散歩をする  129 日野台地と清流

東京は西へと細長い形で広がっていますが、案外、正確にその地形を理解していないままです。

西の方は山が多いことはわかるし、だいたいの鉄道路線とその駅がどこにあるかも思い浮かべられるのですが、地形を連続して思い描けないのです。

先日のように秋留台地から草花丘陵が、ようやく秋川や平井川の流れに沿ってできた地形であることが少しわかりました。

 

多摩川の左岸に広がる武蔵野台地は、その東の方の複雑な舌状台地をこれまでも散歩してきたので、だいぶ頭の中でその地形図を描けるようになりました。

 

ところが、多摩川右岸になるとかなり私の頭の中の地図は怪しくなります。

以前、行った場所でさえ、その地形を思い浮かべられない場所ばかりですが、その中でもずっと気になっていたのが日野駅豊田駅周辺でした。

1990年代にその地域を行き来することがあり、日野駅周辺は急な坂道を登ったところに実践女子大学のキャンパスがあり、また市内のあちこちに清流の流れる小さな水路があったことが印象に残っていたのですが、その二つが繋がってはいませんでした。

豊田駅は駅北口から急に上り坂になって、「山への入り口」の駅なのかと当時は思っていました。

 

「東京湧水 せせらぎ散歩」の中に「日野台地」があります。

それを見て、この地域の地形と記憶が繋がりました。

坂道は「山」へ続くのではなく「台地」へと登っていたこと、その台地からの湧水があの清流の源であったことです。

 

この目でそれを確認しようと思い、中央本線に乗ったのでした。

 

黒川清流公園*

 

地図で見ると、豊田駅の北口のあたりから線路に沿うように日野方面に向かって細長い公園があります。それが黒川清流公園です。90年代に行き来していたときには気づきませんでした。

 

さて、豊田駅の改札を出てまず驚いたのが、改札から北口へ出るためには階段をまた登ることでした。

豊田駅の「駅構造」に、「橋状駅舎を持つ。崖線に沿って立地しているたため、崖下面になる南口へは自由通路の階段を下り、崖上になる北口へは自由通路の階段を上って外へ出る」と書かれています。

この「崖線に沿って立地している」という一言だけで、いまでは周辺の地形や水の流れが見えてくるようなのですが、当時は本当にまったく気づかなかったのでした。

 

ああ、これは素晴らしい湧水に出会うに違いないという期待が高まります。

 

駅を出て線路沿いに急なくだり坂をおりていくと池があり、「東京都水道局 多摩平三号水源」とありました。もうこれだけで感激していたのですが、しばらくいくと左手の急斜面に沿って雑木林が広がり、そこが「黒川清流公園」のようです。

道なりに一度、崖の上まで雑木林を歩き、歩道に沿って崖下まで降りると、そこには別世界が広がっていました。

 

崖の下から何箇所も湧水が湧き上がり、小さな流れから池になり、そして崖下の水路へと流れ込んでいきます。

あちこちから水の音が聞こえてきました。

 

日野台地の湧水は浅川側の段丘に多く見られ、その代表が黒川清流公園とその周辺、豊田駅北口から右手に少し下ると、清水谷公園、山王下公園、同公園前緑地の湧水が続き、路地に水音を響かせている。しかし、これは序の口。黒川防災広場の先に約500メートルにわたって続く黒川清流公園には、「あずまや池」「花の広場(旧果樹園下)」「わきみず池」「清流広場」付近をはじめ6~7ヶ所の湧水があり、名前の通り清流をかたちづくっている。いずれも雑木林の崖線裾に湧き、池や水路に注ぐ。あずまや池の脇にはワサビ園(民間)もある。繁華街の近くにこれほどの湧水群があることは実に素晴らしい。

(「東京湧水 せせらぎ散歩」)

 

水路をのぞきこむと小さな魚がたくさんいて、私の気配に驚くような素早さで水底に隠れるのでした。

 

裏山からこんこんと水が湧いていた小学生の頃の秘密基地にタイムスリップして、一瞬、自分がどこにいるのかを忘れそうでした。

 

 

*「中央図書館下」*

 

その本には、もうひとつ「中央図書館下」が紹介されています。

豊田駅の中の通路を通り、今度は階段を降りて南口へ出ます。2〜3分も歩くと、浅川の河岸段丘と思われる少し急なくだり坂が始まる場所がありました。

この周辺に違いないと確信したとおり、水路があったのでそれをたどると、図書館の下に出ました。

図書館の裏が高さ数メートルぐらいでしょうか崖になっていて、その裾のあちこちから水が湧き出ていました。

日野台地は中央線豊田駅の南東400メートル付近で、浅川に向かってもう一段落ち込む。日野市立中央図書館下の湧水はこの崖線に位置する。図書館の裏手、丸太で防護された 崖下奥に最も多く湧き、道路下を横断した流れは音を立てて水路を駆け下る。このあたりから北東方向に弧を描いて続く崖線には、幾つもの湧水が点在し、清流の水路があちこちにある。

(「東京湧水 せせらぎ散歩」)

 

 

日野駅の「歴史」に書かれている「『多摩の米蔵』と称された日野」という箇所を読み飛ばさずにすんだのも、実際に散歩をして地形を理解できたからかもしれません。

 

 

 

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