散歩をする  258 能登半島の海岸線をまわる

いつも遠出の散歩をする時には、分単位でのスケジュールを立てて出発します。列車とバス、そして歩くことが主な手段なのでどこかで乗り遅れると家に帰れなくなりますから、移動の手段と時刻はけっこうしっかりと調整しています。

 

ところが、今回の北陸道をまわる散歩は、最後の最後まで3つの計画の候補から決まらずにいたという、初めてのことでした。

3つの候補というのは、のと鉄道で穴水まで行ったあとどうするか、でした。

修学旅行で行った記憶を確認しに輪島へ向かうか、能登半島の東端へ向かってバスで行けるとこまで行くか、あるいは能登島のあたりをぐるりとまわるか、の3つの選択です。

 

当日朝になっても決められず、とりあえず穴水に行ってからその時の気分で決めることにしました。

 

のと鉄道の沿線の風景を見ていたら、能登半島の東端へ向かって行けるところまでバスで海岸線をまわるという案に決めました。

実は、これが本命だったのです、ただただ川と海を見る散歩ですから。

 

 

*穴水から能登町まで海岸線を見る*

 

計画の段階では距離感がないので、穴水からバスを乗り継いで能登半島の先端をまわって輪島まで行けそうな気がしました。

ところがバスの乗り継ぎを見ていくと半日でまわることは不可能そうで、せめて珠洲市あたりまでいけるかと期待したのですが、珠洲市行きのバスはちょうどあってもその日のうちに穴水まで戻るバスがなさそうです。

能登町役場前まで往復する路線バスが、ずっと海岸線を走るようでした。

 

穴水駅を12時29分に出発する「穴水宇出津B」のバスに乗りました。宇出津は「うしつ」と読むようです。

高校生や地元の人がけっこう乗って出発しました。

しばらく山道を走り、10分ぐらいした頃でしょうか、中居南口からは海岸のすぐそばを走りました。防風林や自然堤防もなく、ずっと海がすぐそばに見えます。

 

小さなUの字のような湾が、何度も何度も繰り返しあらわれます。

東岩車というあたりでは、それまで凪のように静かだった海が波立ち始めました。そろそろ外洋に出るのかと思ったら、そこもまだ七尾湾の内側でした。

50分ぐらい走ってもまだ穴水町で、曽良(そら)というバス停あたりで、外洋が見え始めました。

対岸は見えないのですが、富山の方向です。

 

バスの車窓からでも海底が見える海のすぐそばを、バスが走ります。

山側には見事な棚田があり、ほとんど川がなさそうなのに、集落ごとに水路が整然とつくられていました。どこに水源があるのでしょうか。

 

どの集落も、どっしりした真っ黒の屋根と黒っぽい壁に統一された家々が並び、小さな畑や小さな港、息をのむような美しい風景が続きます。

 

バスに乗って1時間ほど、最初から一緒に乗っていた高校生の最後の1人が下車しました。

1時間のバス通学なんて大変そうですが、この風景を毎日見ることができるなんてうらやましい限りです。

 

沖波とか前波という地名のあたりから海岸線がまっすぐになり、遠くに宇出津新港が見え始めました。

1時間27分のバスの旅が、もう少しで終点です。

 

能登町役場前で降りた後、海へ向かって歩きました。

小さな湾に漁港があり、その近くの公園には海を眺めて座れるようにベンチがありました。

地元の方がふらりと散歩をしては、このベンチに座って海を眺めていました。

なんて落ち着いた街なのでしょう。

 

 

穴水まで、同じルートの路線バスに乗って戻りました。

あきることもなく、光の加減が違った風景はまた、それはそれは美しいものでした。

 

バスから降りた時には、なんだかふらふらとしました。

同じ日本のどこかにこんな風景があるなんて、幻想の世界から戻った、そんな感じでした。

 

 

 

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