散歩をする   88 <三浦半島を歩く>

油壺という地名は不思議な響きがありますが、私にとってもうひとつ記憶についての不思議さもあります。


特に油壺といえば油壺マリンパークがあります。小学生の頃に行ったような気がするのですが、記憶を辿ろうとしてもプツリと途切れてしまって、やはり行ったことがなかったのだろうかととても記憶が曖昧なのです。
1968年に開園とあるので、私が小学生の頃にきっと話題になったのかもしれません。早くから運転免許をとり自家用車を持った父が、当時、あちこち小旅行に連れて行ってくれていました。もしかすると、「油壺に行こう」という話があったのに立ち切れになったままだったのかもしれません。
城ヶ崎あるいは三崎口というよりは油壺という地名のほうが、私にとっては三浦半島を思い出す地名なのですが、行ったかどうかという肝心な部分が記憶から抜け落ちているのです。


先日、実際に油壺に行って見て、やはり今回が初めてだったのだと思いました。
記憶って、本当に曖昧ですね。


<バスで海岸線をまわる>


三浦半島はいつかぶらりと歩こうと思ってガイドブックも買ってあったのですが、なかなか行く機会がありませんでした。
1年ほど前に浦賀の海を見て、そこから久里浜まで歩いたことがあります。
そのあたりぐらいまでならまだ駅も近いですし、歩道も整備されています。
三浦半島の先端部あたりを航空写真で見ると、街から街の間は畑とか断崖絶壁のそばを通る人気のない道路のようなので、とても歩いてまわれる感じではなく、三浦半島内の移動はバスを利用するしかなさそうです。訪れる場所とバス時刻を調べて、綿密な計画を立てなければならなさそうで、行き当たりばったりの散歩ウオーカーとしてはちょっと気が重かったのでした。



京急の駅がある三浦海岸とか津久井浜だったらふらりと歩けそうです。人が少なさそうな季節に、いつか海を見に行こうと思っていました。
ところが、1年ぐらい前から「その日」がくるのを待っていたのですが、自宅周辺の天気が良くても三浦半島は小雨だったり、あるいは海風が強い予報が出ていたりで、なかなかタイミングがあいませんでした。
やはり海のそばというのは、気候が違うのですね。


ようやく「その日」が来たのが、9月中旬でした。猛暑もひと段落して少し涼しいぐらいの気温で、風速も2〜3mの予報です。
お昼頃に家を出ました。
海水浴のシーズンも終わっているためか、三浦海岸駅を降りたのはわずか数人でした。
駅から数分で、浜辺が広がっています。対岸の房総半島もきれいに見え、浦賀水道をさまざまな船が行きかっていました。
しばらく海を眺めて、さて、これからどうしようかと地図をながめました。
本当は海岸沿いに金田漁港のあたりまで歩いて、海岸沿いにある神社をいくつか訪ねてみようと計画していたのですが、実際に来てみると歩行者がのんびり歩ける道路ではなさそうでした。


近くにバス停があり、思ったよりもバスの本数がありました。
三崎港行きのバスがじきに来るようだったので、乗ることにしました。
次々と乗り降りがあるのですが、観光客らしい人はいなくて、地元の人たちの生活や小・中学生の通学の足になっているようです。


海沿いをしばらく走り、急な坂を登りきると、あのテレビなどで見る畑が一面に広がった台地に出ます。
航空写真だとさまざまな緑のパッチワークのような幻想的な風景なのですが、この時は畑を耕している時期で。見渡す限り茶色の風景で、わずかにところどころ大根の双葉が出始めていました。
集落のある場所をバスはまわりながら、今度は坂道を降りて小さな湾が入り組んだ海岸沿いを走ります。


そして三崎港をまわって、終点の三崎東岡で三崎口駅行きのバスに乗り換えて帰宅の途についたのでした。


行き当たりばったりで、思いつきで路線バスに乗ったのですが、わずか500円ほどで三浦半島の風景の変化を楽しんだ散歩になりました。


それからしばらくして「油壺験潮所」の存在を知った時に、もう一度三浦半島に行こうと心が踊ったのでした。
茶色の台地は、秋から冬の野菜が育ち始めて緑色のパッチワークになっていました。




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