落ち着いた街 40 トンネルの上の街の一世紀の記録

以前は100年前というのは大昔に感じたのですが、こうしてわずか100年ほどで大地震と渇水を乗り越えた水田地帯を見ると、一世紀というのは近すぎて混沌とした時間ですし不思議な長さだと思いながら畦道を歩きました。

 

東海道本線東海道新幹線の真上あたりまで歩く予定でしたが、暑さに負けて盆地の上を通る道路へ戻ってコンビニで休憩することにしました。

 

上り坂になる手前に、いくつかの石碑がありました。

 

*「丹那 畑  第二次構造改善事業記念碑」*

 

大きな比較的新しい記念碑は「丹那 畑 第二次構造改善事業記念碑」で、裏に回ってみるとこんなことが記されていました。

由来丹那畑地域は僅かな水田と急傾斜の畑を耕し農業を続けて来たが明治初年乳牛が導入され有畜産農業を形成し乳牛の改良に取り組み優良種畜の産地として名声を天下に馳せた丹那盆地は玄獄連山に囲まれ雨水は盆地に流入し各河川は流出した砂礫が沖積され天井川となり台風時などには堤防の補強に当たってもどこかが決潰して大きな被害を出していた又水田は湿田不整形小区画の圃場が殆どで一戸の耕作地も分散し道らしきものもなく運搬には困難を極めた加えて丹那トンネル掘鑿後は水不足となり残った唯一つの牧場水源を主な用水としていたが田植えその後の水管理も困難を極めた昭和三十九年第一次農業構造改善事業が実施され西方新山地区の畑六十五haの基盤整備が実施され大型機械の導入がなされそれに伴って農業の形態も機械化農業に変わりつつあった昭和四十四年国は第二次農業構造改善事業の構想を打ち出したそこで地域の関係者は丹那盆地の基盤整備を決意した遂行に当り困難な問題が起り実施も危まれたが漸く実施に踏切った基盤整備は昭和四十六年に着工中途に大量の神代杉が出現し工事は難工したが計画通り行はれ昭和四十七年全工事が完成したこの事業の成果による牛乳の増産に対応して函南東部農協の牛乳工場と施設が特認事業として認められ昭和四十六年三月完成四月より操業を開始し新たな流通を開拓した斯くして丹那畑地域は一次二次農業構造改善により甦った昭和五十八年九月換地登記完了を期に記念碑を建立し永く後世に伝える

 

真新しく石が輝いていたのですが40年前に建てられた記念碑で、そのとなりには複雑に入り組んだ道が掘り込まれた「丹那盆地従前地形図」という石碑がありました。

石碑の向こうには広々とした丹那盆地の水田地帯が整然と広がっています。

石碑の「丹那」は建っているこの辺りの地名で、「畑」はちょうど正反対の北東にその地名があります。

 

 

かつては湿田だったこと、天井川が氾濫しやすかったことなど、そしてトンネル工事による渇水と大地震

竹の節を思い出したのでした。

 

 

 

* 丹那牛乳の「140年の歴史」*

 

地図で丹那盆地の水田地帯に牧場があるのを見つけた時には、米余りの時代の転換だったのだろうかと想像したのですが、Wikipediaの「大量湧水」を読むと戦前からすでに「副業として酪農を行なっていた」ようです。

 

子どもの頃からその名を知っている丹那牛乳ですが、その歴史に興味が湧きました。

「140年の歴史」を読むと1881年(明治14)に始まったようです。

代々丹那の地で名主を勤めてきた川口家31代の秋平氏が丹那の地が牧畜に適していることに目をつけ、伊豆産馬会社を興した時、育牛を始めた事から丹那酪農の歴史は作られてきました。

(丹那牛乳 「140年の歴史」)

 

大正末期

伊豆畜産購買販売利用組合を設立し農乳の市乳化を進め東京への市乳販売の途を開きました。

丹那トンネル工事による湧水問題により、水田農業から酪農への変換をせざるを得なかった。

 

昭和8年

丹那道路の大改修を実施、村人は牛乳道路と呼びました。

 

 

丹那盆地の北西の端に、丹那牛乳の工場があります。ちょうどトンネルの上のあたりで、盆地のどこからも見えました。

そして丹那断層公園からぐるりと歩くと、何箇所か小さな牛舎があって牛と目があいました。

 

明治14年に酪農を取り入れていたことで、この地域は窮地を救われたという感じでしょうか。

こんな形で酪農やミルクに助けられてきた歴史もあるのですね。

 

そして戦後の「タンパク質が足りない」という時期は続き、1960年代になってもユニセフから支援物資として脱脂粉乳が贈られ、しだいに国内産の牛乳が給食で提供されるようになった時代の恩恵を私も受けていたのでした。

 

明治時代に酪農を取り入れた人たちは、一世紀後に子どもたちが学校で牛乳を飲むようになるとは想像もしていなかったことでしょう。

 

一世紀という長さと、その歴史の複雑さに少し眩暈がするような感じで、もう一度丹那盆地の穏やかな風景を眺めたのでした。

 

 

 

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