記憶についてのあれこれ 63 <フキ>

水温む季節になると、急にたくさんの草花が咲き始めて「ここにこんな植物があったのか」と驚かされます。


また、その成長の早さもつくしのように一晩でまるで「びよーん」という音がしそうなくらいで、「今年こそは土からで始めるところをみようと思ったのに、やられた」という感じです。


先週、ふきのとうが咲き始めた場所に、数日でフキが数センチ以上に伸びていました。


フキってこんなにいきなりふきのとうの横にはえ始めるものだったのか、と案外今まで気にしていなかったことに気づきました。
来年は、ふきのとうの横にフキが出始めるところを見逃さないようにしたいものです。


このフキですが、小さい頃から大好きで、今もこの時期になると無性食べたくなる物のひとつです。



<山菜から野菜へ>


小学生の頃はフキというのは山菜でした。
水温む季節になると、母と一緒にフキとワラビやゼンマイを取りにいきました。


近所にあった自衛隊の演習場は、40数年前はまだ自由に立ち入りができたので、広大な敷地で取り放題でした。


演習場に生えているフキは小さくて苦みの強いものでしたから丁寧な灰汁抜きが必要だったと記憶していますが、濃い醤油味で伽羅蕗にして保存し、ご飯のお供になりました。
ワラビやゼンマイも大きな鍋で灰汁抜きして、塩漬けにして保存していました。


子どもの頃はフキといえば早春の山菜だったのですが、いつ頃からか愛知早生ふきが出回り、1年中食べることができる野菜になりました。


保存する必要がなくなったので、母の料理方法もだしと醤油で油揚げと一緒に煮た、薄味の料理方法に変化しました。


今でも大好きなのが、小口切りにしたフキと油揚げを薄口の醤油で味付けしたものを混ぜ込んだお寿司です。
新鮮なフキが店頭にあると、いそいそと買ってかえります。


数十センチもあるフキを買うと、お店の人が「切りますか?」と声をかけてくださるのですが、わたしはあの長いフキを持って歩くことも楽しみです。


<お菓子としてのフキ>


子どもの頃は山菜としてだけでなく、お菓子としてもフキの価値がありました。
山のように取ったフキを、演習場から帰る途中で買い取ってくれるお店がありました。
パウンドケーキの上に乗っている緑色の甘い飾り、アンゼリカの原料にするためでした。


フキを渡すと、現金ではなくキャラメルなどのお菓子をくれました。
フキというと、このアンゼリカとキャラメルを思い出すのです。


Wikipediaフキ の<その他>にこのアンゼリカについて書かれていました。

クリスタル・アンゼリカとしてケーキを飾るアンゼリカはセリ科のハーブだが、コピー食品としてフキの砂糖煮が市販されている。

コピー食品ですか。ずっとフキが由緒正しいアンゼリカの原料だと思っていました。


そしてフキは世界中に生えているように思い込んでいたのですが、日本原産で、案外狭い地域だけなのですね。


「蕗」という漢字もまたいいですね。
フキは、私の体中の春についての記憶を呼び起こしてくれるような存在です。



<追記>


いつのまにか植物に関して書いたものがたまってきたので、「植物」というタグをつくってみました。





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