自律授乳のあれこれ 6 <なぜ「授乳」にだけ「自律」という表現がつけられたのか>

「小児は大人を小さくした存在ではない」ということは、小児医療や小児看護では最初に認識させられることのひとつです。


ただ単に、大人の体格を縮小コピーした存在ではないということです。


こちらの記事で、ナイチンゲールの「病気の子どもの生命を絶えさせることは、ろうそくの火を吹き消すのと同様、いともたやすいこと」という言葉を紹介しました。


その引用元である「小児看護」(桑野タイ子氏、中央法規、2000年)の「はじめに」に、ルソーが書いた文章が引用されています。

わたしたちは弱いものとして生まれる。
 わたしたちには力が必要だ。
わたしたちは何ももたずに生まれる。
 わたしたちには助けが必要だ。
わたしたちは分別をもたずに生まれる。
 わたしたちには判断力が必要だ。
   ルソー:エミールより (岩波文庫 1970)

そう、これが新生児を含む小児の特殊性だといえるでしょう。


<「小児医療」「小児看護」の歴史>


wikipedia「小児科学」の「歴史」には次のように書かれています。

一般に知られている範囲では19世紀初頭より小児特有の疾患を診療研究分野として内科学から発展分離していた経験を持つ。
20世紀初頭には、各国で学会も設立され独立した医学領域として確立してきた。

新生児学に至っては、1950年代にようやく始ったばかりです。


そのどちらも、「正常な経過の小児や新生児」よりは、「病気の子どもの生命を絶えさすことは、ろうそくの火を吹き消すのと同様、いともたやすい」そのような疾患の治療に全力を向けることから始ったことは想像に難くないものです。


栄養失調で、あるいは感染症で多くの子どもたちの命が吹き消されていった時代が、つい最近、半世紀前までの先進国でもあったのですから。



どこに書いてあったのかみつけだせないのですが、小児科学は「人工乳」の開発とともに発展してきたと書かれていました。
小児、特に新生児や乳児に与える栄養の研究が最優先課題の一つでもあったのだと思います。



ですから、どうしても新生児医療・新生児看護では「授乳」に注目されてきた歴史があるのかもしれません。


だから、乳児の全身の自律性よりはもっと狭義の「授乳」に、「自律」をつけた「自律授乳」という言葉が生み出されたのかもしれないと想像しています。