医療介入とは 86  <分娩監視装置と30代の出産>

陣痛と胎児心拍をモニターする分娩監視装置(CTG)の歴史について、「医療介入とは 19 <胎児の安全がわかるようになった時代>」から、「医療介入とは 32」あたりまでで書きました。


先日いただいたpakoさんのコメントから、いろいろまた考える機会となりその続きを書いてみようと思いました。pakoさん、ありがとうございます。


総合病院で、ハイリスクの産婦さんに分娩開始時から連続してCTGモニターをする方向を検討されているということです。
コメントの途中を引用させてください。

まさに導入に関して”助産師”の抵抗にあっている状態です。
当方でも「意識改革」が必要なようです。


ハイリスクは当然、医師の判断・指示のもとに分娩経過を見るわけですから、医師が連続モニターが必要と判断すれば、助産師はそれに従う必要があります。
それにさえも抵抗するほど助産師側に何か信念か呪縛があるわけで、そのあたりはpakoさんへの返事に少し書きました。


では、それ以外の妊娠・分娩経過も目立った異常がない方に対しての連続モニタリングについてどのように考えたらよいのでしょうか。


そのポイントのひとつが30歳以上の初産婦さんの増加ではないかと思います。


<30代初産が増え始めた時代>


私が助産師になった1980年代後半は、まだ30歳が高年初産という定義でした。
最初に就職した病院は周産期センターレベルではない普通の総合病院でしたが、当時、30歳で初産という方はたまにいらっしゃる程度でした。カルテにはしっかり「マル高(こう)」の印が押されていました。


30歳以上で初産というだけで、少し緊張感がありました。
20歳代の初産のお産の介助経験がほとんどでしたから、未知の世界でした。


その後1992年ごろに、世界の趨勢にしたがって日本でも高年初産の定義は「35歳から」に変更されました。


そしてあっという間に30歳初産も珍しくなくなり、というよりも30歳で出産を考えるのは当たり前かのような時代になりました。


私の勤務先では、月の分娩予定者のほとんどが30歳以上、時には半数以上が35歳以上の産婦さんという時もあるぐらいです。
20代の産婦さんのほうが珍しいこともあります。


その実感を統計に表したものが、日本産婦人科医会の「分娩時年齢の高齢化 現状と問題点」(2012年5月9日)の8ページ目にあります。


「全国年齢別第一児出産人数  母子保健の主なる統計より」の表ですが、そこから「29歳まで」の初産婦のおおよその割合を抜き出してみます。

1990年   80%
2000年   70%
2009年   50%


まさに自分の実感、印象と同じだと納得しました。


<人類が始めて体験していること>


こうして振り返ってみると、私の助産師としての二十数年は「人類が始めて体験している、30歳代での初産の時代」に重なっていたのだと言えます。


そして時代はさらに35歳以上で初産へと変化しました。


最近では35歳以上の初産婦さんだと少し緊張しますが、分娩経過は年齢よりは個人差かなという印象です。
もちろん詳細を言えば、やはり20代と30代の出産はリスクも難易度も上がることも実感としてあります。
医療がそれを助けているから、一見、正常に問題なく終わったように見えているだけだと思います。


葛飾赤十字病院の報告がネット上で公開されていました。
「当院における母体年齢と妊娠予後の後方視的検討」
(日産婦関東連合会誌、44:343-348,2007年)


その考察の中に、以下のように書かれています。

高年初産婦では、微弱陣痛や難産道強靭のため、分娩時間の延長、出血量の増加、non-reassuaring fetas statusの頻度の上昇、帝王切開術や器械分娩の頻度が増加するといわれてきた。しかし、近年の報告ではとくに遷延分娩の傾向については否定的で、個体による差のほうが大きい傾向が推定されている。


「30代の初産の分娩経過」というものがどのようなものなのか、そして安全に出産を終えるまでにどのような注意が必要なのか。
日々の臨床の中での「印象」だけではだめで、こうした地道な研究の積み重ねによってここまでわかってきたわけです。


そのためには、正確な観察をすることが何よりも基本になるはずです。


人類が初めて遭遇している「まだまだわかっていないことが多い30代の初産の分娩経過」であると捉えると、産婦さんの側にいて分娩経過を観察する私たち助産師や看護師は、まずは全経過を連続モニタリングしてみることがより正確な観察方法ではないかと思います。


そして安易に「大丈夫」と結論づけてしまわない忍耐力も求められているのかもしれません。


そういう観察を積み重ねた上で、「30代初産婦さんでも、こういう場合は間歇聴取方法で大丈夫な可能性がある」ということの根拠が導き出されるのではないでしょうか。


<おまけ>


30代そして40代の初産婦さんの割合が増える中、時々、経産婦さんかと思うほど急激に進行するお産があると感じています。


もちろん、10代20代のお産でも早く進む方はいらっしゃいます。


ただこれはあくまでも私の印象ですが、30代初産婦さんの急激な進行は、「早いお産でよかったですね」「安産でしたね」と言い切れない、なにかひっかかるものがあります。


その気になっていることは何か、あるいは気にしなくてよいのか、それもまた分娩監視装置のデーターとともに正確に観察し続けるしか答えは見えてこないのかもしれません。


<おまけのおまけ>


こう考えていくと、「助産所業務ガイドライン2009年改訂版」には、「B.産婦人科医と相談の上、協働管理すべき対象者」の中に高年初産が含まれていることは、どちらかというと「35歳までは助産師だけで分娩管理して大丈夫」というよりは、「35歳以上あるいは30歳以上の分娩経過についての正常と異常についてはまだはっきりわかった段階ではない」ということではないでしょうか。