医療介入とは 49 <アクティブ・バースとフリースタイル分娩>

「アクティブ・バース」や「フリースタイル分娩」とは、具体的にどのような内容を指し、何を求めているのでしょうか。


11月6日の「医療介入とは 41 <主体的なお産とはどのようなことか>」の中で厚生労働省科学研究の「科学的根拠に基づく快適で安全な妊娠出産のガイドライン」の「RQ(リサーチクエスチョン):分娩中、終始自由な体位でいるか」を紹介しました。
http://d.hatena.ne.jp/fish-b/20121106


その中で「フリースタイル分娩」が使われている部分があります。
「RQ:4 分娩中、終始自由な体位でいるか」
http://sahswww.med.osaka-u.ac.jp/~osanguid/RQ4saisyuu.pdf


その部分を書き出してみます。

推奨
分娩2期は快適性からみると座位分娩やフリースタイル分娩は産婦の満足度は高いが、第3期は出血量の増加などの出産のリスクがあるため水平(仰臥位、側臥位)にする。         【推奨の強さ】B

この部分を読むだけで、混乱してしまいそうです。
「座位分娩とフリースタイル分娩」とあえて分けて書くことは、座位分娩はフリースタイル分娩には含まれないのでしょうか?
あるいは水平(仰臥位、側臥位)はフリースタイル分娩には含まれないのでしょうか?

背景
(中略)また分娩第2期において、分娩台での仰臥位分娩は医学的管理のしやすい体位のためわが国では一般的に行われている。最近では、産婦の主体性や自然志向を尊重し、座位分娩やフリースタイル分娩が行われるようになった

【分娩第2期・3期】
(中略)快適性においては座位分娩、フリースタイル分娩の方が仰臥位分娩より優れていると考えられるが、安全性において仰臥位分娩より優れているという明らかな根拠はなかった。

「水平(仰臥位、側臥位)」であれ、産婦さんが希望し産婦さん自身が快適と感じれば、それがフリースタイル分娩なのかと理解していましたが、読めば読むほどわからなくなりそうです。


<フリースタイル分娩の定義は?>



アクティブ・バース、フリースタイル分娩という言葉を助産師側が勧める際にどのように書かれているでしょうか。


メディカ出版の「ペリネイタルケア」は、医学書院の「助産雑誌」とともに助産師向けの雑誌です。
その2012年7月号が「写真でパッとわかる!きっとできる! フリースタイル分娩の立ち位置・手の位置・娩出法」という特集でした。


その中の「フリースタイル分娩のメリット・デメリット」の中から少し長くなりますが引用します。

・はじめに


 フリースタイル分娩やアクティブ・バースという分娩スタイルが、あたかも最先端の分娩介助技術のごとく捉えられているが、分娩時の体位は歴史的な文献からも分かるように、本来は垂直位が主流であった。しかし、医療者側の取扱い安さや、「安全」の名のもとに医療者主導で水平位が用いられてきた経緯があり、医療者の前では受身である産婦の意思や尊厳は、軽視されてきたとも言える。日本で自宅分娩が主流だったころは、産婦自身が陣痛のさなか、少しでも安楽に過ごせるように身体を動かしながら自由な体勢で過ごし、分娩を迎えていた。
 このようにフリースタイル分娩は、近年始まった分娩スタイルではないが、採用している施設はまだ少ない。しかし、フリースタイル分娩の有用性がエビデンスベースで認められてきた昨今、わずかながらであるが病院施設でも取り組みが始まっている。主に院内助産を導入した施設や個人クリニックで、医師の理解があり、フリースタイル分娩を導入することで、胎児心拍の下降が少ない、または下降からの回復が早い、胎児の回旋異常が修正しやすい、産婦の満足度が高いなどといった明らかな効果を実感しているところから広がりを見せている。

私が勤務してきた全ての施設で、基本的には産婦さんは分娩1期は自由に動いているし、児娩出直前には仰向けになってもらい、腰痛などでどうしても仰向けになれない方は好きな姿勢で介助しています。


でも私自身は、こういう方法をあえて「フリースタイル」と呼ぶ必要性はないと思っていました。


また産婦さんにはそのつど説明をし、産婦さんの意思を尊重しながらも安全な姿勢を取る必要がある時には協力していただいていました。
それでも半座位のような仰向けの分娩台でのお産というのは、「産婦さんの意志や尊厳を軽視したもの」と見なされてしまうのでしょうか。


そうであればフリースタイル分娩というのは、とてもハードルの高い分娩方法ではないかと思います。
実施している施設が少ないという結果も当然かもしれません。


フリースタイル分娩とは何か、さらに以下のように書かれています。色を変えた部分は、ペリネイタルケアの中では下線で強調されている部分です。

とかくフリースタイル出産やアクティブ・バースといえば、四つん這い、側臥位、スクワットなどの体位のみに意識が向いてしまうが、本来フリースタイル分娩で最も大切で重要なことは、産婦の身体や精神を抑圧から解放することである。まずは分娩第1期の身体的自由を目指すべきであり、分娩時のスタイルには固執しないことが肝要である。

 フリースタイル分娩を導入した施設によっては、時に助産師主導となり体位誘導がなされているところもあり、産婦が自由に選択するというフリースタイル分娩本来の概念から逸脱しているケースも見受けられる。もちろん、ケースバイケースであり、分娩のスムーズな進行のために誘導が必要なときには躊躇せず誘導しなければならない。フリースタイル分娩の極意は「待つ」「寄り添う」「支える」「励ます」「進める」なのである。


<定義を明確にするということ>


フリースタイル分娩で最も大切で重要なことは「産婦の身体や精神を抑圧から解放すること」だとこの筆者は書いています。


そして助産師が主導して体位を誘導することは「フリースタイル分娩本来の概念から逸脱している」が、分娩のスムーズな進行のためには「躊躇せず誘導しなければいけない」とあります。


すみません。もう何が何なのかよくわからなくなりました。


フリースタイル分娩の定義は何ですか?
「産婦の身体や精神を抑圧から解放する」とは具体的にどういうことですか?
本当に可能なことなのですか?
ただ単に、自分は解放されたお産だったという思い込みを生み出すだけではないですか?
もし仮にそれを助産の目標とするのであれば、そういう介助をできる助産師は限りなく少なくなることでしょう。


少なくとも助産師がフリースタイル分娩を「専門用語」として使うのであれば、定義を明確にすることは最低限必要なことだと思います。


定義なくして、概念を共有することは難しいと思います。
まして分娩時の看護や助産技術で本当に必要なことは何かという本質を明らかにすることはできないのではないでしょうか?


次回は、アクテイブ・バースやフリースタイル分娩という表現を使わずに、それらが求めていることを考えてみたいと思います。