産科診療所から 6 <有床診療所の歴史>

10年前に初めて有床診療所という入院施設を持つ小規模な医療施設に勤務し始めてから、特に産科診療所についての歴史に関心が出始めたのですが、案外と書かれているものは少ないのです。


これは昨日の記事に書いたように、産科診療所が広がってきた半世紀という時間の長さ、いえ短さに一因があるのかもしれません。
産科診療所の医療史、あるいは看護史を書くには短すぎる時間なのかもしれません。


また、昨日紹介した2007(平成19)年の「厚生白書 我が国の保健医療をめぐるこれまでの軌跡」も、国立病院から民間病院の拡充までは書かれているのですが、有床診療所の変遷については言及されていません。


日本の周産期医療の中での産科診療所が果たしてきた役割や、全国にどのような産科診療所があってそれぞれの診療所ではどのようなケアがされているのだろうという全体像が知りたいと思って探しているのですが、私の立場ではなかなか見つかりません。


そのような中、昨年年末に福岡県での整形外科診療所での火災がおきました。
哀悼の意を捧げます。


その診療所で働いていた医師やスタッフの方々がどのようなお気持ちでいらっしゃるのかと、人ごとではないことでした。


1950年代から60年代以降、地域の医療に貢献してこられた有床診療所がたくさんあったのではないかと思います。
その頃に開業し、現在2代目、3代目の先生が後を継いでいらっしゃるところも多いことでしょう。


私の勤務先でも、先代の先生が出産に立会い、「ここで私が生まれました」という産婦さんが増えてきました。
あるいは、出産や婦人科疾患で受診したことがきっかけで診療所で働くようになったスタッフによって支えられています。


まさに隣近所にこちらも助けられていることがしばしばあって、それは総合病院ではありえないような体験でした。


きっと、あの整形外科診療所もそんな雰囲気があったのだろうと思います。



産科診療所だけでなく、他科の有床診療所についても何もしらないまま医療に携わってきたのだという思いが強くなるこの頃です。


<「有床診療所に関する検討委員会」>


産科の有床診療所も今後さらに減少していくことが心配なのですが、他科の有床診療所も将来の方向性について危機的な状況のようです。


日本医師会の有床診療所に関する検討委員会が昨年、2013年11月に出した「平成25年度 有床診療所に関する検討委員会 答申」がネット上で公開されていました。(うまく直接リンクできないので、上記名で検索してみてください。74ページあります)

1.有床診療所の現状


 平成2年(1990年)には23,589施設(27.2万床)あった有床診療所が、平成25年6月には9,320施設(12.2万床)と、4割にまで減少した。現在でも、毎日1〜2ヵ所の有床診療所が閉鎖あるいは無床診療所化している計算になる異常事態である。

 ベッドを持ち、地域に密着して患者や家族を支えてきた多くの有床診療所の減少は、地域の医療提供体制に大きな影響を及ぼした。特に地方では影響が大きく、すでに入院施設が皆無となった地域もある。また、地域によっては無床化によって時間外対応が困難となり、救急医療体制にも影響を与えた。さらに、国が推進している在宅医療が停滞している原因の一端も、有床診療所の閉鎖・無床化にあると言われている。

 地域医療再興のためには、有床診療所の存続が不可欠である。一旦崩壊した社会システムを旧に復するのは不可能であり、これ以上の有床診療所の減少は、まさに医療危機・国家の危機ととらえるべきである。

自費診療が中心の産科診療所と他科の有床診療所では問題点も異なることが多いのですが、両者とも、今後国民がどのような医療を求めるかという方向性に大きく影響を受けることは同じかもしれません。


半世紀前までは夢のようだった救命救急や高度医療が一気にすすんだ今、次に私たちはどのような医療を求めていくのでしょうか。


常に専門性の高い高度医療を受けられることを求めるのであれば、医療施設の集約化という方向に加速することでしょう。


産科診療所もまた必要とされるのか、それとも集約化が進んでなくなっていくのか。
結論を急ぐ前に、この半世紀の有床診療所の歴史を知りたいと思うのです。





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