「全人的な」という言葉が臨床で聞かれ始めたのは、1980年代終わり頃だったでしょうか。
主に癌の終末期を迎えた患者さんに対して、心身ともに穏やかに死を迎える準備の中で使われ始めたように記憶しています。
その後、ホリスティックという言葉で、終末期だけでなく広く健康や疾患のケアの中で使われるようになりました。
ホリスティック医学協会のHPから引用します。
ホリスティック(Holistic)という言葉は、ギリシャ語で「全体性」を意味する「ホロス(Holos)」を語源としています。そこから派生した言葉には、Whole(全体)、Heal(癒す)、Health(健康)、Holly(聖なる)ーなどがあり、健康ーHealthーという言葉自体がもともと「全体」に根ざしています。
ホーリズムとは、「全体とは部分の総和以上のなにかである」という表現に代表される還元主義に対立する考え方で、臓器や細胞などといった部分に分けて研究し、それを総合したとしても、人間全体をとらえることはできない。現実の基本的有機体である全体は、それを構成する部分の総和よりも存在価値があるという理論であり、同時に一固体は孤立に存在するのではなく、それをとりまく環境すべてとつながっているという考え方である。
こうした考え方が基本にあって、次に紹介するような「西洋医学は、病人全体を見ていない」という批判とそれに対して「全人的に治療する代替療法」というとらえかたをする人たちもいます。
今日のタイトルについては、私には結論を書けるほどの知識もないので、頭の整理のために書いた記事ぐらいに受け止めていただければと思います。
<なぜ補完・代替療法が注目されたのか>
2000年前後から、医療の中でも代替療法を見直す声が出てきたように記憶しています。
その理由としてよく聞かれたのが、「疾患だけを見ている通常医療に対し、その人全てを受け止めるのが代替療法である」ということでした。
たとえば「医療従事者のための補完・代替医療 改訂2版」(今西二郎編集、金芳堂、2009年)には、以下のように書かれています。
先進諸国においては、西洋医学が中心の医療が行われている。現代西洋医学は、感染症をはじめ多くの疾患をもたらした功績もきわめて大きい。しかしながら、それでも西洋医学的手法でもって力の及ばない領域が常に存在するのも事実であろう。たとえば、まだ原因が明らかとなっていない複雑な発症要因をもった慢性的な疾患、ストレスなどの精神的な要素が反映される疾患、再発性疾患などである。
西洋医学では、分析的な手法を用いて、疾患の病態解明や、それに伴う診断や治療法の開発という過程を経ることにより、うまく成功してきた。このようなことから、西洋医学はどうしても病気にだけ焦点を当てがちであり、つい病人全体のことを忘れてしまう傾向がある。これに対して、多くの補完・代替療法では、患者を全人的に治療するという基本的な基盤がある。
この本の中の各論で紹介されている代替療法は、以下の内容です。
漢方、鍼灸、中国伝統医学(気功などを含む)、アーユルヴェーダ、ヨーガ、ユナニおよびアラブ伝統医療、栄養補助食品、プロバイオティクス、絶食療法、菜食主義、長寿食、ハーブ療法、アロマセラピー、ホメオパシー、バッチフラワーレメディ、園芸療法、アニマルセラピー、イルカ療法、バイオフィードバック、催眠療法、自律訓練法、瞑想療法、臨床動作法、イメージ療法、呼吸法、芸術療法・絵画療法、音楽療法、ダンスセラピー、ユーモアセラピー、カラーセラピー、光療法、温泉療法、タラソセラピー、森林療法、指圧、カイロプラティックとオステオパシー、リフレクソロジー、マッサージ・ボディワーク、セラピューティックタッチ、太極拳、運動療法、宗教的治療法(信仰療法、シャーマニズム、クリスタル療法)
さらに「その他の療法」として、以下の内容の説明があります。
人智医学、自然療法、ガーソン癌療法、マクロビオティック、経皮的電気神経刺激療法、良導絡、磁気療法、漸進的筋弛緩療法、内観法、整体、操体、ホースセラピー
この本はホメオパシーに関する日本学術会議会長談話が2010年8月に出される前に出版されているので、ホメオパシーも入っています。
こちらの記事で紹介した、開業助産所の業務として扱っている代替療法と民間資格のリストだけでも圧倒されそうな数です。
「全人的な」というのはどういうことなのでしょうか。
「治療する」ということはどういうことなのでしょうか。
そのあたりを、もう少し整理して考えてみようと思います。