医療介入とは 40  <分娩台に対する感じ方のあれこれ>

私の二十数年の助産師生活は、分娩台をどうとらえるかという時代の変化にも大きく影響されました。ちょっと大げさな書き方ですか。


分娩台は医療者側の都合のためであり産婦にとってはメリットがないような意見を見ることが増えて、「ごめんなさい。うちは分娩台での出産しか選択がなくて」と妊産婦さんに何か言われる前から謝っていた時期もありました。


でも床や畳の上の分娩は、前回書いたような感染対策の点でどうしても取り入れる気持ちにはなりませんでした。
どんなに「産婦さんの快適性」や「産婦さんの満足度が高い」と言っても、医療の中で築き上げてきた感染症に対する知識を翻すことはとてもできないのです、私には。


では、どうしたらよいか。


できるだけ分娩台の機能を良くしていくようにアイデアを出し合うことと、分娩台の上でもできるだけ産婦さんの自由な動きを配慮できる助産ケアというものを標準化していくことではないかと考えています。
この点はまた後日書くことにします。


<分娩台への批判を整理すると>


分娩台しか選択がなくて申し訳ないと思っていたので、「ぎりぎりまで好きなように動いていいですからね、座っても横向きでも四つん這いでも、あるいは分娩台から降りたかったら降りてもいいですよ」と声を掛けていましたが、実際には横向きで産む方が時々いらっしゃるぐらいでした。


産婦さんや産後のお母さんたちに分娩台で出産することや分娩台の機能の改善点をそっと聞いてみるのですが、案外、不満はでてこないのです。
私たちに遠慮しているかと思われるかもしれませんが、退院時のアンケートには面会時間をはじめサービス面での意見を記入されますから、分娩台についてはそれほど不満でもないのかと思うようになりました。


分娩台はどうしても受け付けないという方は、産院の選択の時点で対応できるところを選んでいらっしゃるのだとは思いますが。


ただ、ネット上でみる意見は分娩台のお産といわゆるフリースタイルのお産がなにかごっちゃになって批判がされているのではないかと思います。
たとえば、こちらの文章。
チビダス 「フリースタイル出産」
http://allabout.co.jp/gm/gc/186408/

医療主導の分娩台の上で寝るスタイルに対して疑問を感じる人が増えてきています。
そもそも人類が誕生して以来、分娩台の上で生む(*)ようになったのはごく最近のこと。
古くは比較的薄暗く狭い空間で、しゃがむ、膝つき、四つんばいなど、身体を起こした姿勢であったと思われます。
こうした自然なスタイルで産みたいという願いから生まれた発想が「フリースタイル出産」です。フリースタイル出産には、仰向け姿勢に比べて重力を利用できるため、陣痛を軽減し、胎児への負担も少なくするといわれています。病院によっては、ある程度産む場所を選ぶことができ、自分のリラックスできる姿勢で、呼吸法などを用いながら分娩に望みます。
(*)は原文のまま

もうひとつ、こちらも。
チビダス 「分娩台は何のためにあるの?」
http://allabout.co.jp/gm/gc/188417/
長いけれど全文引用します。

■そもそも分娩台の始まりは?
これまでのお産は分娩台の上でするものでしたが、その常識を覆しつつあるのが自由な姿勢での出産ー「フリースタイル出産」です。「アクティブ・バース」とも言われます。
このお産の良さはたくさんありますが、それをお話する前に、ちょっと考えてみてください。なぜ、これまでのお産では、分娩台の上で寝ていたのでしょう?


■あお向けの姿勢の始まり
あお向けに寝るお産は、ヨーロッパで、16世紀に普及し始めました。その時代「鉗子」という、産道の中にある赤ちゃんの頭を挿んで引っ張り出すサラダ・バー状の道具が大評判になりました。今まで命をあきらめていたような難産でも救ってくれたからです。ただ、それを使うには、女性が所定の姿勢をとる必要がありました。フランスの王室が寝て産むようになったことも、定着への推進力になったようです。


■手術がしやすい台
この時代以降、鉗子の他にも、麻酔、切開などたくさんの技術が発明され、盛んになりました。難産ではない普通のお産を素早く終わらせるためにも使われるようになり、お産は手術にどんどん近づきました。
やがてベッドも、手術台のような台に発展しました。「分娩台+寝る」というスタイルには、こんな歴史があります。


■昔のお産
分娩台が登場する前は、お産はいすに座ったり、しゃがんだり、立ったりして行われていました。そのほうが、赤ちゃんの下がる方向が引力と同じ方向になって産みやすかったのです。寝てしまうと、産道は上り坂になってしまうのです。
エジプトにも、クレオパトラがひざをついてすわった格好で出産している絵が残っています。


日本でも、昔はすわって出産していましたが、やがて家庭の布団に仰向けで寝るようになり、病院出産の時代になると分娩台のお産になりました。


■分娩台は全員に必要なものではない


分娩台は、医療処置のための台です。医療処置は大事なことでしょうが、本来誰にでも必要なものではありません。まずは産みやすいようにやってみて、何か医療が必要になったらその時に分娩台へ行くのでもよいのでは?−そう考える医療者が静かに増えてきて、日本でもフリースタイル出産が各地に登場しています。


こういう文章を読んで、「うちはまだ分娩台を使っているから、世の中の動きに遅れてはいけない」と心をざわつかせて畳や床の上での「フリースタイル出産」を取り入れなければと思う助産師もいるのだろうと思います。
説得力がある文章ですから、20年前の私もおおいに納得していたことでしょう。
・・・20年前なら。


特に分娩台への批判の中では「重力にさからう姿勢」という点が、私たちのように実際に分娩介助をしている側にも分娩台への忌避感を生み出す魔法の言葉のように感じます。
「あえてお産を進めにくいような姿勢を産婦さんにさせるのは、自分たちが介助しやすいため」という気持ちにさせやすいものです。


本当にそうでしょうか?
お産に重力は必要なのでしょうか?
そのあたりを次回考えてみようと思います。