乳児用ミルクのあれこれ 17 <UNICEFの母乳推進運動の矛盾 その2>

1970年代から80年代にかけて、「開発途上国ではミルクを不衛生な状態で飲まることでの感染症や、高価な粉ミルクを薄めて飲ませていることによる栄養失調が問題になっている」ということが言われました。


そういう地域や状況もあったかもしれません。


それならば、できるだけ衛生的に飲ませられる方法、適切な濃度で使用する必要性を周知させていくことが、まず第一の解決策ではないかと思います。


そういう解決策を選択することができる状況でもなお、「粉ミルク」を与えることは危険と言い続けなければいけないのでしょうか。


2006年に起きたインドネシア・ジャワ島の地震と同じ2006年のレバノンの紛争地域についてのユニセフのプレスリリースから考えてみます。


<ジャワ島の報告より>


「ジャワ島地震情報 第12報 命を支える母乳育児」では、ユニセフ緊急支援栄養担当官の「多くの人が粉ミルクの配給を受けました。しかし、これは、子ども達の健康状態にマイナスの影響を与えてしまったかもしれない」という言葉とともに、以下のように書かれています。

ジャワ島中部のバントゥル病院では、ユニセフのブライアン・スリプラハストゥティ医師が、災害が起こった時に母乳育児を止め粉ミルクを使うことが子ども達の健康にどれほどの影響を及ぼすかを目の当りにしました。彼がいうには、生まれて間もない赤ちゃんは免疫力の低下や、汚れた水に溶かして飲んだ粉ミルクが原因の下痢によって脱水症状を起こしているということです。

その栄養担当官は、衛生状態の悪さを次のように説明しています。

衛生環境が悪く、清潔な水が手に入りにくい状態です。女性が調理のためにお湯を沸かしたり、皿を洗う場所もありません。
(中略)
このような環境で調理されたものを食べると、子どもたちの健康状態は悪化しやすくなります。

調乳だけでなく調理あるいは水浴びなどを介しても感染症は起こるわけですから、この状況で必要なのは調理や調乳に清潔な水を使うこと、それが答えではないでしょうか。


粉ミルクを支援することが悪いのではなく、清潔に調乳できないことを改善すればよいことです。


レバノン、きれいな水も配給できるのに>


「レバノン帰国報告会『紛争が子どもたちに残した傷跡』」では、粉ミルクと母乳推進について書かれています。

しかし、粉ミルクは適切なものではありません。粉ミルクを作るのに必要なきれいな水、水を温めるための燃料の確保が被災地では非常に難しい。

ところがユニセフが「きれいな水」の配給を行っていることも書かれています、

きれいな水の確保という点では、すべての家族に1人分1日1.5〜2ℓ分のボトル入りの水を配っています。また、このボトルに不発弾に関するポスターと同じ内容のラベルを貼って、不発弾の啓蒙を同時に行っています。

清潔な水の配給ルートがあるのなら乳児のいる家庭には少しだけ多く水を配給して、沸騰させなくても清潔な水で調乳することも可能であること、哺乳ビンと乳首はよく洗うことを啓蒙すればよいのではないかと思います。


ユニセフは2万人の子どもに「石けん・おむつ・タオルなどの子ども衛生キット」も配給しているようです。水がない地域に水が必要な手を洗うためのキットなのですから、同じように哺乳ビンをきれいにするキットも配給可能ではないでしょうか。


ユニセフは母乳によって赤ちゃんに栄養を与えることを推進しています。
母乳はきれいな水や温める必要もなく、消毒をする必要もありません。簡単かつきちんと栄養が確保できるため、このような状況下では母乳を推進することが非常に重要です。

現地の女性は、この説明をどう受け止めているのでしょうか。



そして液状乳児用ミルクなら、同じく「きれいな水も温める必要もなく、消毒をする必要もない」ものです。
災害直後などの混乱時には、本当に助かることでしょう。
もしかしたら、1970年代に母乳推進運動による粉ミルク不買運動が活発化した頃はまだ、この「清潔な水も消毒もいらない」母乳を越える製品が登場するとは考えていなかったのかもしれません。




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