水泳競技の国内放送は、日本選手権や国体あるいはオリンピックはNHK、世界水泳や日本選手権短水路(25m)あるいはワールドカップ東京大会などの国際大会はテレビ朝日と大きく分かれているようです。
競泳の会場運営も、実際に会場にいるとNHKの時とテレビ朝日の時では雰囲気が異なります。
一番大きな違いは、選手へのインタビューで感じます。
NHKのアナウンサーの場合には、短い質問を一つか二つで終わります。
そして選手がその時に答えた内容をそのまま受け止めて大事にしている様子が感じられます。
この日のこの時のわずか2〜3本のレースに賭けて、過酷な練習とプレッシャーに打ち勝って、全力で泳ぎきったあとの選手です。
おそらく頭の中は真っ白で、一言一言が搾りだすような言葉だと思います。
ところがテレビ朝日の場合には、さらに選手から言葉を引き出そうとします。
あるいは放送局側が求めている言葉、ライバルとの戦いや誰かへの感謝などを引き出そうとする質問が続きます。
今回の世界水泳でもそうでした。
注目されていた萩野公介選手への質問にも、本人が言いたかったこと(あるいは言いたくないこと)をもう少し大事にしたほうがよいのではとヒヤヒヤする場面もありました。
あるいは瀬戸大也選手が400m個人メドレーで金メダルになった直後のインタビューで、瀬戸選手はレースを振り返った落ち着いた感想を述べていたのにもかかわらず、あえて萩野選手とのライバル争いへの気持ちを引き出そうとしていました。
19歳という若さで、金メダルに舞い上がらずに各国の選手の泳ぎまで振り返りながらの感想を言う瀬戸選手に私はとても感激していたのですが。
でもテレビ局の空気を読んで萩野選手を称えた瀬戸選手も、またさらりとインタビューをかわして去っていく萩野選手も大人だと思いました!
短い言葉でも全身からふり搾ったインタビューとそれに続く沈黙も、人を十分に感動させるものがあることをもう少し大事にしてくれるといいといつも思います、
その点では今回、男子100m自由形で優勝したマグナッセン選手(豪)が表彰台でずっと泣き続けていた時に、アナウンサーは一言もしゃべらずに静かに見守ってくれていました。
あと、いつもはカットされて見せ場だけの放送になる1500m、800m自由形のレースですが、今回は日本人選手が出ていないのにもかかわらず全て放送してくれたことは良かったと思います。
2001年の世界水泳福岡をテレビ朝日が放送していなければ、今頃私も競泳のおもしろさにはまっていなかったと思います。
たしかその次の世界水泳の時には、SMAPがMCだったと思います。
実はその放送を見てSMAPを「スマップ」と呼ぶことを初めて知ったくらい芸能関係の話題には無知な私でしたが、SMAPが選手ひとりひとりの努力や実力に素直に感動を表し、共感した応援をしていたことでSMAPを好きになったのでした。
しかも日本選手だけでなく、海外選手に対しても態度は変わらなかった印象があります。
それ以降、世界水泳はすべて録画して見ましたが、以前に比べたら感動の押し売りのようなところは改善されたのではないかと思います。
あるいは「美女スイマー」とか、選手に別名をつけて紹介ビデオを繰り返し放送することも少なくなりました。
選手にはその競技の実力にのみ注目して、視聴者に伝えるのがフェアーだと思いますし、選手に対する礼儀だとも思います。
その点では、今回は海外選手の名前の下に、「ロンドンオリンピック優勝」とか「2013年全米、優勝」など功績がわかる表示がされていたことは良かったと思いますし、是非、次回は全選手の紹介を表示してくれるととても参考になると思います。
中には何年も前に金メダリストだったり世界記録を持っていて、しばらく不調だった時期があったのに復活している海外選手がけっこういました。
繰り返し同じレース場面を放送されるよりは、そういう選手を生み出してきた海外の競泳事情やトレーニングなどを伝えてくれると参考になるし、観戦のおもしろさも倍増するのではないでしょうか。
なんてったって「世界」水泳ですからね。
そしてそういう世界の情報がまた、国内で頑張っている選手の視野を広げて頑張ろうと後押ししてくれるように思うのですが。
日本選手だけに注目するのは仕方がないかもしれませんが、広い世界(全体)を見渡せる情報の中で日本選手をみることができたほうが、今後世界で戦える選手を育てる力になるのではないでしょうか。
あと、NHKの場合には解説者の話を集中して聴くことができます。
とても参考になる泳ぎの技術的なことを話している時に、アナウンサーの興奮した実況で遮られることはほとんどありません。
解説者への敬意が感じられます。
スポーツ観戦の楽しみ方はひとそれぞれなので、NHK的な放送とテレビ朝日的な放送のどちらが好きかという好みの問題なのかもしれません。
でもいまのところ、私の中では静かに競技に集中して観戦できるNHKに軍配ありといったところです。
2015年10月5日追記
SMAPがMCをしたのは2005年のようです。