正しさより正確性を 17 「乳頭混乱」と 因果関係

たぶん20年前の私なら、乳頭混乱という言葉が「専門書」に書かれていたら、そのまま使っていたと思います。

経験上とはなんか違うなと思いつつ、医師も参加している本ですし、新しい治療法や新しいケアに乗り遅れてはいけないと結構勉強熱心でしたから。

 

それまではあまり疑うこともなく自信に満ちた経験や思考に圧倒されていたのに、だんだんとつじつまの合わない話に見えてきたのが10年ほど前のこと。

そこで出会ったのが、「個人的体験談は効果を示すものではない」「相関関係と因果関係」といった言葉でした。

 

恥ずかしながら、10年前に初めてkikulogというサイトに出会って初めてエビデンスの意味とその背景にある考え方や手続き方法について考える機会になりました。

 

医療に限らず、日常の生活ではあんがいこういう「科学の考え方の基本」を学び続ける機会が少ないのかもしれません。

 

*「こうすればうまくいった」「こうだからうまくいかない」因果関係を単純化

 

たとえば生まれて2〜3日の間、おっぱいに吸い付かずギャン泣きしていた新生児が、生後3日目ぐらいから急に吸い付くようになることはしばしば体験します。

これだけでも、哺乳瓶を使ったからといって「乳頭混乱を起こした」「哺乳瓶に慣れた」と言えるわけではないと思うのですが、スタッフも漠然とした不安があるのでしょう。

 

スタッフがその「事実(現象)」をどのように判断しているかは、勤務交代時の申し送りでだいたい想像できます。

 

ラッチオンとポジショニングを修正したら吸えるようになりましたは、そのひとつ。

確かにそれで改善する場合もあります。

生後2〜3日の新生児というのは浅めにクチュクチュと吸うことが多いので、少しでも巻き込み方が浅くなると外れてしまい、大泣きしてしまう場合です。

ただ、それもほんとうに「浅く吸っていたから外れてしまったのか」あるいは「新生児自らが浅く吸いたかったのか」「吸わずに他の理由でギャン泣きしているか」は、誰にもわかりません。

ちょっと授乳の姿勢を介助した時期と、その赤ちゃんが急に深く吸い始める時期がたまたま一致した可能性が高いとも言えるかもしれません。

 

ただ、生後2〜3日あたりは、ちょっとうまくいったかなと思っても、また吸い付かなくなったり、反対に何も手伝わなくても吸い付いたりというタイミングが多い時期です。

吸い付かずに泣き続ける新生児とそのお母さんには、スタッフもびっちり側について吸わせる訓練をしますから、吸い始めるようになると「訓練したから赤ちゃんが上手になった」と見えるようです。

これもたぶん、「赤ちゃんは前半はあまり吸わずに、後半になると吸い付くタイミングがある」と見方を変えてみれば、その訓練はやってもやらなくても同じだった可能性があります。

 

それでもなかなか吸い付かずに泣く赤ちゃんがいると、「お母さんの乳頭が扁平だから」「お母さんの抱き方が下手だから」「お母さんが根気がなくてすぐにミルクを足すから哺乳瓶に慣れてしまった」あるいはまたぞろ舌小帯が短いからという話が復活してくるのでしょう。

 

新生児が刻々と変化していることがなかなか言語化されないから、「もう少し待てば新生児も変化する」という発想にならないのかもしれません。

 新生児の生活史もまだわからないのに、「××だからうまくいかない」と因果関係を単純に判断しようとしてしまいがちです。

その辺りが「乳頭混乱」という言葉のでどころだろうと推測しています。

 

 

新生児期は数時間のちがいでも刻々と変化していますから、同じ新生児に「それをした場合としなかった場合」を比較して、科学的な考え方の基本である「再現性」を調べることは不可能に近いのかもしれません。

ただ、生後すぐから1ヶ月ぐらいまでの新生児を何千人、何万人と見ているうちに、おおよそのパターンが見えてきたり、反対に「こんなこともあるのか」というまだまだ経験したことのない状況に遭遇することもあります。

 

 

だから、答え(原因や効果)を単純化しないで、観察をし続ける。

 

そういう姿勢を医療や日常生活の中で考える機会がなかったと、時々、以下の3つの資料を読み直しては頭の整理をしています。

「ニセ科学とつきあうために」

「現代を生きるための科学リテラシー(ニセ科学問題と科学を伝えることなど)」

「中高生のための「だまされないための科学リテラシー」」

 

 

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