院内助産とは 14 <地域で出産できる場所がない>

日本中をみれば、人口が集中している地域と過疎化の進む地域との医療施設へのアクセスの利便性には大きな差があります。


自治体にひとつも産科施設がなく、妊婦健診や分娩も車で1時間以上もかかる隣町の病院で受けざるを得ないなどのニュースを聞くと、何から改善できるのだろうと心が痛みます。


実際に岩手県遠野市では市内に産科施設がないため、遠野市助産院で遠隔妊婦健診を受けて出産予定病院と連携するシステムも行われているようです。


<県立釜石病院の院内助産システム>


母性衛生学会誌の平成23年4月号(2011年)に、この遠野市からの分娩も受け入れている岩手県釜石病院の院内助産システムについて紹介されていました。
そしてこの号が私の手元に届いた頃には、この地域での出産をなんとか維持しようという試みも、あの震災で無慈悲にも中断させられてしまいました。


この県立釜石病院の院内助産は平成19年9月から始まったそうですが、その背景には岩手県立大船渡病院との産婦人科医師集約化が同時期に発表されていることがあるようです。
現在、釜石病院のHPを見ると医師は全て県立大船渡病院からの応援で、新規外来は休診になっています。


地図で見ると、釜石市と大船渡市は直線距離にして約30kmほど離れています。山間部の道と思われるので、車で1時間前後かかるのでしょうか。
現在の釜石市には産婦人科の診療をしているのは、外来のみのクリニックとこの釜石病院だけのようです。


この釜石病院で出産ができなくなると、車で1時間以上かかる大船渡病院にいく必要があります。経産婦さんでは、間に合わないこともあるでしょう。
釜石市の出生数は年間二百数十人のようですから、ローリスクの方だけでも何とか市内での出産を可能するための、この地域の特殊性があったのだろうと思います。


「母性衛生」には震災前の平成19年9月1日から平成22年6月30日までの状況が書かれていました。

釜石病院での分娩件数は561件(年平均240件)、そのうち院内助産システムの分娩数は509件(90.7%)、医師管理の分娩数は52件(9.3%)、その主な内訳は分娩停止・微弱陣痛・胎児機能不全。
医師コール数は305件全体の59.9%、主な内訳は会陰縫合・弛緩出血・胎児機能不全で会陰縫合が8割を占めている。
岩手県立大船渡病院への緊急搬送数は49件、全体の8.0%。主な内訳は前期破水・分娩停止であった。


大船渡病院からの応援医師が当直体制で夜間も院内にいるのかなどの詳細はよくわからないのですが、いずれにしても産科医一人と助産師・看護師でこの地域の出産場所をなくさないようにとまさに立ち向かわれているのではないかと思います。


<院内助産システムではなく産科医不足解決を>


こうしてその地域で悩み、目の前の問題解決の手段として院内助産を取り入れたことに対して、部外者である私が批判することは避けたいと思います。
またあの未曾有の大震災の被害の中で地域の医療をなんとか再生させようと頑張られている方々に、心から応援と敬意を表したいと思います。


ただ、出産する人たちが求める安全性はやはり産科医がいることが前提ではないかと思います。
産科医不足の地域は助産師の分娩介助で対応することで、過疎化の進む地域は医師がいなくてもよいという風潮にならないようにと祈らざるを得ません。


院内助産を勧める厚生労働省は、このような産婦人科医不足で分娩施設の集約化が進んだ地域の長期的な展望や計画をまず住民に示して欲しいと思います。





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