ダナ・ラファエル氏の「母親の英知 母乳哺育の医療人類学」(小林登監訳、医学書院、1991年)の各章にはすべて、日本語のタイトルとともにこの「Only Mothers Know」という言葉が入っています。
各国でのフィールドワークの報告にも興味深い話がたくさんあるので、それもおいおいご紹介していきたいと思いますが、そのフィールドワークを通して伝えたかったのが、この「Only Mothers Know」だったのだと思います。
出産後、初めて赤ちゃんに接するお母さんは、抱っこするのもとても緊張しています。
首とお尻を持って抱えたらそのまま固まってしまい、反対側の向きに赤ちゃんの位置を変えるのにも戸惑うほどです。
初めてのオムツ交換では汗だくになり抱っこに緊張し、初日にして「これで育てていけるのかしら」と不安にもなるようです。
そんな初めてのお母さんたちも、退院の頃にはだいぶ赤ちゃんのお世話に慣れていきます。
それでも最初の1ヶ月ぐらいは、いろいろなことが不安になり、産院に電話をかけてきたりします。
なぜ不安になるかといえば、お母さんたちは常に24時間ずっと赤ちゃんにアンテナを向け、全身で赤ちゃんのことを観察しているからではないかと思います。
赤ちゃんのぐずぐずや泣き方のトーンの違い、表情、うんちやおしっこのタイミング、あるいはいきんだりおなかがきゅるきゅるいったり、眠りにつく瞬間、そんなデーターを体中で取り込んでいる時期なのでしょう。
1ヶ月もするとそうしたデーターがなんとなくつながりあって、「この泣き方は大丈夫」とか、その赤ちゃんのことを一番よくわかるようになるようです。
もちろん赤ちゃんはどんどん成長して先を行くので、追いかけていかなければいけないのですけれど。
そこを過ぎると、ほんとうにお母さんたちの成長も目覚しいものがあるといつも感心します。
誰にも教わっていないのに、赤ちゃんの月齢や成長に合わせた関わり方をいつの間にか取り入れてちゃんと育てているのですね。
そして二人目の出産で再会した時には、もう本当にベテランのお母さんになっています。
赤ちゃんに触れるだけでも緊張して手に汗をかいていた初産の時の様子が昨日のことのように思い出されても、目の前のお母さんは同じ人とは思えないほどです。
二人目ともなると、「こんな小さい赤ちゃん久しぶり。忘れてしまった。」とおっしゃいながらも、赤ちゃんの泣き方のトーンでうまく抱き方やあやし方を変えています。
知らないこと、判断を誤ることもたくさんあったことでしょう。
でも目の前のこどもは、ちゃんと大きくなっています。
よく頑張ったね、と本当に思います。
Only Mothers Know.
私もそう思えるようになりました。
「自分の指導や支援がわるかったから母乳にできなかった」なんて思うのは、もしかするととてもおせっかいなことかもしれません。
だからどのような授乳方法を選択しようとも、すべてのお母さんの選択にまかせればよいと思います。
そしてすべてのお母さんに、よく頑張ったねと言えばよいだけだと思っています。
育児は母乳から始まるかのような関わり方、お母さんのおっぱいと赤ちゃんの飲み方しか目に入っていない「授乳指導」はもうやめたほうがよいのではないかと思います。
<おまけ>
読んでくださっている男性の皆様へ。
母乳に関しての記事なのでお母さんの成長を主に書いていますが、お父さんの成長にも同じ事を感じています。
最初の出産の時には何をどうしていいのかわからず、また赤ちゃんを抱っこするのも緊張しきっていたあのお父さん達が、二人目の出産では手慣れた様子で上の子の世話をしてパートナーが出産に集中できるように気を配ってくれています。
みんな、誰に教わるわけでもないのにすごいなと感動します。
「完全母乳という言葉を問い直す」まとめはこちら。