産後ケアとは何か 30 <「産後うつ予防、健診2回分助成」?>

物事が前に進むためには勢いが必要なこともありますが、「産後うつ予防、健診2回分助成 来年度から」というニュースは、分娩施設に勤務する私には寝耳に水でした。
そして、本当にそれが解決になるのだろうかという疑問と、半年からは産後健診を2回にすることに施設側は対応できるのだろうかと、現実問題として不安になりました。


 厚生労働省は、精神的に不安定になりやすい妊産婦の支援を強化する。「産後うつ」を予防するため、原則本人負担の健診費用への助成を2017年から始める。18年度からは高度な周産期医療を担う病院の指定要件に精神科との連携を加え、病院側の受け入れ態勢を整える。


 出産した女性の10%程度は産後うつの疑いがあるとされ、対策が遅れれば、育児放棄や虐待につながる恐れもある。
 健診費用の女性は産後2週間と1ヶ月の計2回分(1回5千円が上限)。実施する市町村と国で半分ずつを負担する。通常は産後1か月健診をまず受けるが、厚労省研究班の調査で、初産では産後うつの疑いが最も多いのは産後2週間だった点を重視した。


 健診は子宮の回復や血液などの基本的な検査とうつの疑いの検査で1回5千円程度のため、多くは実質無料で受けられる。支援が必要となれば、助産所で日帰り・宿泊で心身のケアを受けるなど「産後ケア事業」を活用する。来年度は全国240市区町村で14万人分を見込む
2016年10月24日(月)朝日新聞


「来年度は全国240市区町村で14万人分」とあるので、すぐに全員が対象になるわけではなく、妊産婦さんの十数%にまずモデル事業的に始めるということでしょうか。


「妊産婦自殺 10年で63人・・・東京23区 産後うつ影響か」(2016年4月24日、毎日新聞)あたりから、一気に話が進んだのかと推測しています。

 自殺で亡くなった妊産婦が東京23区で2005〜14年の10年間に計63人に上ることが、東京と監察医務院などの調査で分かった。妊産婦の自殺についての本格的な調査が明らかになるのは初めて。出産数に占める割合は10万人あたり8.5人となり、出血などによる妊産婦死亡率の約2割に上る。妊娠・出産期の死因として自殺が最も多いことになり、メンタルケアの充実などが急がれる。


 日本産科婦人科学会などの調査依頼に基づき、同院と順天堂大の竹田省教授(産婦人科学)が調査し、23日、都内であった同学会で報告した。23区の05〜14年の自殺者の記録を調べた結果、「妊娠中」の女性23人と「出産後1年未満」の女性40人の計63人が含まれていることが判明した。自殺の時期では、「妊娠2ヶ月」の12人、「出産後4ヶ月」の9人が多かった。


 「出産後1年未満」の6割に、うつ病統合失調症などの精神疾患の通院歴があった。うち半数が産後半年ごろまでに発症するとされる「産後うつ」だった。また、「出産後1年未満」の4割、「妊娠中」の6割には精神疾患での通院歴はなかったが、中には育児に悩むものの受診を拒否していた人もいたという。


 05〜14年の23区内の出産数は計74万951人。都が集計した出産数10万人あたりの妊産婦死亡率は4.1人(05〜13年平均)で、自殺者は約2倍になる。


 同学会は来年改訂する診療ガイドラインに、妊産婦の精神歴をチェックし、産後うつになる危険性の高い女性を早期に見つける問診などの具体策を盛り込む方針。竹田教授は「自殺がこれほど多いとは驚きだ。全国的な数を把握し、自殺のリスクが高い女性を医療と行政が連携してフォローする必要がある」と提言した。


解説 精神面のケア充実を


 国内の妊産婦死亡率は、医療技術の進歩などで年々減少し、ここ10年は出産数10万人あたり3〜4人前後と、50年前の84人から大幅に低く、より安全な出産が可能になった。しかし、今回の東京都監察医務院などの調査で、これまで集計から漏れていた「自殺」を加えると、妊産婦の死亡率は拡大することになる。


 調査では、出産後に自殺した人の半分が産後うつだったことが分かった。産後うつは、ホルモンバランスの変化や育児の悩みなどから、国内で出産した女性の約10人に1人がなるとされる。また自殺をした妊産婦の約半数が精神科の通院歴があった。妊娠中や出産後は社会から孤立しがちな上、胎児や母乳に影響する心配から薬の服用を中断して症状の悪化を招くケースが多いという。精神科と産婦人科が連携し薬の処方を調整するなど、適切なフォローがあれば救えた命があった可能性もある。


 最近では助産師や保健師が妊産婦の精神面の簡単な相談に応じられる体制が整いつつあり、専任職員付きの相談窓口を設置する自治体も増えている。妊産婦の自殺は、国内で年間3万人近くが自ら命を絶つ状況に比べれば少ないが、残された家族への影響は大きい。お産をより安心・安全にするため、メンタルケア充実が不可欠だ。


<現実の問題は何だろうか>


4月のこの妊産婦自殺の報道はたしかに驚きましたが、私自身は「妊娠中の女性23人」しかも「妊娠2ヶ月」に12人が自殺をしていることが気になりました。


このニュース以外、産婦人科学会での報告の詳細を読むことができないのですが、この妊娠初期に自殺をした理由はどんなことだったのだろうと思いを馳せています。


経済的な理由だったのでしょうか。あるいは妊娠に対して周囲の理解を得られないとか、パートナーとの関係が悪くなったとか、妊娠・出産で女性自身の人生が大きく変化することへの不安を受け止められなかったとか。


子どもを育てることへの経済的な不安は、女性だけでなく男性にも重くのしかかる時代です。
あるいは女性が働きながらこども育てること、またはシングルマザーとして育てること、未成年のまま母親になること、望まない妊娠、いろいろな意味で孤独であり風当たりが強いものです。


「赤ちゃんが欲しい!お母さんになりたい」
そう思っている時には気分が高まっていますが、実際に妊娠すればつわりを始め体調の悪さに悩まされ、また妊娠初期には出生前検査をどうするかといった現実に、自分自身の選択に幾度も後悔や不安で翻弄される方もいらっしゃることでしょう。


「産もう」と決心していろいろな情報を探すと、そこにはよい母親になるためにこんなことをしなければいけないのかという情報ばかり。
体作りをして、良い出産をして、母乳で育てて、子どもと良い絆を作って・・・。


妊娠中の女性が追い詰められていく理由はどんなことなのだろうと、日々接している妊婦さんたちとのやり取りを思い返しています。


もう少し、出産・育児とリアリティショックを深く掘り下げることと、安易に産後ケアという実態のない言葉を広げてしまうよりも、 周産期マネージャーのような相談口を設けて実際の問題は何かを拾い上げることが先に必要な気がします。




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