存在する 2 <地図とは何か>

「地図と測量の科学館」でみた年表がどうしても欲しくなり、検索してみましたがそれらしい本は見つかりません。
ダメもとで書店の地図コーナーにいったら、運命の出会いがありました。

「地図の世界史 大図鑑」
ジェリー・ブロットン著、河出書房新社、2015年10月23日


「地図と測量の科学館」の年表の行間を埋めてくれるような詳細な内容です。


それだけでなく、序文の中に書かれている二つの「存在」について惹きつけられたのでした。
「地図」と「存在」。
考えたこともない、地図に対する見方です。


<「存在」をあらわすものとしての地図>



地図を有するというのは、やはり力を持つ側の意図に左右されるのだろうということは、あるところにはあるわけですし、正確に土地を測量するトーレンス登記制度もまた植民地化にはかかせないものだったことなどから漠然とは感じていました。


あるいは、なぜ日本が「極東」なのかも、どの国から見た地図なのかによって描かれている位置が違うのかも、力によるものであると受け止めていました。


ところが、この序文にはもう少し違う表現になっていました。

 じつに4万年もの昔、人類が初めて岩に図像を描いて以来、人びとは環境と自分たちとの関係を概念化する手段として地図を作ってきた。つまり方向を示すだけでなく、存在を表すものでもある。自分を取り巻く環境を空間的に処理すること、それは人間の基本的活動の一つであり、心理学者はこの活動を「認知地図」の形成と呼ぶ。ほかの動物も縄張りの範囲を定めるが、それを地図にできるのは人間だけだ。


私の地図に対する楽しさや関心はなんと表層的だったのだろうと、愕然としながらも、なんだか光が差し込むような感覚を覚える一文でした。



<完璧な地図は存在しない>


宇宙から正確に測量できる時代に入り、山の高さ、海の深さ、これ以上正確なデーターはないのではないかと思われるほどさまざまな事象が地図に表現されるようになりました。


「地図と測量の科学館」では、ちょうど「地震災害を考える」という企画展をしていて、あの東日本大震災の直後から詳細な測量データーを積み重ねて、復興や防災に役立てられていることがわかりました。


GPSのおかげで、科学館への道に迷いそうになった私も無事にたどり着くことができました。
すごい時代です。


ところが、冒頭の本の序文にはこう書かれています。

地図を作るということはまさに世界的な現象であり、もちろん独自の世界を地図化するためにそれぞれが固有の方法を用いるもの、あらゆる人類、文化、思想信条において共通して見られる行為である。また歴史上多くの地図製作者が完璧な地図を作成したと主張してきたが、そのようなものが存在しないことも本書は明らかにする。いかなる地図もつねに主観的である。それゆえ同一の地域を地図化する場合でも、必然的に多くの異なる方法が存在するのだ。

「いかなる地図もつねに主観的である」
「地図と測量の科学館」の売店にも、正確で客観的に見える詳細な地図が販売されていました。
ところが、「地図は主観的である」とはどういうことなのでしょうか。


この本の16ページ「現代の地図製作」にはこう書かれています。

地図製作の可能性は、20〜21世紀になると多方向に広がった。前人未到の地が減っても地図作りの対象となる範囲が狭まることはなく、真に優れた地図も作られた。一方で、現代世界について著しく偏ったイデオロギーを表現しているという批判を受けた地図も数多くある。またそれ以上に深刻なのは、制作者以外の第三者の意図を実現するための盗用が横行している現状だ。実際、現代の地図制作者には厄介な矛盾がつきまとう。地図とは、制作者側がつねに証明し続けているように、選択された一定の領域を部分的に描き出したものにすぎない。だが、その特徴こそが、地図を協力な道具にさせて、軍事や政治、イデオロギープロパガンダなどの目的に利用しようとする人びとによる占有対象となっているのだ


次のページに、イギリスの社会地理学者タニー・ドーリング氏の「完璧な地図を作ることはできない。これから先も決して」という言葉が紹介されていました。


そして「地図の未来」にはこう書かれていました。

デジタル化が地図製作に新たな時代をもたらし、紙の地図が衰退しつつあるのは事実だが、現代の地図製作者が直面している問題は、2500年以上前のバビロニア人が抱えていた問題と何ら変わりはない。つまり、地図に何を載せ、何を省くか。また誰が地図の制作費を持ち、誰がその地図を使うのか。媒体に関わりなく、優れた地図は永遠に必要とされるだろう。なぜなら地図は、人類が始まって以来の問いに答えてくれるものだからだ。「ここはどこなのか?」、さらには「私は誰なのか?」という問いに

「存在とはなにか」考え始めていたら、思わぬところでつながったのでした。




「存在する」まとめはこちら
地図に関する記事のまとめはこちら