アドバンス助産師とは  15 <乳腺炎の診療報酬>

数ヶ月ほど前、友人の助産師から「乳腺炎の診療報酬にもアドバンス助産師の資格が必要になるらしい」という話を耳にした時には、なぜそうなるのか繋がりがよく理解できなかったのでそのまま聞き流していました。
私の勤務先では医師からもそういう話は聞いたことがなかったのですが、本当に助産師の世界には奥の間みたいなところがあって、グイグイと政治力が強い人たちがいるのですね。


「助産師としてようやく一人前」を認証することにもなんの意味があるのかよくわからないのですが、そのアドバンス助産師という民間資格が作られた経緯は正常な経過の分娩は助産師だけで介助するあたりだったのに、診療報酬にまで食い込むなんて、なんだかすごい権威になりつつあるようです。


ただし、「平成30年度診療報酬改定」をよく読めば、もっと違う視点が見えてきました。



<「平成30年度診療報酬改定」より>


検索してみると、確かに「平成30年度診療報改定」の「周産期医療の充実」に「乳腺炎の重症化を予防する包括的なケア及び指導に関する評価」がありました。

乳腺炎が原因となり母乳育児に困難がある患者に対して、乳腺炎の重症化及び再発予防に向けた包括的なケア及び指導を行なった場合の評価を新設する。


乳腺炎重症化予防ケア・指導料 イ 初回  500点  ロ 2回目から4回目まで150点」と決められたようです。


「算定要件」には以下のように書かれています。

乳腺炎重症化予防ケア・指導料は、入院中以外の乳腺炎の患者であって、乳腺炎が原因となり母乳育児に困難がある患者に対して、医師がケア及び指導の必要性があると認めた場合で、乳腺炎の重症化及び再発予防に係る疾患を有する助産師が、当該患者に対して乳房のマッサージや搾乳等の乳腺炎に係るケア、授乳や生活に関する指導及び心理的支援などの乳腺炎の早期回復並びに重症化及び再発予防に向けた包括的なケア及び指導を行なった場合に、分娩1回につき4回に限り算定する。
(青い強調部分は原文のまま)


分娩施設に長いこと勤務してきましたが、今まで乳腺炎の対応についての料金というのは、施設間での差が大きい印象でした。
というのも産褥乳腺炎で書いたように、「初期」の乳腺炎はだいたい助産師が対応して判断していましたから、医師が診察・治療する診療報酬の枠外で、自由診療のような範疇として扱われてきた経緯があります。


乳腺炎の初期であれば、鬱滞している部分の搾乳と基本的には赤ちゃんへの飲ませかたや授乳の抱っこのしかたなどでほぼ改善されます。そのため、実際には乳房マッサージは必要がなくても「マッサージ料金(搾乳と説明)」として、2000円から3000円前後の料金設定の施設が多かった印象です。


それがうまくいかずに発熱が続いたり症状が改善しない場合には、重症乳腺炎への予防やまれに乳がんの可能性などを考えて、産科医に依頼して診察・処方してもらうことがありました。この時には、保険診療になります。


乳腺炎の初期対応は、症状が改善しているかどうか、授乳方法が適切にできるようになったかを確認するために、時には2〜3回フォローが必要になりますから、自費診療での金額は出産後のお母さんたちや家族には負担だろうなと心が痛みました。
ただ、乳腺炎は夜間・休日関係なく相談が入りますし、時にはお産が重なっている合間にも対応せざるをえなかったり、乳腺炎の対応には1時間ぐらいはスタッフの手が取られます。


今回の、診療報酬の大事な部分は、それまで各施設で料金がまちまちで自費診療として扱われていた乳腺炎への対応が保険診療に組み込まれたという点で、褥婦さんへの負担の軽減になったことが第一にあるのではないかと思えました。
また、産科施設のスタッフの対応にも一定の評価が与えられたことになります。


そして、上で引用した部分は、今まで病院や産科診療所で行っていたこととなんら大きな変化はありませんが、大事なことは「乳腺炎には医師がケア及び指導の必要性があると認めた場合」が明言されたことにあるのではないでしょうか。


つまり、今までのように助産師だけで乳腺炎を扱ってはいけませんよ、という時代になったということでしょう。
決して、「アドバンス助産師が乳腺炎に対応できる資格」だと言っているわけではないのではないかと。



ところが、ここが政治力の強い助産師の世界で、それだけでは終わらないようです。
もう少し続きます。



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