事実とは何か 98 「義務ではない」が現時点の判断

目の前の生活と仕事に追われていると、いつの間にか「既成事実」が積み重なって「事実」かのように変化してしまうことがありますね。

時々しっかり確認しておかないと見失うことがあるので、今回もまた私の忘備録です。

 

 

「『厚労省が押し切ったな』マイナ保険証めぐり幻の"有料化案"」

 

 

幻に終わった"有料化案"

2月17日午前の閣僚後会見。

河野デジタル大臣は、来年秋に紙の保険証が原則廃止されることを受け、次のように述べた。

河野デジタル大臣

マイナンバーカードを保険証として使っていただくことが基本ですが、紛失をしてしまったとき、あるいはベビーシッターなど第三者が同行して資格確認をするような場合に、「資格確認書」を提供することといたします」

 

政府は、来年秋をめどにマイナンバーカードを保険証として利用する「マイナ保険証」に一本化する方針だが、河野大臣は、カードを持たない人のために「資格確認書」を発行すると発表した。

会見で河野大臣は、こう付け加えた。

 

河野デジタル大臣

「こうした資格確認書は無償で提供をするということにいたします」

 

「資格確認書」は無償、つまり手数料無料で発行する。政府内で検討されていた"有料化案"が幻に終わったことが宣言された瞬間だった。

 

河野大臣VS加藤大

 

「資格確認書」の有料化案というのは、デジタル庁を中心に出てきたものだ。2022年秋、河野デジタル大臣が「紙の保険証を廃止し、マイナ保険証に一本化する」と宣言したとき、「紙の保険証を廃止するのに、また別の紙の証明書を発行するのはナンセンス」「そもそも保険証廃止する必要ないのでは」、こんな声が相次いだ。また、デジタル庁内には「マイナンバーカードによって、公的・民間も含めて社会的なコストが下がる。カードを持ちたくない人は、そのコスト減の効果を少なくしている分だけ対価を支払う必要が出てくる」という意見があった。

カードを持たない・持ちたくない人に対しては、従来通りのサービスを提供する代わりに、より割高の対価を要求する、高速道路でのETC(電子料金収受システム)のようにすべきだ、という考え方だ。

複数の政府・与党関係者によると、河野デジタル大臣はこういった考え方に基づき、「資格確認書は有料とし、その有効期間もできるだけ短くすべき」と訴えていたという。

 

一方、同じ閣僚でも、加藤厚生労働大臣は、発行料は無料とすべきというスタンスだった。「保険料を収めているのだから、従来と同じ保険診療を受けることができるのは当然の権利」という主張だ。デジタル庁の中でも、一部の幹部はこのような考え方だった。

 

「有料」か「無料」か。有効期間は「1~3ヶ月程度」なのか、それとも「数年」とするのか。議論はしばらく平行線を辿ったという。

 

 

「罰金とすべきでない」流れを決めた自民党内の声

 

2月8日の朝8時。自民党本部で開かれた「総務部会・厚生労働部会・デジタル社会推進本部合同会議」。

この場で、「マイナンバーカードと健康保険証の一体化に関する検討会」における検討状況が示され、有料化案も話題に上った。

出席した議員の多くが反対したという。

 

出席した議員

「保険料を払っているので、義務でないマイナカードを取らなかったからと言って負担させるべきではない」

「カードを取らないから罰金、みたいに受け取られることをやってはいけない」

こんな意見が相次いだのだ。

この日を境に、有料化案は急速にしぼんでいく。

 

そして、17日の閣僚後会見。

加藤厚生労働大臣は、資格確認書の有効期間は「1年を限度として各保険者が設定」すると発表した。現在の紙の保険証についても「1年間は有効とする経過措置を設ける」という。

 

有料化の議論について記者から問われると、「議論すら存在しなかった」と言い切った。

 

加藤厚生労働大臣

「政府内でそういうことを議論していたわけでは全くありません。したがってこういう結論になるのは当然のことだと私は考えています」

今回の結果を受けて、関係者はこう呟いた。「今回は厚労省が頑張って押し切ったな」

 

