2023年10月中旬、いよいよ牟呂用水と豊川用水、そして豊川の霞堤の地域へと出かけます。
早朝テレビをつけたら、なんと新幹線の番組を放送していました。1960年代のあのまる鼻の新幹線がまだ沿線に何もない地域をずっと通過していく空撮映像で、河川の土手もまだ整備され始めたばかりのようです。
今ではあたりまえの空撮ですが、「空からの風景をみたい」という願いが少しずつ叶えられた半世紀前でした。
これから新幹線に乗るのに、なんとふさわしい時間でしょう。
残念ながら家を出た時には雨でしたが、西へと向かう間にお天気になりそうです。
6時37分品川駅発のこだま701号に乗りました。出発するとまた車窓の風景に集中です。
沿線の田んぼはほぼ稲刈りも終わっていましたが、新丹那トンネルを抜けてすぐの函南(かんなみ)のあたりは稲穂が残っていました。
一度歩いて懐かしい場所が沿線に増えました。見逃すまいと集中しているうちにあっという間に天竜川を越え、雨空と晴れた空の境界線のダイナミックな風景を過ぎました。
こだまの旅の楽しいところは、途中で何度も通過待ちで停車することですね。普段見落としそうな駅の風景が目に入ってきます。
8時35分に豊橋駅に到着。1日目は渥美半島の先まで豊川用水東部幹線水路を追って歩く予定です。
豊鉄渥美線に乗り換えました。2019年に初めて渥美線に乗った時には干潟の方ばかりを眺めていたので、沿線は平坦な地形の記憶しかありませんでした。
今回はなぜこの地域に豊川用水ができたのかという関心から、以前は目に入らなかった起伏や低い高台の地形に気づきました。
その高台の向こうは遠州灘ですが、そちらの方にはまだ黒っぽい雨雲があるのが見えました。
*豊川用水東部幹線水路を感じながら歩く*
渥美線豊島(としま)駅で下車し、駅から2~3分のところにあるぐるりんバスの「高橋タバコ店バス停」に向かいました。
小高い場所に感じましたが、近くの電柱には「海抜7m」と表示されていました。
10分ほど待つとワンボックスカータイプのコミュニティバスで、私一人が乗客のようです。
豊川用水東部幹線水路は渥美半島の南側の海岸線に沿って通っていますが、このバス路線の西赤山バス停で下車すると、その近くに行けそうです。
ぐるぐると畑や集落を回っているうちに、地図で計画していた時の距離感が違っていることとかなり起伏が激しい地形であることから予定よりも歩くのに時間がかかりそうだと気づき、急遽計画を変更してひとつ手前の長仙寺バス停で下車することにしました。
南へと歩き始めると、地元の方から「こんなところをどこに行くの?」と尋ねられました。「(えっ、「こんなところ」ってどんなところだろう)」とちょっとびびりましたが、もう歩くしかありません。
なぜか道に小魚が落ちていました。
鳥が近くの川でとった魚をくわえて飛んでいるうちに落としてしまったのでしょうか。
県道503号沿いの畑が続く道を歩くと、小さな川がサイフォンになっている場所がありました。
地図ではこの「西ノ川」地区で豊川用水東部幹線水路が西へと通っている場所ですから、その下をくぐるためのサイフォンかもしれません。
このあたりで水路に近づいてみようという期待は外れ、県道の周囲は起伏のある森ばかりでした。
その小さな川の流れに違和感を感じて、すぐに地図で確認しました。
あと数百メートルで渥美半島の南側の遠州灘になる場所だというのに、川は北の三河湾へと流れていました。
渥美半島は想像していたより低い丘陵地帯だったのですが、しばらくすると国道42号線にぶつかり、海岸線が自然堤防で高い場所であることを感じました。
蟹の腕のような半島は内側へと向かって低くなり、川もまた腕の外側から内側へと流れているようです。
*近づくのを許さない豊川用水東部幹線水路*
10時に六連(むつれ)交差点に着いて、ここからは南西へとただひたすら国道42号線沿いに豊川用水東部幹線水路沿いを歩く計画でした。
地図では東部幹線水路がところどころ途切れながら、国道に並行して通っています。
起伏が多い地形を想像できましたが、水路のそばには道が描かれていますからどこかでそばへと近づいてみようという計画でした。
左手の遠州灘は自然堤防の高台になり海の気配もありませんが、トンビが私の上を旋回し始めたのでやはり海が近いようです。
右手はやはりまた高台で、その間の国道42号線の沿線に少し平地が広がっていました。
途中で「海抜37m」とありましたから、渥美半島は南側に行けば行くほど高くなるようです。
その右手の高い場所に柵が見えました。
どうやらその中が目指していた豊川用水東部幹線水路のようです。ここで、水路に近づくことは時間的にも地形的にも今回はほぼ不可能だろうと確信しました。
ずっと畑が続いていますが、よくよく見ると畑のそばにまるで田んぼのように水栓があります。
おそらくこれもまた豊川用水からだろうと思うと、ちょっと元気が出てきました。
10月中旬ですが30度近くになり、日差しも強い中、日傘をさしてただひたすら右手の豊川用水の気配だけを感じながら田園地帯を歩きます。
百々(どうどう)という交差点のあたりで、ふと金木犀の香りがしました。そういえば今年はほとんど金木犀の香りがないまま9月が過ぎたのですが、猛暑のためにようやく咲き始めたのかそれとも「金木犀は2度香る」だったのでしょうか。
白っぽい土が続きところどころに油椰子の風景に、どこからかニワトリの鳴き声も聞こえてきます。暑さの中で意識が朦朧として東南アジアを歩いているかのような錯覚に陥りました。
予定では高松バス停から11時53分のバスで保美に向かい、そこからさらに渥美半島の先端近くの干拓地を歩く予定でしたが、とてもとても間に合わないことがわかりました。
時間を計算しながら計画したのですけれど、やはり渥美半島の3分の1ぐらいを歩くのは無謀でした。
国道をまっすぐ歩くだけでも時間切れなのに、高台を通る豊川用水に近づくのは無理でした。
すでに15500歩を越えていますし、体力的にも無理そうです。
コンビニエンスストアのイートインで休憩し、計画を変更することにしました。
豊川用水路をこの目で見ることはできなかったのですが、どのような地形だったのかわかりましたし、今のこの風景の背景にある一世紀前の計画の存在を感じることができました。
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