2024年1月25日に能登半島地震に対する政府の方針が出されましたが、いつになく違和感を感じたのが「生活となりわい支援」と「パッケージ」という表現でした。
令和6年能登半島地震「被災者の生活となりわい支援のためのパッケージ」
令和6年能登半島地震の発災から、間もなく1か月となります。これまでの懸命の取組により、生活インフラの復旧や、被災された方々の支援等は一定程度進んでおりますが、被災地では今なお、多くの方々が厳しい避難生活を余儀なくされています。先が見えないという現地の皆様の不安に応えるとともに、被災された方々が再び住み慣れた土地に戻ってこられるよう、そして1日も早く元の平穏な生活を取り戻すことができるよう、政府としても全力で支援をしてまいります。このような考え方の下、先ほど政府の非常災害対策本部で、緊急に取り組むべき施策について、「被災者の生活と生業(なりわい)支援のためのパッケージ」として取りまとめ、決定いたしました。
「パッケージ」というのが「1. 生活の再建」「2. 生業(なりわい)の再建」「3. 災害復旧等」のことのようです。
*問題はなんだろう*
その「生業(なりわい)の再建」について以下のように書かれています。
二つ目は、地域経済を再生するための生業の再建です。能登地方の経済の柱である農林水産業、伝統産業、観光業を始め、被災地の地場産業の雇用を維持し、事業の継続を支えるため、手厚い支援を講じてまいります。まず、地域を支える中小・小規模事業者をしっかりと支援してまいります。石川県では最大15億円、富山県・福井県・新潟県では最大3億円。さらに、多重被災事業者については、定額補助も可能とする生業再建支援事業等により、事業の再開、継続を支援いたします。また、伝統工芸を途絶えさせることなく、未来につなげていくため、事業継続に必要な道具や原材料の確保も、きめ細かく支援をいたします。農林漁業者の支援にも取り組みます。農業用機械等の再建支援や漁船等の復旧支援を進めるほか、地域の将来ビジョンを見据え、景観にも配慮した棚田の復旧や、観光とも連携した持続可能な里山作り、里海資源を利用した海業振興等を進めます。観光振興に向けては、ゴールデンウィーク前の3月、4月を念頭に、補助率50パーセント、1泊当たり最大2万円を補助する「北陸応援割」を行うとともに、能登地域については、復興状況を見ながら、より手厚い旅行需要喚起策を検討いたします。
誰がこんな冷たい支援策を思いつくのだろうと、絶望的な気持ちになりました。
ニュースから見えてくる能登半島や氷見、内灘、新潟の被災地の状況からは、地震によって地形が大きく変化してしまった様子が伝わってきます。
再び同じような地震が来たときに耐えられるのだろうか、地震に強い道路とか液状化を起こしにくい地盤にできるのか、以前と同じ仕事を再開するための安全が確保できるだろうかとか、それがこうした地域の方々の最も大きな不安と現実問題ではないかと思っていました。
全ての地域ではないにしても地震のあと4mも隆起した漁港と海岸線の後退を見ると、「漁船等の復旧支援」よりもまずは数百年とか千年に一度ぐらいの地震にも耐えられるような漁港を作ることが可能かといったことが先ではないかと思いますが、そのあたりは「3. 災害復旧等」にさらりとしか書かれていません。
「里海資源を利用した海業振興」ってなんだろう。
「里山」「伝統工芸」「景観にも配慮した棚田の復旧」それらはすべて、「ゴールデンウィークの観光」を呼び込むためかのようですね。
*「なりわい」ってなんだろう*
「なりわい」という言葉を初めて耳にしたのは1990年代に各地のダムやダム建設予定地を歩いた頃でした。ダムに沈む山間部の地域で農林水産業に携わっていたそういう方たちに、特別の想いを込めて「生業」という言葉が使われていた印象です。
当時は、研究者の方たちは「難しい言葉」をご存知なのだと圧倒されていましたが、しだいに「里山」もトレンドになって、こうした言葉を「情緒的な表現」だと感じるようになりました。
だって、「なりわい(生業) 生活を立てるための仕事」(Oxford Languages)であればどの仕事も当てはまるはずだけれど、看護を「なりわい」とは言わないですしね。
どこかに、運動的なプロパガンダ的な何かを含んだ言葉だと思うようになりました。
あの土木用語にしては文学的表現であり、定義もない「霞堤」に似ているかもしれません。
全国植樹祭のテーマが、現実的な問題や専門用語が少なくなり、フワッとした表現になっていったような時代の流れの中で使われてきたのかもしれません。
さて、「海業」という言葉も今回、初めて知りました。「うみぎょう」「かいぎょう」なんて読むのでしょう。
検索したら、ああやはりと思う経緯でした。
海業とは何か「海業」とは、「海辺に立地する産業」、あるいは「海風に吹かれた産業」を指すものとして1980年代中頃に当時の神奈川県三浦市市長によって創られた言葉である。この海業の振興が三浦市の政策的スローガンとして掲げられ、その後神奈川県もこれに倣って、2000年代初めまで海業振興を県の水産振興政策の柱に据えた。
(「海業のすすめ、海洋政策研究所」、強調は引用者による)
被災地の生活の実態に基づいていないから、こんな聞こえの良い言葉を「政策」に使ってしまうのだろうと思ったのでした。
さらに、個々それぞれの生活史に対して「パッケージ」なんて使われたくないですよね。
たぶん、被災地ではさまざまな視点から調査をしているたくさんの専門家がいらっしゃると思うのですが、この方針にそれらが生かされているのでしょうか。
ほんと、政府はどうしちゃったのでしょうか。
*おまけ*
「生活となりわい」を検索したら、「文化的景観ー生活となりわいの物語」(2012年)という書籍が一番先に出てきました。
読んではいないけれど、タイトルだけで自己啓発的なことが広がり、ニュースまで物語になっていく時代と重なったのでした。
ああ、そういえば「幸齢社会」なんてありましたね。
「生活のあれこれ」まとめはこちら。
あの日(2022年7月8日)から考えたことのまとめはこちら。
失敗とかリスクについてのまとめはこちら。