初めて出産される初産の方とお二人目以降の経産の方では、お産も母乳分泌の状況もそして赤ちゃんへの接し方も天と地ほどの差があることは初産と経産と初産と経産つづきで書きました。
初産では出産も医療介入が必要なことが多くなるし、授乳や赤ちゃんの世話に慣れるのにも時間がかかる。
そんな当たり前のことを産む人も介助する人も認めて、出産や育児(特に母乳関連)の理想型のハードルを下げればよいだけのことではないかと思えるのですが。
そして初めてのお母さんには出産や育児に慣れるまで、おおよそ1ヶ月ぐらいでしょうか、できるだけ専門職のサポートを手厚くできるようにする。
それが解決策なのではないかと思います。
もちろん、そう簡単には事は進まないのも現実です。
<現実を学ぶこと>
何が現実の問題であるのかを認識できなければ、解決策はあらぬ方向に向いてしまいます。
こちらの記事で紹介した厚生労働省が2002年に出した「少子化社会を考える懇談会中間とりまとめ」の「アクション(5) 子育て支援は妊娠・出産からはじまる」の中に以下のように書かれています。
第1子の出産でつらい思いをし、「もう子どもは産みたくない」という気持ちになることがないよう、安全で快適な「いいお産」ができるようなケアを提供できるようにする必要があります。妊産婦が選び、満足できるようなケアが求められています。お産に妊産婦が主体的に関わることができるようになることで、主体的な子育ての準備になることが期待されます。
この「懇談会」が政策を作るうえでどのような力があるのかはよく知らないのですが、周産期医療関係者の参加はなかったようです。
「第1子の出産でつらい思いをし、『もう子どもは産みたくない』という気持ちになる」方がいらっしゃるのであれば、それは全体のどれくらいであるのか、そう感じた状況はどうであったのか、という具体的な事実がなければ具体的な解決策はたてられません。
<出産時にひとりにさせない体制づくり>
「家族も帰宅させられてひとりぼっちで耐えた」「スタッフがたまにくるだけだった」「分娩が重なってほっとかれた」などがつらいと感じた場合があることでしょう。事実、そういう話を聞くこともあります。
この解決策はなにかといえば、「出産時に産婦さんを一人にさせない体制」を作ること以外にありません。
「安全で快適な分娩には人手がこれだけ必要」と社会に認めてもらう努力が必要です。
もちろん人件費に直結する問題ですから産院側の努力だけでは無理です。
また、お産というのは不思議と重なる日は重なるので、どうしても側についていられない状況もあります。
「一人にさせられた」と思わせないような対応、それが看護の本質の部分ではないかと思います。
<初産の産後の回復に十分な対応を>
初産婦さんの分娩は時間がかかることによる疲労や、会陰切開や裂傷の痛みなど、経産婦さんに比較しても分娩直後はボロボロという感じです。
また、産後の尿閉(一時的に排尿感覚が麻痺)や尿もれなど、想定外の不調が精神的にもまた落ち込ませることになります。
こうした出産直後の心身の不調に対する説明不足や対応不足が、「もう二度と産みたくない」と思わせる原因になっている可能性もあります。
特に初産婦さんの傷の痛みは、経産婦さんの同じ程度の会陰切開や裂傷と比べても痛みを強く感じる方が多い印象があります。
私が勤務してきたところでは、鎮痛剤を使ってできるだけ痛みを我慢させないという方針のところばかりだったのでそれが標準的なものかと思っていたのですが、「鎮痛剤はもらえなかった」という話もよく耳にします。
鎮痛剤でうまく疼痛コントロールをするだけで、尿閉や便秘、痔の苦痛も軽減します。
赤ちゃんと一緒にいたいとも思えてきます。
痛みが強ければ自分のことだけで精一杯になるのも当然ですし、赤ちゃんの世話をしようという気にならなくても誰が責められるでしょうか?
そして初産婦さんの中には2〜3週間ぐらい、座薬が必要な方もいらっしゃいます。
痛みが長引く場合があること、どれくらいの割合の初産婦さんがそうなるのか、それは平均してどれくらいなのか、痛みがなくなるまでどのように過ごしたらよいかなど、「見通し」を説明するだけでも精神的不安が少なくなることでしょう。
傷の痛みに対する説明と対応を標準化するだけでも、そうとう初産婦さんの産後の辛さを軽減できるのではないかと思います。
そして傷の痛みが、産後の回復や赤ちゃんの世話に影響を与えているのであれば退院延期をして専門家がケアする。
そういうことが具体的な解決策だと思います。
<理想を掲げすぎることの弊害>
「いいお産」「主体的なお産」「快適なお産」、あまり理想を掲げてしまうとイメージしていたお産にならなかった場合、お母さん達はかえって自分を責めることもあります。あるいは産院側の対応にも批判が向くこともあります。
「自分の努力が足りなかった」「自分が出産場所をあまり考えずに選択したから」と。
そして初産と経産の違いを差し引くこともなく、「一人目は病院だったから不満足なお産だった」「二人目は助産所(あるいは自宅)でとても満足のいくお産だった」という感想を目にすることがあります。
でもきっと、「一人目は病院で不満足なお産だった。けれど二人目は病院で満足のいくお産だった」と思っている人もたくさんいるだろうと、日々接する経産婦さんを見ても思うのです。
そして二人目の出産を初産の時の他院での出産と比べて「満足した」とおっしゃられる方に対して、助産師はストレートに自分達への誉め言葉と受け取ってしまう前に、初産と経産の分娩経過の違いをまず説明することが必要ではないかと思います。
初産の時の大変さを乗り越えたから、そして大変な初産の分娩を病院でサポートしてくれたから、今回のお産はスムーズにいったということを。
その一言を伝えられるだけで、医療への無駄な不信感を生み出さずにすむのですけれどね。
そんなに難しいことではないと思います。
「簡単なことを難しくしているのではないか」まとめはこちら。