災害時の分娩施設での対応を考える 15 <原発事故後に出された周産期関係の見解>

少し間があきましたが、前回までの災害時の分娩施設での対応を考えるをもう少し続けます。


2011年3月11日の東日本大震災が起きるまでは、私の居住地と勤務先がある地域で「防災」といえば、実質は火災と地震への対策の二つでした。


地域によっては、水害や雪害、あるいは火山噴火も現実的に対策が必要なところもたくさんあるとは思いますが、かなり限定した地域ではないかと思います。


まして「原発事故」というのは、原子力発電所とそれに隣接する地域ぐらいにしか考えていませんでした。
ところが今回の原発事故で、半径100kmを越えても対応策を常に意識していなければいけない、つまりは全国ほとんどの地域で防災対策として備える必要があることを痛感しました。


とりわけ分娩施設では、妊産褥婦および胎児・新生児・乳児への対応についての正確な情報と知識が求められます。


今回の原発事故後に、周産期関連で出された情報にはどのようなものがあったのでしょうか?


福島原発事故後に出された見解の整理>


周産期関係では、こちらの記事で紹介した二つの呼びかけ以外にも、日本産婦人科学会、日本産婦人科医会のホームページで妊娠中や授乳中の女性向けに見解が出されていました。


あくまでも私が現時点で把握しているものですが、今後のために列挙しておきます。


「福島原子力発電所(福島原発)事故における放射線被曝時の妊娠婦人・授乳婦人へのヨウ化カリウム投与(甲状腺がん発症予防について)」
2011年3月15日 日本産婦人科学会
「福島原発事故による放射線被曝について心配しておられる妊娠・授乳中女性へのご案内(特に母乳とヨウ化カリウムについて)」
2011年3月16日 日本産婦人科学会
「福島原発事故による妊婦・授乳婦への影響について」
2011年3月19日 社団法人日本産婦人科医会
「水道水について心配しておられる妊娠・授乳中女性へのご案内」
2011年3月24日 日本産婦人科学会
「『食品衛生法に基づく乳児の飲用に関する暫定的な指標値100Bq/kgを超過する濃度の放射線ヨウ素が測定された水道水摂取』に関する、日本小児科学会、日本周産期・新生児医学会、日本未熟児新生児学会の共同見解」
2011年3月25日 日本小児科学会、日本周産期・新生児医学会、日本未熟児新生児学会
「福島原発事故による妊婦・授乳婦への影響について(2) −汚染農産物の出荷停止と乳児の水道水摂取を控える通知に対して冷静な対応をー」
2011年3月25日 日本産婦人科医会
「大気や飲食物の軽度放射性物質汚染について心配しておられる妊娠・授乳中女性へのご案内(続報)」
2011年4月18日 日本産人科学会
「放射性ヨウ素(I-131)が検出された母乳に関し、乳児への影響を心配しておられる授乳中女性へのご案内」
2011年5月2日 日本産婦人科学会
「食材中の放射性セシウムについて心配しておられる妊娠・授乳中女性へのご案内」
2011年7月21日 日本産婦人科学会



今、落ち着いた時点でこれらの見解を読み直しても、当時の状況を判断するために必要な知識などが整理されていると思います。


妊娠中・授乳中の女性と胎児や乳児というのは、放射線の影響を最も受けやすい対象といえます。


最も安全性確保が優先されるそれらの人たちにさえ「心配しすぎなくて大丈夫」と呼びかけたこれらの専門家の見解を、もう少しマスメディアが繰り返し繰り返し社会に向けて広げていたら、混乱は長引かなくてもすんだのではないかと思えてきます。


でもやはりあのような状況では、誰の言葉を信頼するかというのも気持ちの問題なので難しいのでしょうか。





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