資料で整形外科で使用されている骨盤ベルトなどの情報も容易に手に入るようになりました。


わずか十数年ほど前には、なかなかそういう良い製品の情報さえ得にくい時代でしたから、渡部氏が考案した骨盤ベルトが登場したときに助産師の中で評価されたのだと思います。


<母子の骨格のゆがみの予防>


2000(平成12)年頃はまだ私もカイロプラクティックとか整体がどのようなものか知らなかったのですが、渡部氏が考案して販売し始めた骨盤ベルトが少しずつ広がるにつれて、「骨盤ベルトをすることで切迫早産の予防や治療に効果がある」というような話を助産雑誌の広告などで目にするようになって、そこまで公に言ってしまって大丈夫なのだろうかと感じていました。


その頃、ぼちぼちとトコちゃんベルトを購入しているお母さんたちに出会うようになり、実際の製品を見る機会が出てきました。
ソフトな素材で妊婦さんでも締めやすいような作りになっているので、腰痛や恥骨痛の痛みがある方には巻きやすくてよさそうな印象はありましたが、他の骨盤ベルトと比較しても特別なつくりではありませんでした。


それに当時すでに切迫早産の原因として絨毛膜羊膜炎など感染の可能性が高いことがわかっていましたから、なぜその変哲のない骨盤ベルトを常時装着していると切迫早産の予防になると言えるのかがよく理解できませんでした。


さて、2002(平成14)年に設立された母子整体研究会は2005(平成17年)にNPO法人として認証されたようです。
その概要には、「母子の骨格のゆがみの予防と改善のための理論と技術を啓発・普及することに関する事業を行い、女性や母子が真にQOL(生活の質)を高め、健やかに過ごせる社会構築に寄与することを目的とする。」と書かれています。


産後の恥骨痛に対する疼痛緩和としての骨盤ベルトから、大きく「母子の骨格のゆがみ」に対応する整体の組織としての「理念」が明らかになっていったようです。


NPO母子フィジカルサポート研究会>


現在、母子整体研究会はNPO法人母子フィジカルサポート研究会という名称になって活動をしているようです。


ただ、その会のHPの「母子整体研究会のあゆみ」(「団体概要」の「沿革・活動履歴」)を見ると、いつ名称が変って「整体」という表現がなくなったのかよくわかりませんでした。


母子フィジカルサポート研究会の「設立趣旨書」をみると今でも母子整体研究会という名称も使われていることになっていますし、「代表挨拶」の肩書きも「母子フィジカルサポート研究会」ではなく「母子整体研究会」になっていて二重の名称が使われているようです。


その「代表挨拶」の一部を引用します。

全力を尽くして、「骨盤ケアとべびぃケア(仮称)を周産期のスタンダードケアに」という当会の目標に向かって取り組んでまいります。

「べびぃケア(仮称)」というのは、通常の周産期看護における新生児・乳児ケアという意味ではなく、おそらく「べびぃ整体」と言っていたもののことではないかと思います。


<開業助産所の中での母子整体の広がり>


このNPO母子フィジカルサポート研究会というのはどれくらいの活動規模なのでしょうか。


掲載希望会員のみということですが地域別会員一覧がネット上で公開されています。(リンクはできないようです)


中には病院・診療所勤務の会員もいるようですが、多くは開業助産師のようで、この一覧だけでも70数名が「当会の技術を提供させていただく」施設・個人として紹介されています。


助産師には分娩と保健指導を目的に開業が認められているのですが、実際の開業数やその状況を把握するのは実は助産師でも難しいことをこちらの記事でも書きました。


2006年の助産所数は、「開設者683、出張によるもの586」とあります。
現在、これよりも増加しているのか減少しているのかはわかりませんが、1200人ほどの開業の中で、上記の70数名が多いとみるか少ないとみるか。


実際にはもっと多い会員がいるわけでしょうから、わずか10年ほどの間にこれだけ助産師の間に「整体」が広がったというのは、私は脅威的だと感じます。


1960年代に「助産所での分娩が今後は減少し、助産婦の仕事がなくなる」という危機感から始まった乳房マッサージが母乳相談として助産婦に定着したあの時期も、こんな感じだったのではないかと思います。


「母子整体研究会」はその前身にカイロプラクティックオステオパシーがあるようですが、他にもいろいろな「整体」が助産師の中にはあるようです。
次回はそのあたりを見てみようと思います。




