行間を読む 168 轡塘(くつわども)

引堤を検索していたら、今日のタイトルの言葉に出会いました。

 

読み仮名がなければなんと読むのかも皆目見当がつかないのですが、「塘」については3ヶ月ほど前に弘前市の寺沢川についてミルラさんからいただいたコメントで、「つつみ」とも読み「堤防や土手のこと」と知ったので、治水に関係しそうな漢字だとイメージできました。

 

加藤清正による洪水制御法「轡塘」についてー浜戸川島田地先の轡塘を事例としてー」(大本照憲氏・矢北孝一氏)という、「土木史研究 第21号 2001年5月」の論文が公開されていました。

専門的なことは全くわからないのですが、「はじめに」を読むだけでなんだかまた世界が広がるような気持ちになったので書き留めておこうと思います。

 

 『明治以前日本土木史』によれば、乗越堤を日本で本格的に採用したのは加藤清正が最初であることを示唆しているが、乗越堤にも増して清正独特の洪水制御工法として注目すべきものに轡塘(くつわども)がある。轡塘は、川の一部区間を大きく拡幅させ、異常洪水時にはこの拡幅部に河道内遊水池としての機能を持たせたことが予想されているが、その流水制御機能について実証的研究はなされておらず、不明な点が多い。

 古文書によれば、轡塘は近世における肥後河川に対して一般的に用いられた洪水制御法であることが記されてあり、最も著名な物として緑川と御船川の合流部に築堤された桑鶴の轡塘がある。また、『明治以前日本土木史』には菊池川沿いの高瀬町(現玉名市)大橋より下流8ヶ所に轡塘があったとされているが、現在は全て撤去されており、場所の確認はされていない。

 比較的保存状態が良いものに浜戸川島田地先の轡塘がある。緑川の支流である浜戸川流域は、江戸時代には下流域で湾曲が甚だしく、勾配が緩慢で水位が12尺(3.6m)以上に達すると越水、破堤を繰り返す治水安全度の低い地帯であったことが記されている。そのため、文久2年(1862)に両岸の堤防を堅牢に修築したのであったが、同年の洪水により数十ヶ所において破損を生じた。そのため、当時廻江郷の総庄屋である石坂偵之助および取締役甲斐甚九郎は、治水策を案じ水位10尺(3m)に達すれば越水可能な石造乗越堤を3ヶ所設けたとされている。以上のように、肥後熊本では江戸時代を通じて轡塘を多用していたことは文献等から推察され、現存する桑鶴の轡塘や島田地先の轡塘は貴重な遺構であり、また轡塘内の遊水池は生物の生息環境として良好な場所ともなっている。

 肥後伝統的河川工法である轡塘を、歴史学的考察に加えて河川工学的立場から実証的な機能評価を行うことは、今後の河道計画に活かす上でも、また遺構の価値を将来に伝承する上からも重要な事であると考えられる。

 本論文では、菊池川、緑川および浜戸川における轡塘の歴史的経緯を調査するとともに、浜戸川島田地先の轡塘を事例として、轡塘の治水機能を検証するために縮尺1/150の水理模型実験を実施し、轡塘による流れおよび流砂の制御機能について検討を行った。

 

 

なぜ世界が広がったような気持ちになってこの「はじめに」に引きつけられたのだろうと考えていたのですが、まずあの加瀬川、緑川と浜戸川が流れこむあの複雑な水色の場所の治水の歴史が言及されていたからでした。

 

そして加藤清正というと戦国時代の武将くらいしか思い浮かばなかったのですが、その時代の治水利水とつながると俄然、その人物にも関心が出てきました。

「明治以前日本土木史」という資料があるようで、日本史を土木史から学び直したら見えてくるものが違ってくるかもしれない。知識というのはいろいろな方向があるものですね。

 

さらに、その緑川に御船川が合流する場所には桑塘が遺っているようです。

地図ではなんの変哲もない川合に見えますが、有体に言えば「一つとして同じ川合はない」とでもいうのでしょうか。

そこを歩いてみたくなりました。困りましたねぇ。

 

もう一つ、この文章の中には「失敗」も記録されていたことです。

文久2年(1862)に両岸の堤防を堅牢に修築したのであったが、同年の洪水により数十ヶ所において破堤を生じた。

 

放水路の完成を待たずして狩野川台風の被害が起きたことや二度の大津波の後に強固な堤防が造られたもののそれも飲み込むような津波に襲われた田老など、無念の一言では言い尽くせない災害の歴史があちこちに残っていることを知る機会が増えました。

 

とうてい人の力には及ばないことに立ち向かい、少しでも安全に生きる場所を作る。

「失敗」というのはその試行錯誤の過程とでもいうのでしょうか。

 

数百年前の人には水害はどのように目に映ったのでしょう。

そこから「轡堤」という発想がどのように出てきたのでしょうか。

 

 

「行間を読む」まとめはこちら

失敗とかリスクについての記事のまとめはこちら