行間を読む 57 <新生児と血糖チェック>

毎日新聞の記事 「母と乳 第3部 生後のリスク/医療者の適切な介入を」の中で、血糖値について書かれた部分があります。


 異変は生後3日目に起きた。唇を紫に変色させ激しく泣く次男に看護師が気づいた。診察すると、生後42時間で1デシリットルあたり40ミリグラム以上が目安とされる血糖値が、0〜1ミリグラムに落ち込んでいた。


出生当日の新生児で、血糖値が20〜30mg/dlであわてて周産期センターに搬送した経験はありますが、「0〜1mg/dl」というレベルになることがあるのかと正直、驚いています。
そして、そんな極度の低血糖で「激しく泣く」ほどの力があるのかと。


それはさておき、ここを読んで思い浮かんだのは、「そうだ。40mg/dl未満を測定できるようになったのは、たしか1990年代後半だった」ということでした。


当時、勤務していた産科病棟では、小児科管理になる新生児も観ていました。
低血糖になっていないかチェックをするのは大事な観察項目でしたが、まだ成人用の測定器しかなく、最低ラインが40mg/dlまでしか測定できなかったのでした。


その後、いつ頃からでしょうか。
新生児の低血糖をより正確に測れる血糖測定器が出て、20mg/dlとか30mg/dl台もわかるようになったのでした。


<血糖測定器とは>


新生児の血糖を病棟で簡単に測定できるのは、簡易血糖測定器が開発されたからです。


新生児の足の裏を細い注射針で刺すと、ポチっと血液がでます。
そのほんのポチっとでた血液を専用の試験紙に擦りつけるだけで、血糖値が出ます。


その血糖測定値が進歩した背景には、成人の糖尿病患者さんの自己測定の広がりがあります。


「糖尿病ネットワーク」というサイトに「血糖自己測定30年ースタートから30年、健保適用から20年ー」という記事がありました。

 昭和30年代から40年代、当時の1型糖尿病インスリン注射療法、中間型インスリン1日1回注射というのが主流であり、在宅ケアでのセルフチェックは尿糖検査に依存していました。まだHbA1Cのない時代で、血糖コントロール状態の把握は唯一受診時の空腹血糖値でした。その結果は、罹病歴が10年を経るころから糖尿病合併症の進展がみられ、1型糖尿病の予後には暗雲が垂れ込めていました。この暗雲を取り払う手段として簡易血糖測定器(デキスター)による血糖測定が導入されたという訳です。

 それ以降、今日までインスリン注射療法を絶対的適応とする1型糖尿病を中心に、インスリン注射療法が必要な2型糖尿病についても、血糖自己測定は必須のコントロール手段とされてきています。この間、血糖自己測定をスタートさせて10年目の1986年、大方の予想を上回るスピードで血糖自己測定はインスリン自己注射指導料に加算する形で、健保適用を得て本年は満20年を迎えています。


たしかに、1980年代後半になると、病棟にもこの簡易血糖測定器が置かれるようになりました。
1980年代初頭に看護師になった頃は、まだ使われていなかった記憶があります。
こういう歴史があったのですね。


これは2006年の記事なのですが、それにしてもまだわずか30年程なのか、と。


そして新生児のために更に低い測定値までわかるようになって、約20年といったところです。


今はどこの産科施設でも、小さな測定器があることでしょう。
大きさは、iPhoneの半分ぐらいです。


同じサイトに、「インスリン注射と血糖自己測定25年」という記事があり、最初の簡易血糖測定器について書かれています。


そう、「デキスターチェック」と簡易血糖検査を呼んでいたのですが、これはこの登録商標なのですね。

 このような中で、アメリカのマイスル社(エームムス事業部)によりdry chemistry systemという簡易血糖測定法が開発されました。ここで用いられた試験紙はデキストロステイックスと名づけられ、色調を測定する専用の分光輝度計としてエームスリフレクタンスメーターが考案された。かなり大型だったこの機器は1974年小型化され、Dexter(デキスター)として発売(13万8000円)され、これが簡易血糖測定を実用化させるに至った。


わあ、1970年代の13万円ですから、かなり高額だったのでしょうね。


今、気軽に新生児の血糖を測定できるには、やはり気が遠くなるような歴史があったのだと思います。




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