助産師と自然療法そして「お手当て」」まとめはこちら

助産師と自然療法そして「お手当て」 36 <整体の歴史と出産の医療化 3>

前回の記事で参照した「我が国の分娩場所の推移」(pdf注意)を見ると、1950(昭和25)年代初頭にはほとんどが家庭分娩であり、1955(昭和30)年の時点でも助産所を含む医療機関での出産は20%以下に過ぎませんでした。


その後1960(昭和35)年頃には半数の出産が医療機関で行われ、1970(昭和45)年頃にはほとんどの出産が医療機関、つまり開業助産婦を含む分娩について専門教育を受けた人の介助によって行われるようになりました。


明治時代から近代医学に基づく出産介助を進めてきたものが、わずかその20年ほどで急激に達成された時期といえます。


この出産の医療化というのは、単に出産の介助が医療機関で行われるようになったという意味だけではないと考えます。


それまで、家庭の中で行われていた出産と育児が外に向かって開かれた時代ともいえるのではないでしょうか。


それまでのように身近な家族、あるいは狭い範囲の近隣社会の中で伝達された出産・育児の知識や技術で対応する時代から、専門家と呼ばれる人たちから学ぶものへと急速に変化したのではないかと推察します。


今回は「育児書」という視点から、出産と育児が外へ向かって開かれていった様子を考えてみたいと思います。



<江戸時代の育児書>


育児書というと、戦後に出版されたスポック博士や松田道雄氏の育児書がまず思い浮かぶのですが、実は江戸時代からあったようです。


「江戸時代の育児書から見た医学の近代化 −桑田立齋『愛育茶譚』の翻刻と考察ー」(pdf注意)という論文がネット上で公開されていました。


その論文によると、江戸中期には富裕な農民層の出現とともに印刷技術の発達によって、「心身両面の発達に特別な配慮をしながら子育てをしようとする動きが活発になり、多くの育児書が世に送り出された」とあります。


1688年には千村眞之の「小児養生録」、1703年には香月牛山の「小児必要養育草」が出され、それ以外にも数々の育児書が出版されたようです。


この論文で取り上げている桑田立齋の「愛育茶譚」は江戸末期の1853年に出されたもののようですが、上記の育児書が「医療系の育児書」の中でも漢方の流れをくむものであるの対し、こちらは蘭医方、いわゆる「西洋医学の育児書」であることしています。


上記ふたつも「医療系の育児書」ですが、儒教道徳の影響を受けたその内容には親孝行をできるような育て方といった「訓育」も多く含まれているようです。


それに対して「愛育茶譚」は西洋医学の病気の考え方に基づいた「純粋な医療系の育児書」としてとらえられています。


もうひとつ、「専門家と民衆の中間に位置」したものであることが特色であるとしています。


桑田立齋は種痘の接種を積極的に行っていたようですが、予防接種を初め西洋医学による病因と治療法の考え方は、当時の庶民にとってまったく異質のものではなかったかと思われます。
どうしたら、それをわかりやすく理解してもらえるのか。
そういう視点にたった育児書として「専門家と民衆の中間に位置」したものであると、この論文の著者は注目したようです。


新生児を別室に寝かせることで突然死が起こりやすいことの戒め、あるいは初乳が胎便の排泄を促すこと、母乳が足りないときの「代乳」についてなど、現代に通じる医学知識が書かれていて大変興味深いものです。


詳細については、また別の機会に是非考えてみたいと思いました。


<明治以降の育児書>


古く江戸時代から多くの育児書があったことは、出産・育児に対する知識や技術の情報伝達はもっと家族内や狭い地域内ぐらいのイメージがあったので意外でした。


ただ、当時は文字を読み理解できる人はごく一部で、やはり口承によるものが多かったことでしょうし、社会全体で出産や育児を考えるようになるのはやはり明治時代に入ってではないかと思います。


明治から戦後の1970年代までの育児書について、「日本近代・育児書目録」(pdf注意)という論文がネット上で公開されていました。


江戸末期頃には上記の「愛育茶譚」をはじめ、「出産時の注意から子どもの養育の仕方にいたるまでごく具体的な」育児書があったようです。


明治に入り、一般家庭向け、母親向けの育児書として翻訳物が多数出された後、徐々に国産の育児書が出版されたようです。
そのひとつとして、p.70に開業医、小松貞介氏が1909(明治42)年に書いた「小児保育法」が挙げられています。

出産時には新教育を受けた新産婆を選ぶことが肝要。子どもの「健・不健を知るに就いては・・・小児科専門の医師に健康診断を受けることが必要」であると断言する。育児の経験を(持つものを身近に)持たない母親と彼ら(の不安)を専門家制度につなげることによって、子ども自身を直接に制度の前に出現させようとする育児書の役割が見出せる。
またこの時期に成立する、二重の意味での生と身体の国家ポリティクスの一環である。

