完全母乳という言葉を問い直す 13 <吸わせれば出る・・・のか>

母乳は吸わせ続ければ、多くの場合母乳だけで育てられるほど出るようになるのか?


これが多くの人が知りたいところではないでしょうか。


私も助産師になったばかりの頃から、とてもこのことに関心がありました。


そして最近の私の中での答えは、YesでもありNoでもあるということ。
「結果的に」に母乳だけの場合もあるけれどそうならない場合もある、というごくごく当たり前の結論です。


「結果的に」というところが大事で、どんなに自然なお産を目指していろいろと取り入れても結果的に医療介入が必要な出産もあるということと同じだと思います。


つまり、結果が保証されるような方法論はいまのところない、ともいえるでしょう。


今回からの記事は、自分で検証をしてみようと思っていろいろやってみた失敗談です。
もっともそれは個人的な体験に過ぎないですし、記憶に頼る部分が多いのですが。


<入院中にミルクは足さないということ>


WHO/UNICEFの「母乳育児を成功させるための10か条」がまだそれほど日本の社会に知られていない1990年代初めのころから、それを実践している病院に勤務していました。どうしても泣き止まないときには、糖水を哺乳ビンで補足していましたが。


まだその頃の私は、「泣けばおっぱい」「泣けば授乳」「泣けばおなかがすいた」と新生児の表現をお母さんたちに通訳するしかできませんでした。
新生児の泣き声を聞き分けることはまったくできず、まして生後日数によって新生児の泣き方も吸い付き方もどんどん変化しているなんて目に入っていませんでした。


またその頃の病院は母子別室の構造で大部屋が基本だったので、ベッドで添い寝もできずベビーコットに赤ちゃんを置くたびにぐずられ、また「授乳」のやり直し。
お母さんは赤ちゃんを寝付かせることに産後の体力を取られていた感じでした。


当然、出産直後からの直接授乳の回数は相当なものです。
時には2〜3時間ぐらい赤ちゃんを預かるのですが、それはスタッフ側にすれば「吸わせない時間が増えると出なくなってしまう」という気持ちがあるし、お母さん側にすると「とうとう預けるという誘惑に負けてしまった」ような気持ちになるので、いつ預かるかというのは双方の気持ちの駆け引きのようなものでした。


糖水を足したからといって新生児は決して長く眠ってしまうわけでもなく、やはり30分もすると泣き始めます。


それだけ吸わせる回数を増やした結果はどうだったでしょうか。


私と同僚はその後、同じ頃に他の病院へ移りました。
どちらも適当にミルクを補足し、いつでも新生児を預かる病院でした。
久しぶりに再会した彼女が、「今ミルクを足している病院だけど、前の病院に比べて母乳が出るお母さんが多いような気がする」と。
私も同じことを感じていました。
ミルクを足さない病院に比べて母乳が出るお母さんが多いかどうかは印象にすぎないのですが、少なくとも、産後2〜3日頃から急に母乳が出始めるのはなんら変わらないので、お母さんたちも出産直後から「吸わせなければ出なくなる」「ミルクを足すと出なくなる」というプレッシャーは感じなくて済んだのではないかと思います。


産後「休みたい」と思うときに、その気持ちを遠慮なく言える環境というのは大事だと思います。


その後、私自身も試行錯誤しながら、出産直後の2〜3日は多少ミルクを足して退院の頃から、あるいは赤ちゃんの状況によっては生後2〜3週間ごろからミルクの回数を減らしていくような方法に落ち着いています。
もちろん、母乳だけを希望される方にはそれにあわせた対応もします。


吸わせる回数が少ないと母乳分泌が減るからと、その分を搾乳させるということも以前はやってみました。
でも1ヶ月頃までは、搾乳をしなくてもほとんどの方が大丈夫そうという印象が今はあります。
搾乳までしておっぱいを刺激させることはお母さんの心身にはとても負担がかかることだと、今は思っています。
手首を痛めて腱鞘炎にもなりやすいですし、搾乳の時間の分を睡眠に取ったほうが良いと思います。


以前いただいたtmさんのコメントhttp://d.hatena.ne.jp/fish-b/20120523/1337746988#c1337870661にもあるように、最初ミルクを足していても「母乳だけ」にしていくことは十分可能です。
実際にそのように余裕をもった関わり方で、母乳支援ができている施設もけっこうあるのではないかと思います。



そこまでしなくても大丈夫なのにという事実があるのに、出産直後から糖水もミルクも与えてはいけないかのように結論づけてしまうのは、もはや科学的な態度とはいえないように私は思います。


失敗談は続きます。




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