鵺(ぬえ)のような 24 「遅れている」という世の中の不安

マイナンバーカードの迷走は「行政の効率化」を先に進め、そのあとに国民の利便性へと発展させるべきものだったのが先を急ぎ、そして強制的な手法をとったことがもっとも大きな原因だと見えてきました。

 

そして世の中に不満が噴出してくると問題の根本はどこにあるのかが見えにくくなって、「デジタル化についていけない高齢者のせい」とか「アップデートもできない高齢の医療者がマイナンバーカードと保険証を一体化するのに反対している」とかあらぬ批判が飛んできますね。

そういう批判を無責任に書き込むのは、医療現場でのデジタル化が始まった1990年代初頭にはまだこの世に生まれていなかったか、子どもだった世代なのだろうなと想像しています。

その時代の牽引役だった世代が今の60代から70代の医療従事者ですからね。

 

1990年代というのは次々とあらたに疾患がわかり治療法が確立されて、救命救急の技術や制度が整い、医薬品や医療機器が比較にならないほど増えて治療が複雑になった上に、医療安全対策や接遇など、社会が求める理想の医療に近づくようにも求められた時代でした。

1980年代とは比較にならないほど、医療が驚異的に変化した時代です。

 

60代以上の医師というのは一般の人がイメージするような「ITを使いこなせない世代」とは全く違って、そういう高度な医療機器や電子カルテを日常の診療で使いこなし始めた先駆けの世代でしたね。

 

 

*もしかするとこれが理由かもしれない*

 

 

そうそう私のかかりつけの歯科の先生も、保険診療をやめることになりました。

まだまだ診断・技術ともに安定感がありましたが、残念です。

得体の知れない感染症が拡大し始めたときに、飛沫を浴びるリスクが最も高い領域なのに変わらず診療を続けてくださった上に、自治体の予防接種のお手伝いもされていました。

 

やっと通常業務に戻り始めた頃に、マイナンバーカードの混乱です。

閉院を早めたのはこれが理由だったのかも知れないと思う記事がありました。

 

「対応できず閉院決めた」例も…医療機関を追い込む 「マイナ保険証」 システム整備義務化、できなければ制裁

 

 2024年秋に健康保険証が廃止され、マイナンバーカードと一体化されるのを前に、医療機関による「マイナ保険証」への対応が1日、義務化された。医療機関には、カードの保険証情報を読み取るオンライン資格確認のシステム整備が求められるが、作業の遅れや機器のトラブルが起き、不満の声が広がる。導入への負担から閉院を決意したケースも出ている。(山田裕一郎)

 

顔の認証がうまくいかないトラブルも…今後大丈夫?

 「マスクをとって顔認証を試してみますね」。3月下旬、東京都江戸川区の「松江歯科医院」の受付に設置したカードリーダーに、扇山隆院長(57)が自身のマイナカードを差し込んだ。ところが、顔を近づけるとエラーを意味する赤色のライトが点灯。「角度が悪いのかな」。何度かカメラに向かう位置をずらした末、本人だと認識された。

 同院では、昨年12月に設置を導入。設置には国からの補助金が出るが、光回線を新たに整備したため自己負担分が出た。「患者が新型コロナ前の8割ほどしか戻っておらず、経営は厳しい」と扇山さん。受け付けも1人でこなすため「患者が受け付けするたびにエラーが出て対応するのでは診察にならない」と懸念する。

 「マイナ保険証の運用が本格化した時、トラブルに対応できるか不安だ。環境が整っていないのに、国はなぜ、システム義務化や保険証廃止を急ぐのか」

 厚生労働省によると、3月19日現在、システムを運用している医療期間は57.6%にとどまる。カードリーダーの申し込み率は92.3%だが、回線整備の遅れなどが発生している。政府は機器の契約後も整備が未完了の場合、9月末まで猶予を設けるなど、医療機関向けの経過措置を示している。

 システムを導入しない場合、保険医療機関の指定が取り消される可能性がある。厚労省の担当者は「丁寧に説明し、指導していく」と話す。

 

「義務化は憲法違反」医師ら274人が国を提訴

 全国保険医団体連合(保団連)のアンケートには、オンライン資格確認の義務化を機に、高齢の医師・歯科医師らを中心に閉院や廃院を検討しているとの声が寄せられている。

 京都市の医院と診療所で診察する男性医師(70)もその一人。回線が整備できず、診療所は経過措置後の9月末で閉院することを決めた。「高齢のため、システムやプライバシー保護への対応に自信がない。診療所の患者には紹介状を作成した」と明かす。医院のほうは回線工事を依頼しているが、「設置はいつになるか分からない。経過措置期間内にできればいいが」と不安を口にする。

 保険証廃止は、政府が3月に国会提出したマイナンバー法など関連法改正案に盛り込まれた。これに対し、保団連は厚労省に法案撤回を要請。国会内での集会では、保団連の住江憲勇会長が「オンライン資格確認はメリットが少ない上、顔認証自体がプライバシーの侵害。国家による個人の統制・監視につながる」と訴えた。

 一方、オンライン資格確認の義務化自体は厚労省の省令改正でなされた。これに対し、医師と歯科医師計274人が2月、義務がないことの確認などを国に求める訴訟を東京地裁に起こした。国会での立法措置に基づかず、省令改正で義務化したのは憲法違反だと主張している。

 医療法務に詳しい井上清成弁護士も「省令改正だけで拘束力を持たせるのは行き過ぎだ。十分な協議や手続きを経ておらず、無理がある」と問題視する。「法的根拠が弱い中、義務化に従わなかった医療機関に制裁を加えるのはバランスを欠いている。保険証廃止の結論ありきで、政策の進め方として課題を残す」と苦言を呈した。

東京新聞、2023年4月2日、強調は引用者による)

 

 

10年以上今の歯科医院に通院していますが丁寧にブラッシングや健診に力を入れてくださり、必要があればすぐに大きな病院を紹介してくださり、その治療内容は標準的でとても信頼を持てるもの達人級の先生に出会ったと思いました。

もちろん、診療の記録やレセプトのためのパソコンも使いこなされていました。

 

細かい作業が必要な歯科なので、いつかは引退の日が来られるだろうと覚悟はしていましたが、政府からあるいは社会からハシゴを外されるようなこんな形になるとは思ってもいませんでした。

長い間、国民の医療に貢献してこられた先生方なのに、なんだか悲しいですね。

 

 

それにしても、ほんとうに日本の社会はそんなに「デジタル化」が遅れているのでしょうか?

 

 

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