子どもが専門家の手にかかるようになった背景には、「マクロビの安産志向の背景にある思想」で書いたように、当時の高い乳児死亡率と富国強兵制度がありました。


そしてこの論文の著者横山浩司氏は、1930(昭和5)年代までを「いわば民間の育児オーガナイザーが出現してくる」時代だったと表現しています。


そして1937(昭和12)年の日中戦争開戦、翌1938(昭和13)年の国民優生法と戦時下の時代には、ますます強い子どもを産み育てることが重要視されていきます。


マクロビオティックや整体が出産・育児における「民間の育児オーガナイザー」の役割を求めたのも、またマクロビだけでなく整体にも優生思想が見られるのは、こういう時代背景であったのではないかと思います。


<戦後の育児書>


上記で紹介した横山浩司氏の論文によると、終戦GHQ占領下の終わる頃、1951(昭和26)年に米国政府児童局の「あなたのお子さん、育児教育本」が翻訳され、その前後に厚生省児童局から「小児保健指針」(1953年)、「子どもはこうして育てる」(1953年)が出されたようです。


横山氏は、「戦時と敗戦にまたがるこの時期を子どもの養育者が完全に国家制度化された時期」と書いています。


そして横山氏は、1950年代から70年代初め頃までを「『赤ちゃん百科』の時代」と名づけて以下のように書いています。

少産少死化傾向の中で子どもの養育は遺伝と胎児教育も視野に入れながら正確と知能の直接的・具体的形成に及ぶまでになる。

こうして江戸時代末期から蘭医方による医学的な視点での育児法が徐々に広がり、富国強兵政策の中で子どもの養育が国家の制度に組み込まれ、さらに終戦後は児童の権利という視点で出産・育児はより専門家が必要とされる分野になっていったといえるでしょう。


それでも1950年代までの家庭分娩が主流で無資格者の介助もまだ広く行われていた時代には、まだ出産・育児の知識や技術がまだまだ地域によっては伝達されていないところがあったことはこれまでの記事でも書いてきました。


そういう地域では、まだマクロビオティックや整体のような「民間の育児オーガナイザー」が必要とされていたのかもしれません。


<1970(昭和45)年代以降の育児書>


ところが1960年代を境に、出産の場は医療機関へと変化しました。
それに伴って、ほぼ全ての子どもが医療従事者という専門家から伝達される育児方法になっていきました。


この1970年代の育児書について、横山氏は以下のように書いています。

この時期の諸傾向の底流には、近代から一貫して追求してきた子どもの養育に対しての科学・技術の知による啓蒙的指導や制度・援助とは異なった方向を考えようとする性質の動きがあったことも見出せる。

70年代以降に、毛利子来や、幾人もの育児論の専門家や「素人」の女性たちが新たな視点と姿勢を持った議論を展開するのに力を貸すものであったことは認めなくてはならないだろう。

小児科医、毛利子来(たねき)氏の育児書は山口百恵さんも愛読していたといううわさがありました。
実は、私も助産師になったばかりの頃に購入して、参考にしていました。


なぜ毛利子来氏の育児書が多くの女性に受け入れられたかというと、非常にわかりやすい表現であったことがまずあげられると思います。
また、「家庭の中の赤ちゃん」「家族の中の赤ちゃん」としてどう対応するかという視点で貫かれていたとも言えると思います。


お母さん達には小児科の教科書のような全てを網羅する知識ではなく、漠然としつつも赤ちゃんを全身で理解できることへの援助が必要なのですが、医学知識を中心にした書き方や話し方ではうまく伝わらないことは日々経験することです。


毛利子来氏についてはその後の予防接種に対する考え方やホメオパシーを支持していたことには大いに失望したのですが、あの育児書は名著だと思っています。


<育児書の変遷からみた整体>


昭和初期から戦前、そして戦後に出産が医療機関で行われるようになるまでは、野口晴哉氏の整体も民間の育児オーガナイザーとして活躍の場があったのだと思います。


その後、医学的に不十分だったり間違った内容の民間療法的なものや育児方法が淘汰される時代に入って、出産・育児のよろず相談役としての整体も終わりになるはずだったのではないかと思います。


ところが、70年代に「新たな視点と姿勢を持った」育児論が出始めた中で、あの「誕生前後の生活」も生き残ってしまったといえるかもしれません。


野口晴哉氏の整体については、一旦ここまでにして、次回からは助産師の整体について考えてみようと思います。




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