記憶についてのあれこれ 168 バーベキュー

3年ほど前、久しぶりに鎌倉の材木座海岸へと海を見に行きました。

泳ぐには早い季節なので、さすがに人は少ないだろうと思ったのですが、海岸に近づいたところでバーベキューの独特の匂いがし始めました。

 

焼いているそばでは「おいしそうな香り」ですが、少し離れると油と煙との混じった独特の香りです。

海岸についてびっくりしました。

まるで海水浴シーズンのように人がいて、ほとんどの人がアウトドア用のセットを持ち込んでバーベキューをしていました。

白い煙が一帯に立ち込めていました。

ちょっと現実感を失うようなシュールな光景に感じて、早々に海岸を離れました。

 

あの時以来、「いつから日本にはこんなにバーベキューをする人が増えたのだろう」と記憶を整理しようと思いつつ時間がすぎてしまいました。

 

 

*たぶん、日本では1990年代のアウトドアブームから*

 

子どもの頃の60年代70年代もバーベキューという言葉は知っていた記憶がありますが、キャンプとか年に何回どころか人生で何回するかぐらい、非日常の機会だったような気がします。

 

私が初めてバーベキューをするようになったのが、1980年代半ば、東南アジアで暮らした時のことでした。海辺でのバーベキューに時々行きました。

難民キャンプで働く現地スタッフと外国人スタッフの交流という感じで、その日は朝から材料を仕込んだり、飲み物を調達したりしてワクワクしながら出かけました。

歩いてすぐのところにも美しい海岸が広がっているのですが、車で街から離れた海岸や、時には漁村で舟の交渉をして無人島に行ったこともありました。

 

よくよく考えると、住んでいた街でも市場やレストランで普通に炭火での調理をしていたので、炭火で焼くことは特別でもなんでもないのですが、海を眺めながら自分が食べたいものを焼いて熱々のものを食べ、木陰に寝っ転がってのんびりする至福の時間でした。

人生でこんなに楽しい時間があるなんて、もう「竜宮城」からは出たくないという気分でしたね。

 

ビールもたくさん飲むのですが、大騒ぎしてはしゃぐ人はいなくて、静かに昼寝をしたり、だれかが静かにギターを弾いたりしていました。

 

80年代後半に帰国した時には、エスニック料理のお店もまだまだ珍しかったとともに、このバーベキューを日本で食べることは簡単なことではありませんでしたから、「もう一度あの海辺でバーべキューをしてみたい」という南洋幻想になりそうな感情を引き起こすことのひとつでした。

 

あれから40年近くたって、あちこちの山や渓流だけでなく都市河川のそばにまで、カラフルなテントやアウトドアグッズを広げてバーベキューをするひとたちで混み合っている風景に、なんだか浦島太郎のような気分になるのです。

 

1990年代のアウトドアブームあたりでじわじわと国内に広がったのでしょうか。

 

Wikipediaバーベキューの歴史に、「第二次世界大戦後、米国では木炭の不足により下火になったが、1970年代には再びバーベキューの文化が復活した」と書かれていました。

アメリカ人を始め外国人スタッフがバーベキューを好きだったのは、そんな時代の背景があったのかと、少しつながりました。

 

20年遅れぐらいでそれが日本に広がったのかもしれませんね。

 

 

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