妊娠・出産・育児中の方にとって妊婦加算のような支払いが増える話に驚かれるかもしれませんが、他にも加算されたという経験がある方もいらっしゃるのではないかと思います。
それが「電話等再診」あるいは「時間外対応加算」です。
妊娠中や産後に体調が悪くなってどうしたら良いか電話をかけて相談した場合に、次回の受診時にその分の支払いが求めらます。
この加算の経緯についてもこの10年ほどのことではないかぐらいの曖昧な記憶と知識しかないので、今回は私自身の頭の整理のために書いてみようと思いました。
これもまた、案外とその経緯が一目でわかるような年表も説明も見つけることができず、検索して出てきた情報を切り貼りした程度の内容です。
<「地域医療貢献加算」から「時間外対応加算」へ>
青森県保険医協会の「地域医療貢献加算 (保団連2010の点数改定のポイント一部抜粋のため(7)から記載」という資料が公開されていて、それによると2010年(平成22年)に「診療所の再診料に地域医療貢献加算(3点)が新設された」とありました。
たしかに当時、「これから電話での相談を受けた場合は料金を請求できる」という話がありました。
「こんな症状があるがどうしたら良いか」と電話がかかっってくると、医師の指示を確認したり、受診の必要がない場合でも自宅での対応方法を看護スタッフがアドバイスするのですが、以前はどこからもそれに対しての報酬はなく、医療機関側の責任感と善意で支えられて持ち出しになっている部分がようやく認められたという感じでした。
電話での対応だけでも、カルテを探し相談した内容を記録するまで、数分から長いと20〜30分ぐらい一人のスタッフの手が取られます。
また、直接状況を見ることができない電話での判断は、電話を切った後もあの対応で大丈夫だったかと心配で胃が痛くなりそうなこともあります。
その資料では「(9)地域医療貢献加算を算定するに当たっては以下の要件を満たす必要がある」としていくつか挙げられています。
ア. 緊急時の対応体制や連絡先等について、院内掲示、連絡先を記載した文書の交付、診察券への記載等の方法により患者に周知する。また、複数の診療所が連携して当番医を定めて対応に当たる場合には、当番医の担当日時や連絡先等を患者に周知する。
イ. 標榜時間外であっても、緊急病変時等において、患者から問い合わせがあった場合には、必要な指導を行う。
ウ. 患者に周知している電話連絡先が当該診療所の場合には、転送可能な体制を取るなど原則として常に電話に応じる。
エ. 当該診療所の職員が問い合わせを受けても良いが、その場合、速やかに医師に連絡を行い対応する。
オ. やむを得ない理由で、電話等による問い合わせができなかった場合には、留守電話等により対応した上で、速やかに患者に連絡を取る。
カ. 電話等による相談の結果、緊急の対応が必要な場合は、外来受診、往診、他の医療機関との連携又は緊急搬送等の対応を行う。
そして「(10)電話再診の場合であっても、地域医療貢献加算が算定できる」とあります。
2012年(平成24年)には、「地域医療貢献加算」から「時間外対応加算」へと名称が変更されたようです。
ただ、2010年に忽然とこのシステムができたわけではなくて、いくつかの資料を読んでいると、1997年(平成9年)に「情報通信機器を用いた診療(いわゆる「遠隔診療」)について」(厚生労働省健康政策局長通知1075号)あたりで、「直接の対面診療による場合と同等でないにしてもこれに代替しうる程度の患者の心身の状況に関する有用な情報が得られる場合、遠隔診療を行うことは直ちに医師法第20条等に抵触するものではない」という根拠が示されているので、90年代からすでに話し合われていたようです。
<「時間外対応加算」だけでは対応しきれていない状況もある>
正直なところ、日頃はこの時間外対応加算についてはほとんど意識しないで働いています。
妊娠から産後までためらって電話をしないと一気に状況が悪くなることがあるので、「いつでも電話してください」と話していますし、妊産婦さん本人のことだけでなく、育児や授乳のトラブルについても相談窓口があるという安心感だけでも産後のサポートになると思っています。
たぶん不満の矢面に立たされるのが医療事務の方々で、「先日の電話での相談分です」と説明しては嫌な顔をされているのだろうと申し訳なく思います。
ただ、その時間外加算だけではまだこちらの持ち出し分が全て解決しているわけではありません。
例えば、産後1ヶ月健診を過ぎてもう受診することがない方からの相談もその一つです。
「子どもが吐いた」「熱を出した」「ベッドから落ちた」「泣き止まない」など、緊急性があるかどうか電話で判断しながらアドバイスしますが、だいたいはその1回で対応が終わりますし、誰にその費用を請求するわけでもありません。
乳腺炎の対応も早い段階であれば、飲ませ方や受診のタイミングなどを電話で説明するだけで解決することも多いです。熟練したスタッフであれば、という条件が必要ですが。
あるいは電話での対応で大丈夫だっただろうかと気になるので、しばらく時間がたってからこちらから電話をすることもあります。
電話で適切に対応して良くなればお母さんにも赤ちゃんにも負担がないので、無報酬や持ち出しのことよりは安堵感の方が大きいものです。
直接の支払いがなくても、いろいろな医療資源によって守られている部分はたくさんあるのではないかと思います。
「正しさより正確性を」まとめはこちら。