お産に対する気持ちを考える 9 <医療処置への助産師の苦手意識>

助産師の中で「硬膜外麻酔分娩はいいものではない」と考えている人たちに、「無痛分娩は、自閉症の子供が多く生まれてくるのは、海外では常識になっています。そういうリスクもあるんです」と信じている話を聞いて驚きました。


いやぁ、本当にニセ科学の議論に出会ってよかったと思いました。


上記の無痛分娩の部分を「予防接種」に置き換えてもそのまま通じる、いわゆるニセ科学の「陰謀論」のパターンですね。


あるいは先天的な機能障害である自閉症発達障害を、「産み方」とか食べ物その他の環境因子や「育て方」と関連付けて不安がらせ、代替療法、特殊な食事療法あるいは教育方法につなげていく手法と同じです。


また無痛分娩が多い国では、一見無痛分娩が増えたことと自閉症が増えたことが関係があるように見えてしまうでしょう。
けれどもそれは、「相関関係はあるが因果関係はない」「因果関係の有無は別に証明する必要がある」
ということで説明がつくと思います。


助産師というのは、こういう怪しい説の疑い方をお母さんたちにアドバイスする立場のはずなのですけれどね。


ぜひ、助産師の教育課程でニセ科学の授業を入れて欲しいものです。


<「いいものではない」と感じる他の理由>


ただ、上記のような理由で硬膜外麻酔分娩を否定的にとらえる助産師はどちらかというと少数ではないかという印象です。


たぶん、医療処置が面倒だったり、医療処置の介助が苦手というところではないかと、私個人は考えています。


助産師を目指す人たちがイメージするもので書いたように、助産師教育を受ける以前から、「感動」とか「他科にはない明るさ」が助産師になる動機となりやすいことがあげられると思います。


助産師になる前から、医療介入のほとんどない分娩経過で家族に囲まれて赤ちゃん誕生を祝っているゴールのイメージトレーニングがすでにできてしまっているとも言えるでしょう。


そして1年間の教育機関では「正常分娩の介助」が優先的に教育されます。


臨床に出て初めて、促進剤を使わなければ進まないお産、吸引分娩にしなければあるいは緊急帝王切開にしなければいけないお産などに直面します。
また、合併症のある産婦さん、異常経過になった妊婦さんの看護にも対応する必要が出てきます。


あるいは「産科は他科と違って明るい雰囲気」と思って選択すると、それまで問題がなかった二つの生命の危機に対する責任の重さを背負いきれなくなるかもしれません。


正常に経過して、楽しくおめでとう!と喜んでいるイメージを強く持ってきた助産師が乗り越えなければいけないリアリティショックです。


臨床で分娩介助の経験を積むうちに、必要な医療介入ができるリアリストにならざるをえないでしょう。
でも、基本的に、医療処置の必要性が生じるような場面が苦手と感じているのではないか、というのが一緒に働いてきた助産師仲間を見ての個人的な印象です。


硬膜外麻酔あるいは腰椎麻酔の看護は、手術時の看護にも必要だしあるいは内科での腰椎穿刺検査にも応用ができるわけで、実は産科だけでなく外科系・内科系看護にも必要な基本的な内容です。


ですから看護師さんたちのほうが、こだわりなく硬膜外麻酔分娩の介助ができるかもしれません。


楽しく幸せな出産場面のイメージトレーニングも大事ですが、母子二人の救命救急の場面のイメージトレーニングもして医療処置をどんどんこなせる知識と技術を持つ助産師を育てることがこれからの時代には必要になってくることでしょう。(*)
そうすると、助産師の無痛分娩に対する感じ方もかわってくるかもしれませんね。


(*)医師のいない出産の場でそういう知識や技術が必要ということではなく、ローリスクからハイリスクまで対応できる幅広い能力が必要という意味です。念のため。




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