 

普及を阻む"対面"の壁

 

カードの取得促進に向け、有料化という"ムチ”を封じられた政府。今後はどうやって取得率を上げていくのか。

一番のハードルとされているのが「対面」の壁だ。現在の制度では、カード申請はオンラインや郵送でもできるが、受け取りの際に必ず本人が役所を訪れ、対面で本人確認したうえで交付されることになっている。役所が開いているのは原則平日のため、社会人などには大きなハードルとなっている。

 

そこで今回政府は、特定の郵便局でオンラインによる本人確認を行なったうえで、郵送でカードが送れるよう、制度化を目指すことを決めた。また、新生児やカード紛失時の再交付、海外からの転入者などを対象に新たに「特急発行」の仕組みを、2024年秋までに創設する。これまでは申請からカードの受け取りまでは1ヶ月程度かかっていが、「特急発行」では本人が窓口で申請すれば最短5日間で郵送で交付できるようにするという。特に新生児については、出生届と一緒にカード申請することで生まれた赤ちゃんがすべてカードを取得できるようにできないか、検討されているという。

また、これまで代理人がカードを受け取ることは「病気、身体の障害その他やむを得ない理由のみにより役場に出向くことが困難であると認められるとき」のみ認められていた。この条件を大幅に緩和することで、例えば小中学生については本人確認書類で年齢を確認することで、保護者らが受け取ることも今後、可能にするという。

 

 

「ほぼ全国民」の目標はどこへ

 

マイナンバーカードの普及率は申請ベースで約8662万件、全人口の68.8%に達した(2月12日現在)。これは運転免許証を上回る数字だ。

 

岸田総理

「様々な工夫を重ね、昨年初めに、5500万件だっった取得申請を、8500万件、まで増やしました。今や、運転免許証を大きく超え、日本で最も普及した本人確認のツールです」

 

今年の岸田総理の施政方針演説でこう胸を張った。しかし、政府がこれまで掲げてきた目標は「2023年3月末までにほぼ全ての国民に行き渡らせることを目指す」である。去年10月の岸田総理の初信表明演説でも「概ね全ての国民への普及のための取組を加速する」としていた。その文言は消えてしまっている。

 

政府関係者は「先進国でもオンラインで本人確認できるツールがここまで普及した国はない」として、事実上目標は達成したとの認識を示しているが、政府が一度掲げた目標は重い。「ほぼ全ての国民」はどうなってしまったのか、岸田総理の説明が待たれる。

(TBS NEWS DIG、2023年2月18日)

 

少なくとも2月8日の時点では、議員さんたちの中でも「義務でないカード」という認識があることがわかりました。

 

加入している協会から年に一回送られてくる「医療費のお知らせ」が最近届きましたが、今使われている保険証が今後どうなるのかは書かれていませんでした。

さまざまな健保協会があるようですが、保険証を廃止というのは今までの体制を大きく変えてしまうことになるのでしょうか。

 

ところで、「従来の紙の保険証」という表現をしばしば耳にするのですが、私の保険証はだいぶ前からすでにプラスティック製のカードになっていますし、勤務先に受診される方々の保険証のコピーもほとんど「紙の保険証」は見かけませんね。

必要ならば、この健康保険証にICチップをつければまだよかったのにと思うのですけれど。

ただし、まずはあくまでも任意で。

 

保険証にしても運転免許証にしてもそれを発行する過程でたくさんの人が従事していたと思うのですが、その人たちの仕事は突然としてなくなってしまわないでしょうか。

なんだかあの割り箸の時代や最近のレジ袋やストローを一気に廃止して、それまでその産業を築いてきた人のことはどうなってもいいかのような雰囲気に似ていますね。

 

 

「急いては事を仕損じる」という戒めが思い浮かびますが、健康保険のしくみも歴史も私は不勉強のままでした。

 

 

 

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