出産・育児とリアリティショック 13  <崩れるボディイメージ>

妊娠10ヶ月という長い期間で、お腹の大きさを実感するのは案外短いといえるのかもしれません。


特に初産婦さんの場合は妊娠18〜20週頃にようやく赤ちゃんが動いている感じ、胎動を感じることができるのですが、このあたりではまだそれほどお腹の大きさも目立ちませんから、「本当に妊娠しているのかな」と不安に感じることもあるようです。


現在では妊娠数週の早い時点でエコーによって胎児の成長がわかりますが、わずか20年程前までは、まだ「胎動を感じて妊娠と確信した」ことが妊娠の診断の一助でもありました。


この20週前後を境にお腹の大きさが目立ち始めます。
それから1ヶ月もすると、メロンでも抱えているかのような大きさになります。
さらに30週ごろからは加速度的に大きくなり、35週頃には胃の辺りを子宮底が圧迫するまでになります。


便秘気味の時に少しお腹が張っても皮膚が引っ張られてつらいのに、この妊婦さんの子宮筋や皮膚・皮下組織、筋肉の驚異的な伸び方はどうなっているのだろうと、毎日妊婦さんを見ていても畏敬の念を感じています。


そして3kg前後、身長50cm前後のヒトの胎児が屈曲した姿勢でギュッと圧縮された状態で育ちながら、臨月を迎えます。


ほんとに不思議な世界です。


<「もう一人いるみたい」>


出産直後のお母さんの多くが、分娩台の上で自分のお腹を触って「わー、ぺっちゃんこ!」と驚かれます。


あんなに大きな赤ちゃんが体外に生み出されたのですから、すっきりという感じです。
あの重みに耐え、不自由な行動しかとれなかった妊婦生活から解放される喜びとともに、妊娠前の体型に一瞬にして戻ったことを期待した喜びではないかと推測しています。


ところが、立ち上がってショックを受けるようです。
寝た姿勢では平らだった下腹部が、立ち上がるとボヨーンと前に出てまるで妊婦さんの体型です。


さらに打ちのめすのが、面会に来たパートナーや家族の一言です。
「もうひとりいるみたいに大きなお腹ね」と。


この会話が聞こえたら、私はおせっかいですが面会中でも声をかけます。
「お産が終わった後の子宮はすぐに小さくなるのではなくて、一旦臍の高さぐらいまでになってから少しずつ小さくなっていきます。お腹が大きく見えるのはそのためです。子宮やお腹周りの筋肉は強靭なゴムのように一気に縮むのではなく、10ヶ月かけて大きくなったのですから10ヶ月ぐらいかけて戻るぐらいに考えてくださればよいと思います」


面会後に表情の暗い産婦さんの多くが、こうした家族の一言がきっかけになっていることがしばしばありますから、私も予防線を張るようにしています。


<産後の代替療法への入り口に>


さらに産後3〜4日目の体重はほとんどの方が期待したほど減りません。
「赤ちゃんが3kg、胎盤が500g、羊水とか含めて少なくとも4〜5kgぐらいは減っているはずなのに・・・」とショックを受けます。


このあたりの体重の変化と代謝がどうなっているのか私もよくわからないのですが、「1ヶ月ぐらい、お母さんが多少体調が悪くてもあるいは飢饉とか起きても赤ちゃんを飢えさせることがないように栄養を貯蓄しようとしているのかもしれませんね」と慰めるとともに、大事な食事を控えてしまわないように説明しています。

そして産後の1ヶ月健診のお母さんたちのほとんどが、体重がぐんと減り、どちらかというとげっそりとやせたくらいになります。
母乳をあげている方であれば、「食べても太らない」時期でもあります。


ところが、体型は思ったほど元にもどらないことが気持ちを焦らせ、さらに有名な女優さんたちがシェイプアップして出産したと感じさせない体型で復帰していることも影響があるのかもしれません。


「出産すると太ったり容色が衰えたりするといわれます」という不安を煽られる言葉で、ベルトを買ってみたり代替療法へと答えを求めるのではないでしょうか。


体重は、摂取カロリーと消費カロリーのバランスで改善しますし、体型は骨盤周囲や腹筋の筋力増強が答えだと思います。
どちらも地道にするしかないのですけれどね。


というわけで、皆様、出産後の女性にくれぐれも上記のような一言を言わないということを世の常識にしてくださると助かりますね。


そして、産科の助産師・看護師も「骨盤ケア」とか「産後ケア」といった、なんだかわからないけれど良さそうという言葉には慎重になることが、医療従事者として大事な姿勢であることが常識になるよよいのですけれど。